【ネットの炎上を理解する】気軽に読めるネット関連本3冊の備忘録

最近こんなツイートを見た。

片瀬久美子さんという方が言われのない誹謗中傷に遭っている。ある程度名が通ってる人だと有名税として仕方ないが、仮に有名税であっても、この誹謗中傷はひどすぎる。

ブログを書いている私も以下のような意味不明なコメントをされることがある。

この書き込みをした人は何か言いたいのだろうが、まったく意味が分からない。健全な議論や批判ではないので対応しようがない(ブロックするだけだ)。
他にもいろいろな害がネット・SNSにはある。広告料が目当てなだけのフェイクニュース、根拠のない医療系まとめ記事、今年の4月にはアマゾンのマーケットプレイスで大規模な詐欺があったのは記憶に新しい。
このようにネットやSNSには害がいっぱいなのだ。

あなたが街を歩くとき、きっと治安の悪いところには近寄らないと思うが、ネットでは危険が巧妙に隠されていたり、善を装っていたりするので、実際の街歩きのように危険を避けることができない。

こういう危険なネットと、有益性を損なうことなく付き合うにはどうすればいいか?

そんな観点から、ネットとの付き合いをどうするかについて考える本を3冊を紹介する。

ネットの実態を知る3冊

ルポ ネットリンチで人生を壊された人たち

ジョン・ロンソンというライターの著作。海外の炎上の事例が豊富に紹介されているが、本質的にネットの炎上は日本と変わらないのがよく分かる。
冒頭で、著者自身がツイッターでなりすましをされた例が紹介されている。著者の直接の知り合いがにせアカウントのフォロワーになり著者は困ったらしい。

(にせアカウントは)毎晩、どこで何をして遊んでいるのかを書き込み、自分の交友関係がいかに幅広いかも知らせていた。フォロワーは50人にまで増えた。実際に私が毎晩遊びまわっていて、交友関係も華やかだと誤解する人も現れ、明らかに私本人に悪影響が出ていた。

どうやって著者がこの問題を解決したかというと、にせアカウントを運用していたのは3人の研究者で、そいつらと直接対決したそうだ。
その時の様子を動画撮影し、迷った末にyoutubeにアップした。そしたら、その動画に対するコメントが次々についた。多くのコメントが著者の味方で、3人の研究者は恥じて最終的にそのアカウントは凍結したらしい。

著者はこの体験から公開羞恥刑を思い浮かべたのだろう。ネットで起きた公開羞恥刑の事例を紹介していく流れになる。例えば、ボブ・ディランについての文章を捏造したライターが、ツイッターのスクリーンを後ろしてに謝罪会見をする例が紹介される。
スクリーンにはその謝罪会見に対して多くの人がツイートしている。そのスクリーンを後ろにして謝罪会見をすることは、ライターに対するすさまじい加辱であるのは明白である。
これはまるで、とっくの昔に廃止された公開羞恥刑である。西欧で200年以上前に廃止されたはずの公開羞恥刑が、ネットで公然と復活したのである。著者はこれをネットリンチと定義した。

フランスでは、公衆の面前で謝罪する加辱刑は、はじめ1791年に廃止され、ついで短期間の復活をへて1830年にふたたび廃止された。晒し台は1789年に、イギリスでは1837年に禁止された。

ミシェル・フーコー 監獄の誕生 p13より

不運にもネットリンチに遭った人が不必要なまでに人生を壊される様子は、読んでいて恐ろしくなる。あなたがふだん気軽に使っているネットには、ネットリンチのような可能性を孕んでいるのだ。ひょっとしたら、気軽なRTがネットリンチへの加担を意味するかもしれない。

なぜ人は不必要なまでにネットリンチに加担するのか?

