2015/06/09

止まった時計 麻原彰晃の三女・アーチャリーの手記

オウム真理教の起こしたサリン事件や、その他諸問題について考えるきっかけとなる本。麻原彰晃の三女アーチャリーこと松本麗華。特徴のあるオウムの衣装とカメラにあっかんべーした少女と言われれば思い出す人もいるだろう。
その本人による手記である。内容は大変に重い。しかし一気に読み進めることができる。また、色々な角度から物事を見たり考えたりすることの大事に気づかせてくれる本でもある。

複眼思考を養う

この本を読んで驚くのは、まず日本中が憎んで忌み嫌っている麻原彰晃を著者が「父」と言い切っていることだ。それもただの父ではなく、優しい父なのだ。今でも地下鉄サリン事件やオウムの一連の事件のことがニュースになると、麻原彰晃の映像が流れることはあるだろう。
その映像を見た時の大抵の人の反応は「気持ち悪い」とか「このやろう」とかいった反応で、それは事件の真実を知らない人が、マスコミの作ったイメージにのっかり、何も考えず反射的にそう感じている反応だろう。そんな反応をされる麻原彰晃が著者にとっては優しい父であり、その「父」に対する姿勢が最初から最後まで一貫して変わらないのだ。
日本史上最悪の凶悪犯罪の首謀者とされる人物をそう感じている人がいるという事実に、先ず驚く。

そして驚くと同時に、そういう見方をする人がいることを知らなかったことに対して、自分の見識の狭さを感じるだろう。
中国の南シナ海埋め立て問題、韓国の排日外交などのニュースがあるたびに、一方的な感情だけで反応している人は多いのではないだろうか。
しかし、自分の立場だけから物事を見て感情的な反応をしても、何も物事の解決にはならない。まったく逆の立場や視点から物事を見ている自分を想像する。
あるいは実際にそういう訓練をすることで、冷静に事態を判断できるようになる。

こういう考え方はビジネスでも役に立つ。営業の提案でいつもうまくいかないなら、それは自分の伝えたいことを一方的に話すだけということに気づいていないからかもしれない。
お客さんの気持ちを想像して、お客さんの言葉で営業すれば営業の確度は上がるだろう。

また、この本で読者は国家に敵として認定された者の運命、マスコミに追い回される日々を追体験できる。

賛否があるのは当然

こういった本の内容であれば賛否があるのは当然だろう。まったく受付られないという人がいてもおかしくない。
特に最終章にある地下鉄サリン事件に対する仮説はなかなか大胆だ。議論を呼ぶ内容だけに、それにひるまず意見を表明する著者の勇気は素直にすごいと思う。

死刑囚となった麻原彰晃に著者は本当のことを知りたいと面会するが、著者の父親は病気のため廃人同様になってしまった。今となっては真実を知る術はない。著者にとってオウムの信者たちは幼い頃から家族同様に過ごした大事な人たちである。
その多くが死刑判決となり、あるいは刺殺され、あるいは行方不明となってしまった。そしてその時間は二度と訪れない。運命に翻弄されるこの重い現実を前に、著者の投げかけるメッセージを読む人はどう感じるだろうか。

このブログの筆者

早川朋孝
早川朋孝
ネコ好きな読書家。
月一冊は専門書を読むのが目標。年間読書計画はだいたい決まっているが、だいたい横にそれるのが悩み。好きな作家は塩野七生さん、佐藤優さんなど。タバコ嫌いで、ちょい右寄りです。

仕事はウェブが専門。学生の頃よりウェブ制作に従事し、CMSの提案やアクセス解析が得意。上場企業や、東京オリンピック関連サイトなど大規模ウェブサイトのプロジェクトを多数経験。仕事のウェブサイトはこちら
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