2014/09/21

外国語上達法 千野 栄一著

外国語の上達を目指したり、習得をしようという人は多いだろう。特に最近は英語の社内公用語化とか、小学校からの英語教育とか、とりあえず英語をやろうとか、なんとなくTOEICうけようとか、最近では中国語とか。

大きな書店の語学書コーナーに行くと、大きな棚の一面は全て英語で、向かいにある棚は区切られてフランス語、ドイツ語、中国語、朝鮮語、その他言語といった具合に並んでいる。
だいぶ言語に偏りがあるとは言え、これだけ外国語の学習書が並ぶというのは外国語を習得したいと考えている人がたくさんいる証拠だろう。
そういう人におすすめなのが千野 栄一さんの「外国語上達法」である(著者は2002年鬼籍に入られた)。
語学の神様というような偉大な大先輩方に導かれ、ろくに語学ができなかった著者が、英語、フランス語、ドイツ語、チェコ語などをどのようにマスターしていったのか、その秘訣というかエッセンスをまとめたのがこの本の内容である。

いろいろな外国語を学ぶにあたっての普遍的な心構えが書かれてあるため、これから何か外国語を学ぼうという人にはもってこいの内容。
単純に読み物としても面白いのがこの本の魅力で、この本の内容は外国語に限らず時間をかけて学ぶものに幅広く応用ができる。まずは目次を紹介する。

「外国語上達法」の目次

  1. はじめに 外国語学習にはコツがある
  2. 目的と目標 なぜ学ぶのか、ゴールはどこか
  3. 必要なもの 語学の神様はこう語った
  4. 語彙 覚えるべき千の単語
  5. 文法 愛される文法のために
  6. 学習書 よい本の条件はこれだ
  7. 教師 こんな先生に教わりたい
  8. 辞書 自分に合った学習事典を
  9. 発音 こればかりは始めが肝心
  10. 会話 あやまちは人の常、と覚悟して
  11. レアリア 文化・歴史を知らないと
  12. まとめ 言語を知れば、人間は大きくなる

はじめに 外国語学習にはコツがある

テクネーというギリシャ語がある。これは時間をかけないと習得できないものを指すらしい。外国語にかぎらず、楽器の演奏(例えばピアノとかヴァイオリンとか)、複雑なスポーツ、数学などが該当するだろう。そういったテクネーを身につけるにの大事なことは何か、その心構えが書いてある。一部引用する。

語学の習得というのは、まるでザルで水をしゃくっているようなものです。絶えずしゃくっていないと、水がなくなってしまいます。水がどんどんもれるからといって、しゃくうのを止めるとザルははぜてしまうのです。

ある著名なバレリーナが一日練習をさぼった場合、一ヶ月かけても取り戻せないというようなことを言ったらしい。上記の引用も同じような意味である。とにかく諦めずに繰り返す。至極当たり前のことが、この本のには表現を変えて何度も出てくる。

ただし、熱意だけではだめだ。外国語の習得にはコツがあると著者は言う。以下に引用する。これは著者が読んだ本の引用なので、引用の引用となる。

大多数の人々は生涯で一つあるいは二つの外国語を長い時間をかけて学び、それにもかかわらず自分の学習を終わらせることが実際上できないのに、一方ではたとえ全体の一パーセントにも及ばないのにせよ、四つ五つあるいはそれ以上の言語を知っていて、それで読んだり、話したりさらに次の外国語をいとも簡単に学ぶ人たちがいることに気がついて、これはどういうわけかとお考えになったことはないでしょうか?いったい、これはどういうことなのでしょう。それは才能さ、とおっしゃりたいのでしょう。ところが違うのです。その人たちは、外国語を速く学ぶにはどうしたらいいか気がついた人なのです。(イジー・トマン著「どのように勉強すべきか、とりわけ外国語を学ぶにはどうしたらいいのか」)

著者自身が語学習得で大変な苦労をしてきただけに、外国学習者が悩むポイントが全章を通して絶妙に散りばめられていて、読んでいて飽きない工夫がなされている。なにより、この本は上記で言う最短ルートが丁寧に書いてある。
その全てを紹介するのはここではしないが、特に重要と思われる部分をかいつまんで紹介していこう。「はじめに」の最後は読者の背中を押すような一文で締めくくられている。繰り返し勉強するのは当然だが、覚えたことをすぐ忘れてしまうのが嫌になって諦める人が後を経たないからだろう。

覚えたことを忘れることを恐れてはいけないということである

目的と目標 なぜ学ぶのか、ゴールはどこか

永久に辞書を引き続けないといけないような外国語の学習は辛い。いつになったら終わるのだろう。こういった学習方法や、姿勢ではやる気がなくなってしまう。
だから、自分なりのゴールを設定するといい、と著者は言う。世の中まわりを見ると、なんとなく英語やろうとか、なんとなく語学留学したい、というような軽薄な人はいくらでもいるがそういう意識では外国語の習得はできない。