この質問に対する一般的な考え方にエコー・チェンバーというものがある。共鳴がどんどん増幅していくその様子は、同じ意見の人同士とだけSNSなどでつるんでいる例えによく使われる。ネットにおいて自分と同じ意見の人を探すのは容易だが、SNSにおいてはさらにその傾向が強いと言える。
自分と同じ考えの人とばかり接することで、自分の意見こそが「普通の考え」という思いが強化される。そんな人が、ある日突然違う考えと出会うと、炎上が起きる。だから違う意見や思想に接したときに動じない免疫が必要なのだ。

炎上については次に紹介する「ウェブはバカと暇人のもの」に詳しく書いてある。

ウェブはバカと暇人のもの

中川純一郎さんの著作。2009年の本だが、いまだにその内容は古びていない。著者はネットメディアの運営経験があり、そこでさんざんバカな人たちを相手にした経験があるという。
著作の中で、ある掲示板へ書き込まれたバカな人の事例を以下のようにコミカルに紹介している。以下の引用に誤字はなく、正確な引用であることに留意されたい。

「詳しく詳しくを教えてください」「どうなんていうんですか」という日本語はひどすぎる。〜中略〜こんな初歩的なミスをする人物が、平気でネットという公的な場で発言しまくっているのである。

p11

新しい言論の場として期待されたネットも、実際には言葉が通じないバカがたくさんはびこる世界だった。この本が発売された2009年も、2017年となった今も、この状況に変わりはない。
東京オリンピックのエンブレム問題は記憶に新しい。デザイナーの佐野氏がデザインを盗用したとかなんとか真偽不明の噂で実際にロゴが変わってしまった。
普通に考えればデザインなんて線、曲線、色などの組み合わせでしかなく、どんなデザインでも似たようなものがあるのは必然である。それを無理にこじつけて皆で叩くなどというのはまさにネットリンンチでしかない。

ネットでは「叩きがいのあるバカはいねえがぁ?」と探す人がいて、「これは!」という人物が出ると、「こんなバカ言っているヤツがいるぜ」と公表し、そこから皆で「もっと広げようぜ」「もっと叩こうぜ」とおおごとにし、その人物のブログなり所属団体のホームページなりで徹底的にいじめるのである。

p31

ネットは今、すごい非寛容な世界だということを肝に銘じる必要がある。こんな炎上を起こすのは具体的にどんな人たちなのか、その実体に迫ったのが「ネット炎上の研究」だ。

ネット炎上の研究

本書はすでに紹介した2冊とは異なり、統計データをもとに炎上に分析した本である。そのため上述の2冊とはスタイルが全然違う。

「ネット炎上」というと、あなたはどういうイメージを持つだろう?

ニートとかネット中毒者、世の中に不満だらけの独身男が、執拗に同じような書き込みをする、そんなイメージだろうか。「ネット炎上の研究」によると、一般的に思われているのとは異なる意外な事実が明らかになった。

  • ネット炎上は、0.00x%という限りなくごく少数の人が引き起こしている
  • 炎上に積極的に参加しているのは、年収が多く、若い子持ちの男性が多い傾向にある

データによると上記のような炎上参加者の実態が浮かび上がってくる。ちなみにデータは調査会社マイボイス社のインターネットモニター19,992人を使用しているとのこと。

また、7/31の朝日新聞にネット言論荒らさせぬ ヤフー、大量投稿の規制強化という記事があった。以下に一部引用する。

共同分析では、1週間で100回以上のコメントを投稿する人が全体の1%いた。この人たちの投稿がコメント全体の20%を占めていたことも判明。

この新聞記事からもわかる通り、炎上は少数の人が騒いでいるだけというのは、最近の研究である程度定着してきた感がある。
「ネットの炎上に積極的に参加する知り合いなんていない」というのが大抵の人の実感だろう。少数の人が騒ぐそんな炎上なんて無視すればいいと思うのだが、そうもいかない。
なぜなら、企業向けのネット炎上の保険( http://www.asahi.com/articles/ASK3B4SD9K3BULFA017.html )があるなど、ネット炎上は企業はもちろん、誰にとっても無視できないリスクとなっているからだ。炎上が「世論」と勘違いされ、結果的に大きな力となる。

ネットの掲示板やSNSなどで同じような書き込みがたくさんあると、それが社会の主流の言説であるかのように錯覚してしまう可能性がある。そして、そういった炎上狙いの書き込みは扇動的だから印象に残りやすい。
我々はつい扇動的な情報に反応してしまい、それによって気づかないうちに行動が変わっているかもしれない。そうならばネット炎上は社会に対して害である。

