2016/06/21

ミシェル・ウエルベック「服従」 異質なものにどう接するか考えたい

「ムルソーはある種の総合で、これ1つでいくつものワインを集約しているのです。そう思いませんか?」とイスラム教徒の大学教授が主人公に問いかける。この小説にはこんな会話が出てくる。他にもリュリーを一人で2本飲んだ話とかフランスワイン好きなら思わず反応してしまう面白さが随所に散らばっている。

しかし、これらはこの小説のおまけ要素で、主題は現代のヨーロッパ人、特に西欧人が何に怯えているかについて。この小説を読むとそれがよく分かる。フランス内のイスラム教徒が増えイスラム党が連立与党となり、フランスの主な機関が徐々にイスラム化されてくる。主人公はユイスマンスを研究するフランス人の大学教授。

最初はイスラム化に抵抗し辞職するのだが徐々にイスラム化に対する抵抗が薄れ服従していく。ムルソーについて問いかけるイスラム教徒の大学教授は主人公の上司なのだ。

英国のEU離脱の国民投票が近いが離脱派は難民、移民が仕事を奪うことを恐れているらしい。その移民とは、つまりイスラム教徒のこと。歴史をみると十字軍やレコンキスタなど、ヨーロッパは常にイスラム教徒と対立してきた。

この小説に描かれているイスラム教徒への恐怖もそういう延長にあるのだと思う。でも、最近当選したロンドン市長はイスラム教徒ではないか。ロンドンっ子のリベラルな気風がこの結果をもたらした。だから必ずしもヨーロッパ人はイスラム教徒との対立を恐れる必要はないと思う。ヨーロッパとアラブ世界の融和。そんな希望がわいてくる。

ただし現実は、英国でも日本でもアメリカでも大衆煽動的なポピュリズムが幅を効かせている。成長の望めない世界で不満をためた人は、分かりやすい敵を攻撃して鬱憤晴らしをしようとする。

つい最近、我々は一事が万事であるかのように都知事をひきずり下ろした日本メディアやネットを目撃したばかり。服従を読むと、異質なものにどう接するかについて考えるきっかけとなる。

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このブログの筆者

早川朋孝
早川朋孝
ネコ好きな読書家。
月一冊は専門書を読むのが目標。年間読書計画はだいたい決まっているが、だいたい横にそれるのが悩み。好きな作家は塩野七生さん、佐藤優さんなど。タバコ嫌いで、ちょい右寄りです。

仕事はウェブが専門。学生の頃よりウェブ制作に従事し、CMSの提案やアクセス解析が得意。上場企業や、東京オリンピック関連サイトなど大規模ウェブサイトのプロジェクトを多数経験。仕事のウェブサイトはこちら
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