2015/10/19

なぜネット社会ほど権力の暴走を招くのか ジュリア・カジェ

メディアと出版社の劣化が著しいと言われるようになって久しい。2014年の朝日新聞騒動、嫌韓&日本礼賛本や簡単なハウツー本ばかり出す出版社。
今我々が生きている環境がこういった状況であるのだから、自分が接する情報はよほど意識して選ばないと質の悪い情報に埋もれることになる。17〜18世紀のドイツの哲学者ショーペンハウエルはこう言っている。

良書を読むための条件は、悪書を読まぬことである。人生は短く、時間と力に限りがあるからである。

そう、悪い情報には触れないことが肝心なのだが、そもそも情報源たるメディアが劣化しているのだから始末が悪い。そんなメディアの劣化はなぜ起きたのか。フランス人のジュリア・カジェ著の「なぜネット社会ほど権力の暴走を招くのか」はメディアの劣化を経済学の観点から分析した本だ。

紙面見直しで文字が大きくなる理由

毎年4月になると紙面見直しのため文字をより見やすくしました、という新聞のレイアウト変更がよくある。高齢化社会で年寄りが増え、文字が大きくなるのは見やすくていい、と思うかもしれない。
しかしこれ、情報量が減っていることを意味する。新聞の値段は据え置きだから読む文字が減っている場合、実質の値上げと同じである。以前、どこかのチーズメーカーが、16ピース入りの商品をピース数をそのままにして、各チーズのピースの大きさを10%くらい減らしたことがあった。
人間が近くできないくらいのわずかな差だから、買う人は気づかない。チーズメーカーは密かに値上げしたと批判されたことがあった。

新聞社が文字を見やすくという大義名分で字数を減少したのも、このチーズメーカーのやったことと同じようなものであろう。では、なぜ新聞社は扱う情報量を減らしたのか?それは競争の激化とIT化が原因らしい。

競争の激化

メディアの競争は激しさを増している。ITの進化がそれに拍車をかけた。インターネットの進化とスマホの普及で情報が伝わる速さに拍車がかかった。
なんらかのスクープ現場にいた人が、現場の写真をスマホで撮影してTwitterにでも流せば、世界中に広まるのに数分もあれば十分である。
だからメディアは情報を扱う速さをより競うようになった。以下引用。

ひとつひとつの「情報」は無限に転載が繰り返され、しかもたいていは、もとの情報そのままの形で公表される。一連の同じ映像を流し続ける24時間放送の番組はもとより、新聞社でさえ、自社のサイトに通信社の速報記事をできるだけ早く載せることに多くのエネルギーを費やしている。まるで、コピーアンドペーストされた速報のほうが、オリジナルの情報より大切なものであるかのような現状なのだ。

まっとうな新聞社なら、ある出来事に対して丁寧な解説をつけたりするのが当然だが、速さを競うが故に仕事が雑になったのだ。

IT化の推進

新聞の文字が大きくなった理由はそれだけではない。早く伝えるには新聞を刷るよりインターネットで情報を扱うことが重要である。そのために、ITを扱うことに長けた人材を増やした。雇える人材には当然限りがある。
IT人材を増やした一方で、記者は減った。だから文字も減る。こういうわけである。以下引用。

しかし、その代償は?限られた財源のもとでデジタル革命がおこなわれた結果、多くの新聞では、デジタル版は質の高い情報コンテンツを補完するものとしてではなく、それを犠牲にするものとして登場したのだ。

質の優れたメディアになってもらうには

我々には質の高い情報を発信するメディアが必要である。Googleの元CEOエリック・シュミットでさえ、「新聞、雑誌、そのほか紙媒体の企業経営はどうしてもうまくいってもらわないと困る。
なぜなら、われわれにはコンテンツが必要だからだ」と認めている。確かに検索対象となるコンテンツそのものがなければ、Googleといえど存在意義がなくなってしまう。しかし上述の通り、世の中の流れとしてメディアは劣化しつつある。
これに対する提案が「なぜネット社会ほど権力の暴走を招くのか」には書かれている。

その回答は「非営利のメディア会社」という形態だ。著者のジュリア・カジェは「財団と株式会社の中間の形態である」と述べている。

情報メディアは市場原理という唯一の原則を超えなければならない。なぜなら、利益を追い求める競争を始めると、第一の目的、つまり独立した質の高い情報を提供することを忘れてしまうからだ。はっきり言おう。メディアは上場すべきではない。

メディアが営利目的のためだけに存在するなら、悲劇的な結末を招くと警鐘する。すでに、そうなりつつある。
大資本家がメディアを買収すると、メディアはその資本家に都合の悪い情報を流さないようになるというバイアスがかかる。そうならないようにするためには、大株主の決定権を制限することだ。

その結果、世論を操作しようとする者や、私たちの意思決定や投票に影響を与えるような資金を持つ者によってではなく、情報をつくる側と消費する側による民主的な方法で、情報が所有されることになるだろう。

「なぜネット社会ほど権力の暴走を招くのか」は丁寧なデータ分析に基づく良書。今の安倍政権のように異論を封じ込めようとする日本社会で、メディアについて考えるにはぴったりの本。

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このブログの筆者

早川朋孝
早川朋孝
ネコ好きな読書家。
月一冊は専門書を読むのが目標。年間読書計画はだいたい決まっているが、だいたい横にそれるのが悩み。好きな作家は塩野七生さん、佐藤優さんなど。タバコ嫌いで、ちょい右寄りです。

仕事はウェブが専門。学生の頃よりウェブ制作に従事し、CMSの提案やアクセス解析が得意。上場企業や、東京オリンピック関連サイトなど大規模ウェブサイトのプロジェクトを多数経験。仕事のウェブサイトはこちら
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