炎上を引き起こす人は少数であるが、少数でも全体に及ぼす外部効果は巨大である。普通の人は炎上を恐れて、発信をあきらめてしまい、匿名ネットに隠れるか、閉じた輪(LINE)に逃げることになる。ネットは腕に覚えのある猛者だけが徘徊する荒野となる。左右の両端の極端な思想傾向の人が闊歩し、本来は多いはずの中庸な人の意見は蒸発するかのように消えてしまう。

p166

梅田望夫氏の「ウェブ進化論」でウェブ2.0と夢をもって語られたネットの状況は、今や惨憺たるものである。こういう状況が背景にあって、ヤフーは大量投稿を制限することになったのだろう。誰でも参加できるネットの利便性が、同時に最大の害になっているのだ。

炎上で問題にすべきなのは、現状のSNSでは、誰もが最強の情報発信力を持っていることである。すなわち、誰もが相手に強制的に直接対話を強いることができ、それを止めさせる方法がない。

p176

ネットに書き込む事それ自体を制御できないために、テレビや新聞なら起こり得ないことがネットでは起こる。
例えば、テレビの生放送であるお笑いタレントが全裸になろうとしたら、周囲の誰もがそれを制止する。しかし、ネットでは制止力がそもそも存在しないのだ。広告収入を目当てに意図的に炎上狙いのフェイクニュースなどを書くような人もいる。今のネットはそういう状況。

「ネット炎上の研究」に書かれている趣旨を簡単にまとめると以下の通りだ。

  • 炎上を引き起こしているのはごく少数の人で、全体の0.00X%
    → 調査すると、同じIPアドレスから同じ人が何度も書き込んでいることが分かる
  • ネットは他の旧来のメディアよりずっと個人の情報発信力が強い特性がある
  • 少数の悪意ある発信でも全体に及ぼす負の外部効果は巨大

「ネット炎上の研究」を読むと、かつて自由な言論の場としてもてはやされたネットは、たいへん残念ながその見通しは暗いと言わざるを得ない。ネットで見かける過激な意見や言動に即物的に反応せず冷静に判断するしかない。
私たちに大事なのは正しい知識だ。炎上のメカニズムや、なぜ炎上させようとする人がいるのか知れば、いたずらに反応することもなくなる。「ネット炎上の研究」ではそんなことが勉強できる。

まとめ

この3冊を読むとネットが好きな人は暗い気持ちになる。仕事やツールとして割り切ってネットを使う人ならばある程度は気構えもあるだろうが、そうでなく何も考えず単純に楽しみのためだけにネットを使っている人はけっこう危ない。ネットをスマホでしか使わない若い人とか主婦とか要注意です、まじで。

例えば、何気なく書かれたまとめサイトの記事は、広告収入のためにどんなことでも書くような人が書いた記事である可能性が高い。嘘がそれっぽく書かれていて、それを信じてしまうかもしれない。

車を運転するのには交通ルールを勉強するが、それと同じように、ネットの利便性を享受したいなら、一度ネットについてきちんと勉強し、どうネットと接するか一度きちんと考えたほうがいい。
ネットがあなたにとって便利ならば、悪意ある人にとっても同じように便利なわけで、そういう人が常に獲物を狙っている世界がネットなのだ。

特に医療系のまとめ記事や商品レビューは実害があるので、基本的にネットに書かれている医療記事は信じないほうがいい。詳しくはアマゾンのレビューで称賛されているガン治療の本が専門家の判断ではトンデモだった件まとめ記事に「いかがでしたか」と書かれれる理由【広告収入のために何でもするまとめサイト】に書いてます。

このブログの筆者

早川朋孝
早川朋孝
ネコ好きな読書家。
月一冊は専門書を読むのが目標。年間読書計画はだいたい決まっているが、だいたい横にそれるのが悩み。好きな作家は塩野七生さん、佐藤優さんなど。タバコ嫌いで、ちょい右寄りです。

仕事はウェブが専門。学生の頃よりウェブ制作に従事し、CMSの提案やアクセス解析が得意。上場企業や、東京オリンピック関連サイトなど大規模ウェブサイトのプロジェクトを多数経験。仕事のウェブサイトはこちら
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