2015/10/27

暴力の人類史 スティーブン・ピンカー

今日、我々は史上空前の平和な時代に生きている。こう言われたら、あなたはどう思うだろうか?

ニュースを見ると、ISの脅威は中東に広がり日本人二人が殺害されたとされる。昨日は日本のトルコ大使館前で乱闘騒ぎがあったばかり。
物騒な殺人事件は毎日ように報道されている。若い親が幼い子どもを虐待するのは日常茶飯事。アフリカでは少女が体に爆弾をまきつけられテロの道具にされた。

以上のようなニュースに日常触れている我々は、今日の世界は暴力に満ちているように思えるのだが、「暴力の人類史」ではこれが真っ向から否定される。いまだかつてないほど我々は平和な日常を生きている、と。
本書は上下巻合わせて1200ページに及ぶ大著で、今日の世界が暴力的でない証拠が様々な確度から列挙され、論証されていく。面白いのであっという間に読めてしまう。そしてこれほど科学的な姿勢を徹底した本も珍しいのではないだろうかと思う。

アメリカの教育現場ではドッジボールは暴力的過ぎるから禁止したほうがいいという理由で、体育でやらなくなっているらしい。親が我が子をしつけのためにおしりペンペンするのは虐待と見なされる。
ちょっと過剰なまでに、暴力や競走が忌避されている感がある。特に20世紀に入ってからこういった傾向は強くなっているらしい。ん?20世紀?ちょっと待った。20世紀は二つの世界大戦、ナチスのホロコースト、その他独裁者による大虐殺など大量の人が殺された時代だ。その20世紀が平和だと言うのだろうか?

確かに20世紀は悲惨な世紀だった。第二次大戦の被害者は歴史上もっとも死者が多かった戦争だ。西欧から始まった近代化によって人を効率よく殺す兵器が大活躍した。それでも著者によれば、昔からすると20世紀は平和な時代だったという。なぜそう言えるのか?

人口における殺害者の比率

それは比率だと著者スティーブン・ピンカーは言う。絶対数で言うなら20世紀の戦争の被害者は非常に多かった。それは間違いない。
しかし、人口あたりの殺害者を計算すると、その割合は中世以降確実に減少してきている。戦争だけでなく、日常の暴力行為などあらゆる統計データが掲載され、丁寧にそれを照明していく。参考までに本書で一番興味深いと思ったデータを、以下に一部引用する。

順位 出来毎 世紀 死者数 20世紀中盤の人口に換算 人口調整後の順位
1 第二次大戦 20 5500万人 5500万人 9
2 毛沢東(政策が原因の飢饉) 20 4000万人 4000万人 11
3 モンゴル帝国の征服 13 4000万人 2億7800万人 2
4 安史の乱 8 3600万人 4億2900万人 1
5 明朝滅亡 17 2500万人 1億1200万人 4
6 太平天国の乱 19 2000万人 4000万人 10
7 アメリカン・インディアン撲滅 15〜19 2000万人 9200万人 7
8 スターリン 20 2000万人 2000万人 15
9 中東奴隷貿易 7〜19 1900万人 1億3200万人 3
10 大西洋奴隷貿易 15〜19 1800万人 8300万人 8
11 ティムール 14〜15 1700万人 1億人 6
12 英領インド(防止できたはずの飢饉) 19 1700万人 3500万人 12
13 第一次大戦 20 1500万人 1500万人 16
14 ロシア内戦 20 900万人 900万人 20
15 ローマ帝国滅亡 3〜5 800万人 1億500万人 5

ジェノサイドやホロコーストという言葉は、そういった言葉が生まれた背景は、それを残虐な行為だと認識するようになったということらしい。
かつてはジェノサイドは権力者にとっては日常的過ぎてそれは罪な行為ではなかった。それが罪だと思われるようになった。つまり平和になってきているということ、と著者は言う。

「暴力の人類史」は今日の我々の世界は歴史上最高に平和。こんなことが書かれた希望の書だ。先日、母校の大学図書館に行って際、この本が置かれていた。
まだ誰も借りていないようだが、分厚さにめげず、若い学生に読んで欲しい。

ネットで見られる言葉の暴力

読後に感じたことがある。確かに平和な時代だと思うが、一方で、特にネットで言葉の暴力がかまびすしい。嫌韓の記事、極端な自国礼賛の記事、ヘイトスピーチなど、言葉が空虚でかつ極端に暴力的だと感じる場面がある。ぼくらの民主主義なんだぜを別の記事で紹介したが、真摯に考え、言葉に接することが大事だと思う。

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このブログの筆者

早川朋孝
早川朋孝
ネコ好きな読書家。
月一冊は専門書を読むのが目標。年間読書計画はだいたい決まっているが、だいたい横にそれるのが悩み。好きな作家は塩野七生さん、佐藤優さんなど。タバコ嫌いで、ちょい右寄りです。

仕事はウェブが専門。学生の頃よりウェブ制作に従事し、CMSの提案やアクセス解析が得意。上場企業や、東京オリンピック関連サイトなど大規模ウェブサイトのプロジェクトを多数経験。仕事のウェブサイトはこちら
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