2017/04/12

最後の資本主義 ロバート・ライシュ

まさかのトランプ大統領が誕生して早く数ヶ月。ここ最近はややおとなしいようだが、彼が大統領と決まったとき、「一体なぜこんな人が大統領になるんだ?」と思った人は多いだろう。ロバート・ライシュ著の「最後の資本主義(現原題:Saving Capitalism)」はそんな疑問に応えてくれる本だ。

本書はトランプ大統領の誕生の秘密を直接解き明かす本ではない。しかしこの本を読むと、なぜトランプが大統領に選ばれたのかよく理解できる。あなたも本書を読めば「自由の国アメリカってこんなに腐敗してたのか」と思うはずだ。本書で紹介されているアメリカの富裕層優先のルールはあまりに一方的だ。例えばアメリカのケーブル会社はこんな事情らしい。以下引用する。もし日本のネット環境がこんなだったらと思うとぞっとする。

2014年時点での米国のブロードバンド通信が、先進国の中で最も接続料金が高いのに、最もスピードが遅かったことについて考えてみよう。〜中略〜 インターネットを利用するには、ほとんどのアメリカ人は地域で独占的に営業しているケーブル会社に頼らざるをえないため、接続料金が高い上にサービスが劣悪なのだ。〜中略〜

ケーブル会社は資金豊富で、さまざまな政治力を持っており、「新興独占企業」の典型だ。彼らは独占を維持するために、年間数百万ドルものカネを「映像営業料」の名目で自治体に支払い、さらに自治体がこの仕組を変えないよう働きかけるために、数百万ドルをロビイストや弁護士に費やす。ケーブル業界はすでに全米の20州で、自治体が光ケーブルを敷設することを禁じる法律の制定に成功しており〜

日本もドコモやauなど一部のキャリアがシェアを独占して高い料金だったが、最近は格安スマホやSIMなどが出てきていて選択肢が増えている。この事例を見れば日本はアメリカよりずっとましだと分かる。上記引用のケーブル会社はあくまで一例であって、こういった構図が他の色々な分野に及んでいるというのがアメリカの実情らしい。一部の大金持ちへの怒りに溢れるアメリカ人がトランプに熱狂したのも納得できる。

では著者は金持ち連中に対して本の中で糾弾をしているかというと、さすがロバート・ライシュの姿勢は冷静だ。それは以下の部分を読むと分かる。単純にアメリカの実情に対して怒るだけでは何も生み出さないことを理解しているのだ。

私はお金持ちが非道なことをしているとか、故意に社会に害を及ぼしていると非難しているのではない。企業幹部やウォール街の成功者などの「高価値」の個人が、自分たちのために米国経済を乗っ取ろうと陰謀を企てる理由は何もない。それぞれが私的利益を追求して合理的に行動しているに過ぎない。彼らの資産が増えれば、彼らの政治力も強まる。そしてきわめて自然な成り行きとして、強くなった政治力を使って自らの資産を増やし、その資産を守り抜こうとする。私たちはそういう彼らを自己中心的で強欲だと批判することもできるが、彼らは他の大部分の人よりも格段に自己中心的で強欲なわけではないし、中にはとても太っ腹な人々もいる。

しかしこのシステムを大きな一つの枠組みとして考えたとき(つまり、人々が従事する仕事の報酬を配分するための政治的・経済的な仕組みだ)、懸念が首をもたげる。私たちの資本主義を正当化してきた能力主義的な理念は、大多数の私たちの現実の生活状況や労働事情にうまく合致していない。現実の世界は、資産や権力を持つ人々によって彼らに有利に働くよう歪められている。そして、彼らが資金や権力を得るのに伴って、社会のルールはさらに彼らに有利な方向へと傾いていく。

この冷静な姿勢に基づく著者の提案が3部構成の最後を担う。その内容は抵抗勢力を育てることだ。一般労働者が個人でアメリカの富裕層に抵抗するのは難しいので、抵抗勢力を育てることが肝要だと著者は説く。ここで言う抵抗勢力とは中間団体だ。作家の佐藤優氏がその著書「サバイバル宗教論」で、民主主義の保全のために中間団体の重要性を強調している。佐藤優氏はモンテスキューの「法の精神」を精読し、以下のように読み解いた。

モンテスキューは、法の精神で民主主義を担保するのは個人の人権ではない。個人の人権というのは、国家権力と対峙したときには、簡単に吹き飛ばされてしまう危ういもの。まして国家が民主主義や国民の権利を保全するはずなく、その逆だと考えていました。そのなかで、民主主義をどう保全していくのか。その役割を担うのは中間団体だと考えていたのです。〜中略〜こういう組織がいくつもあることによって民主主義は担保されているのです。 サバイバル宗教論 p254

中間団体とは国家と個人の間にあるもの。具体的には家族、会社、教会や宗教法人、サークル、自治会、組合など色々な単位の人の集団を指す。この中間団体の力を強化すると、より大きな組織に対する交渉力を発揮できるようになるのだ。中間団体に力を持たせるというのは日本でもアメリカでもとても大事なことで、日本にも同じことが言える。政府の力が強大化しているときに、それに抵抗するのは中間団体なのだ。

最後の資本主義にも同じようなことが書いてある。以下引用。

私に、「頭が良ければ自分はもっと稼ぐことができたのに」と語った青年労働者は、自分の賃金や役職が低いのは自らの欠点だと思っており、今の経済システムが、彼にもっとうまくやっていくための交渉力を十分に与えないせいだとは考えていなかった。 最後の資本主義 p196

日常生活が非常に苦しい個人が他の労働者と団結もせずに、圧倒的な資本を持つ大企業に交渉力を持つことはできない。個人の力は弱いのだから、もし何か困っていることがあれば、一人で悩まないで先ずは身近な誰かに相談するのが解決への一歩。そうやって良い方向に団結することで、色々なことが少しづつ改善されていくと思う。

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このブログの筆者

早川朋孝
早川朋孝
ネコ好きな読書家。
月一冊は専門書を読むのが目標。年間読書計画はだいたい決まっているが、だいたい横にそれるのが悩み。好きな作家は塩野七生さん、佐藤優さんなど。タバコ嫌いで、ちょい右寄りです。

仕事はウェブが専門。学生の頃よりウェブ制作に従事し、CMSの提案やアクセス解析が得意。上場企業や、東京オリンピック関連サイトなど大規模ウェブサイトのプロジェクトを多数経験。仕事のウェブサイトはこちら
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