2017/10/08

【書評】日の名残り カズオ・イシグロ

2017年のノーベル文学賞を獲ったカズオ・イシグロなる作家を全然知りませんでした。どんな作家なのかと気になり本屋にいくも品薄の様子なので、「日の名残り」をキンドルで購入。便利な世の中になったものだね。

物語はイギリスの、かつては由緒ある屋敷だった執事スティーブンスが、新しいアメリカ人の主人を迎えてから初めてまとまった休暇をもらい旅に出るという設定になっている。執事は新しい主人のもとで屋敷をたった4人の使用人でやりくりすることを求められ、旅のついでにかつての同僚ミス・ケントンを再度一緒に働こうと誘うことを思いつく。

執事スティーブンスは豪華なフォードでグレード・ブリテンを慣れない様子で旅し、ミス・ケントンのいる地を目指しながら、ダーリントン卿という過去の偉大な主人に仕えていた頃を追憶する。旅の様子と過去の場面が巧妙に交錯しながら物語は進み、丸谷才一の「笹まくら」とか、オンダーチェの「イングリッシュ・ペイシェント」と似たスタイル。

イギリスの由緒ある貴族の広大な屋敷、執事のいる生活など日本人のわれわれには馴染みない光景だが、そんなことをあまり気にせず読み進めることができるだろう。というのも、執事が独白するような形式の文体はとても丁寧で格式高い口調だが、翻訳がこなれているためにストレスなく読むことができる。読書慣れしている人なら2〜4時間くらいで読み終えることができるだろう。シャーロック・ホームズのようなイギリスドラマ(物語)が好きな人なら間違いなく読んで楽しめるだろう。難解さはないから、酒を飲みながらでも気軽に読める。

映画で筋を知っても原作を読んだことにはならないよ

「日の名残りは」アンソニー・ホプキンズ主演の映画になったらしい。調べたら確かに映画化されている。私は映画は観てないから分からないけど、上のパンフレットを見る限り恋愛ものに脚色されている気がする。そりゃ映画で集客するには恋愛要素でもないと面白くないからだろうね。しかし原作に恋愛要素はあまり出てこない。そう想像させる微妙な描写はあるが、それをどう捉えるかは読み手次第だろう。これが読書体験の良さだと思う。例えば原作では上等のポートワインが出てくるが、それが何の銘柄か分からない。ワイン好きな人はその銘柄を想像したりする。原作を読んでから映画を見れば、そのポートワインが映画ではどう扱われるかに注目して観れば、他の人が気にもとめない場面を存分に楽しむことができる。

よく有名な小説や古典の筋を知るために手っ取り早く映画で済まそうという横着な人がいるが、映画と小説は当たり前だがまったくの別物だ。例えば、ある登場人物の微細な仕草や心の葛藤が何ページにもわたって表現されているのが、映画だと数秒で終わる。映画は映画でいいが、映画を観ることは文章を読むこととはあまりに異質な行為で、映画で話の筋を知ってもそういう姿勢からは教養は身につかないし、古典や原作を読んだことにはならない。

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このブログの筆者

早川朋孝
早川朋孝
ネコ好きな読書家。
月一冊は専門書を読むのが目標。年間読書計画はだいたい決まっているが、だいたい横にそれるのが悩み。好きな作家は塩野七生さん、佐藤優さんなど。タバコ嫌いで、ちょい右寄りです。

仕事はウェブが専門。学生の頃よりウェブ制作に従事し、CMSの提案やアクセス解析が得意。上場企業や、東京オリンピック関連サイトなど大規模ウェブサイトのプロジェクトを多数経験。仕事のウェブサイトはこちら
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