2017/08/02

【書評】 ギリシャ人の物語2 塩野七生著

目次

  • 躍進する都民ファーストの会
  • 2300年前のトランプ大統領

躍進する都民ファーストの会

なぜ小池都知事はこんなに人気なのか?

都議選で自民党をやっつけ、今や小池都知事の人気は相当なもの。この人気はどこからくるのか?
小池都知事の人気は約2300年前のギリシャにも似たような状況があったことが、塩野七生著の「ギリシャ人の物語2」を読めばわかる。まずp184に以下のような文章があるので紹介する。

民主政のリーダー - 民衆に自信を持たせることができる人
衆愚政のリーダー - 民衆が心の奥底に持っている漠とした将来への不安を、煽るのが実に巧みな人
前者が「誘導する人」ならば、後者は「扇動する人」になる。前者は、プラス面に光を当てながらリードしていくタイプだが、後者となると、マイナス面をあばき出すことで不安を煽るタイプのリーダーになる。ゆえに扇動者とは何も、政治家とはかぎらない。
今日ならば、デモの指導者もマスコミもウェブも、自覚していようがいまいがには関係なく、立派に「デマゴーグ」(扇動者)になりうる。

現時点で小池さんが「民主政のリーダー」なのか、「衆愚政のリーダー」なのかは判断できない。ただ、ここ10年くらいの日本の政治状況に照らしあわせて考えてみよう。民主党の鳩ぽっぽ、大阪の橋下知事を思い出してほしい。私見だが、小池知事の状況は民主党と橋下府知事の時に似ているような気が。。。と思っていたら、7/6の読売新聞に御厨貴さんの興味深い記事が出ていたので以下に引用する。

それにしても都民ファという新勢力は、あまりにもアモルフ(amorph=無定形態)でよく分からない。イデオロギーとか政治的信条といった面はほとんど不明な一群だ。

「小泉チルドレン」「小沢ガールズ」「安倍チルドレン」そして「小池チルドレン」と繰り返される状況もまた、次々と現れては消え、忘れ去られる一発屋芸人を見ているようで、政治のあり方としては極めて危うい。

小池知事も今回持ち上げられたのと同じ速度で、落とされるかもしれない。政治に奥深いものがなく、一発芸しか持ち合わせないのであれば、有権者はより過激な一発屋芸人を求め続けるだろう。

私は小池さんが「民主政のリーダー」になることを強く希望する。

2300年前のトランプ大統領

2300年前にトランプ大統領にそっくりな政治家がギリシャにいた

塩野七生のギリシャ人の物語2には、トランプ大統領にそっくりな人物が登場する。ちなみにギリシャ人の物語2は昨年出版された一作目に続き、すごく早いペースで発売された。世界史でギリシャの歴史を学んだ人は、アテナイとスパルタが争ったペロポネソス戦争を覚えているかもしれないが、本書はまさにそのペロポネソス戦争を扱っている。本の帯にはこう記されている。
「黄金時代を迎えたアテネ。しかし、その崩壊の足音を手繰りよせたのは民主政に巣くうポピュリズムだった」。

アメリカでトランプ大統領が誕生し、彼の選挙を勝ち抜いた手法がまさにポピュリズムだ。「ギリシャ人の物語2」は今から約2300年前のギリシャの歴史を扱っているが、現代にも通じるものがある。こういう歴史から学べるものは意外と多い。
当時のギリシャはペリクレスという優れた指導者のもとで空前の繁栄を極めていた。歴史で他に類を見ないほどギリシャが燦然と輝いたのはこの時代である。海軍の強化をしてデロス同盟の盟主となり、圧倒的な経済力で他のギリシャの都市国家を引き離した。

ちなみにこの時代のギリシャはお互いに都市国家として争っていて、「平和」という言葉(概念)が存在しなかった。唯一の休戦が4年に一度開催されるオリンピアだった。
この都市国家間の争いにも派閥があって一方がアテネを中心とするデロス同盟、もう一方がスパルタを中心とするペロポネソス同盟だった。この二つの同盟を比較すると以下のようになる。

デロス同盟:アテネが盟主、エーゲ海の島国が主な参加国、分担金あり ペロポネソス同盟:スパルタが盟主、ペロポネソス半島の陸軍が主力の国家が中心、分担金なし

こんな状況でアテネのペリクレスが死んで後、アテナは衆愚政治に突入した。そして空前の繁栄が嘘のように崩壊してしまう。クレオンという政治家の姿勢に衆愚政治の特徴をよく見ることができる。以下の引用はまるで現アメリカ大統領を見ているようではないか。

アテネ最初のデマゴーグとされるクレオンは、この不安から発した指導者たちへの不信、その不信がエスカレートしたあげくの、自分よりは恵まれている人々に対する恨みや怒りを煽り立てるのが実に巧みであったのだ。多くの人の怒りを煽り立てるのに彼が成功したのは、彼自身が誰よりも、怒り狂うタイプの人であったからだろう。 p186

繁栄の時代が過ぎて自信を喪失したかつての大国、そこで力を取り戻そうと大衆を扇動するという構図。昔のギリシャも今のアメリカもまったく変わらない。

アテネでは教育をろくに受けていない最底辺の人でも、ガレー船を漕ぐという仕事をすることで立派な戦力になり得た。この人たちにも投票権があったために、政治家は票を得るために露骨なポピュリズムに走ったのだ。
できもしない公約を掲げ、宿敵スパルタを出し抜くためにシケリア(今のシチリア)征服という遂行不可能な戦争に突入し、それは約30年も続いた。ちなみにこの戦争を描いたのがツキディデスの「戦史」だ。その結果、アテナイの艦隊は滅び、国力は衰え、デロス同盟は解体した。アテネは政治家が大衆の言うことに従った結果滅び、その後二度と歴史の面舞台には立っていない。

古代というと馴染みがないため実感がないかもしれないが、たとえ大昔の出来事であっても、こういう歴史から学べることはたくさんある。「ギリシャ人の物語2」は色々な気づきを読者に与えてくれる。
なにより文句なしに面白い。塩野さんの作品はいわゆる歴史書というスタイルではなく、かなり主観的な分析や叙述が盛り込まれている作品だ。その分、文体を好きになれば面白く感じて、分厚くてもすぐ読めてしまう。

塩野さんの作品を読んだのをきっかけに、古典(例えばギボンとか、ヘロドトスとか)を読み始める人がきっといるだろう。塩野作品はめくるめく世界へ誘ってくれる。

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このブログの筆者

早川朋孝
早川朋孝
ネコ好きな読書家。
月一冊は専門書を読むのが目標。年間読書計画はだいたい決まっているが、だいたい横にそれるのが悩み。好きな作家は塩野七生さん、佐藤優さんなど。タバコ嫌いで、ちょい右寄りです。

仕事はウェブが専門。学生の頃よりウェブ制作に従事し、CMSの提案やアクセス解析が得意。上場企業や、東京オリンピック関連サイトなど大規模ウェブサイトのプロジェクトを多数経験。仕事のウェブサイトはこちら
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