2015/07/02

胡椒 暴虐の世界史

胡椒は我々の日常に欠かせない食卓の友人だ。刺激的で香ばしいスパイス「胡椒」。この魅力的で小さな黒い粒を求めてヨーロッパ人は海に出た。そこから帝国主義、資本主義という近代に直結する思想が生まれる。胡椒とヨーロッパ人が結びついて世界中が変化したのだ。

大航海時代、胡椒はインドで買えばただ同然のスパイスだった。それが何十もの仲介者を経てヨーロッパで購入者の手に届く頃には、天文学的な金額にまでなったのだ。
なぜそこまで胡椒がヨーロッパで求められたかというと、肉食のヨーロッパ人は、肉の保存に胡椒を使うことを好んだためらしい。
保存料として塩だけでは肉に臭みが残るので、胡椒その臭みを消すものとして、屈指の人気を誇ったらしい。

胡椒の人気が上がれば上がるほどに、胡椒をなんとかしてインドからヨーロッパに運ぼうと考える人が増えた。ヨーロッパ人は競って海に出て互いに競い合い、少しでも早く、少しでも多く、少しでも遠くへ、胡椒を運べるように競争した。
この3つの「少しでも〜」を実現するために、取れる手段は全て取った。競争者がいれば殺し、胡椒の栽培面積が少なければ増やし、船の積載量のために大型の帆船を作り、取引額を増やすためにオランダ人は胡椒をふやかして水増しした。

胡椒は生存に必須のものではないが、西洋人の利益のためにスマトラ人は米の栽培地を減らしてでも胡椒の栽培を強要された。その結果スマトラでは飢餓と人口減が起きた。人口が減ると胡椒を栽培する人も減る。
目先の胡椒の取引量を増やすためにとった手段で、結果的に胡椒が減ってしまったこともあっただろう。無謀の道を突き進み、自分で自分の首を締めたのだ。

本書の内容を勉強すればギリシャの問題を読み解ける

こういった暴虐の歴史は遠い過去のものではない。現在世の中で起きている様々ことが、この本で書かれている内容を元に説明できたり、あるいは現代が本書で描かれた世界の延長にあることが分かる。
例えば、ドイツはギリシャに対して債権の1ユーロたりとも放棄しないという姿勢で臨んでいる。

大航海時代、船をインドに出すのには膨大な資本が必要で、王様や富裕な貴族がパトロンとなり船長を支援し、船乗りを雇った。パトロンは自分が儲けるために金を貸すのであり、それ以外の動機でパトロンになることは絶対にない。
船長や船乗り、特に身分の低い船乗りは奴隷のごとく厳しい労働を強制された。やがてこういった弱い立場から自由と財産を求めて海賊が生まれてきた。

パトロンをドイツ、船長をギリシャと置き換えて考えてみるとどうだろうか。債権を放棄しない強欲なドイツ、どう考えても返せない金を貸し与えられたギリシャ。
ドイツが強い姿勢を崩さない限り、ギリシャはかつての海賊のごとく反抗し、ギリシャは無法地帯になるかもしれない。結果としてユーロの理念は崩れ、ドイツ自身が苦労をすることになる。

本社は読み物として純粋に楽しく、特にイギリスのインド進出、オランダ東インド会社によるインドネシア経営の実態、当時の航海の過酷さなどがかなり詳しく描かれていて読み応えがある。

胡椒 暴虐の世界史

著者:マージョリー・シェファー ▼著者は米国の新進ライターで、ニューヨーク大学医学部専属サイエンスライター兼編集者。 原題=PEPPER(栗原泉訳、白水社・2400円)

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このブログの筆者

早川朋孝
早川朋孝
ネコ好きな読書家。
月一冊は専門書を読むのが目標。年間読書計画はだいたい決まっているが、だいたい横にそれるのが悩み。好きな作家は塩野七生さん、佐藤優さんなど。タバコ嫌いで、ちょい右寄りです。

仕事はウェブが専門。学生の頃よりウェブ制作に従事し、CMSの提案やアクセス解析が得意。上場企業や、東京オリンピック関連サイトなど大規模ウェブサイトのプロジェクトを多数経験。仕事のウェブサイトはこちら
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