日本では、英語の学習は他の外国語よりはるかに便利である。それにもかかわらず多くの人が英語の学習で涙を流すのは、なぜ英語を学ばねばならないのかについて自分の気持ちが整理されていず、明確な目的がないからである。

こういう状況に陥らないには明確な目標を設定することである。単に外国語が「できる」といっても色々な段階がある。旅行で会話に困らない程度、日常会話ができればいい程度、高尚な文学について語る程度。
どこを目指せばいいのかを明確にしないといけない。例えば古典ギリシャ語とラテン語、どちらも哲学を本格的に学ぶには習得が必要な言語だが、これらの言語で会話や作文をする必要はない。なぜならどちらも死語のため現在は使われていない。
過去に既述された文章を読めればいいだけである。すると会話のパターンを学ぶ必要はないわけである。

仮に英語の学習が必要なら、具体的にどういう能力をどの段階まで習得すればいいのかを事前に明確にすれば、無間地獄のような辞書を引き続けるという行為を避けることができる。ゴールが見えていれば頑張れるものだ。

必要なもの 語学の神様はこう語った

この本の魅力の一つに、著者が師事したいろいろな偉大な語学の先生方のエピソードが紹介されていることがある。著者からするとそういった先生方に同席し会話をきくのは「神々の饗宴」をのぞきみるようなものだったらしい。ただし、語学のスーパーなエキスパートを目指したい人を除けば、前の章で紹介したように、そんな神々を目指す必要はない。目的を絞って勉強すればいい。

その証拠に語学の神様はこういった旨のことを言ったらしい。「外国語を学ぶのに必要なのは金と時間」。人はケチだからお金をかけて学習書を買ったり先生につくと、元をとろうと必死になるからである。これは私も賛成。そして時間の使い方に関して、極めて具体的なアドバイスが書かれてある。以下引用。

外国語の習得には記憶が重要な役割を演じており、記憶には繰り返しが大切で、そのためには時間が必要なのである。そして、その時間の使い方について一言するならば、ある外国語を習得しようと決心し、具体的に習得に向かってスタートしたときは、まず半年ぐらいかはがむしゃらに進む必要がある。(中略)このとき、一日に六時間ずつ四日やるより、二時間ずつ12日した方がいい。

少しずつでも繰り返すこと。そうしないと身につかない。そして、さらに具体的に、一番最初に何を勉強すべきか、が次の章で紹介される。著者曰く、語彙、文法の順に勉強することが肝心である、とのこと。

語彙 覚えるべき千の単語

おそらく、この語彙に関する内容は一番重要だと思われる。なぜか? 赤ん坊が言葉を覚えていく様子を思い浮かべて欲しい。はじめは「あ〜」とか「だ〜」とか言っていて、時間がたって成長してくると「パパ」とか、なんとなく意味のある言葉を発するようになり、それで意思を表すようになる。語彙こそ言語の要なのは間違いない。著者はその重要性をいろいろ表現を変えて繰り返し述べている。そしてこう断言している。

千語覚えれれば助走は成功。

たった千語でいいのだ。この壁をまず越えることが外国語上達の近道なのである。ひたすら読んでは辞書をひき、読んでは辞書をひきという学習法が続くとゴールがどこだか分からなくなる。そして嫌いになる。だからまずは基本的な千語なのである。この千語を辞書を使わずに文脈を伴った単語集のようなもので覚えるべしとある(学習書の選び方は後の章にある)。

著者はあるとき留学先で、特に努力しているように見えないルームメイト(チェコ人)が、みるみるドイツ語に習熟していく様子を見たそうだ。彼はひたすら単語書を寝そべって読んでるだけなのに、一気に上達したというのだ。こういう例からも分かるように語彙がいかに大事かが分かる。そのチェコ人は最短で外国語を学ぶ術を知っていたのだろう。そしてそれに忠実に従ったのだ。

学ぶべき千語

最初に学ぶべき千語には基準があるそうだ。まずはそれを覚えれば、色々な場面で応用が利くから効率がいいというのだ。

高い頻度 低い頻度
広いジャンル 重要度A 重要度C
狭いジャンル 重要度B 重要度D

この基本となる単語は頻度数のある辞書や学習書を参考にすべし、とのことである。

文法 愛される文法のために

無味乾燥な語学の文法の学習は多くの学習者をその言語から遠ざける効果がある。それでも文法は必要である。基本の千語の後には文法を学ぶ必要がある。ピアノを本気で学ぼうと思うと、楽譜を読める必要がある。語学の文法はピアノでいう楽譜だろう。これは割りきってやるしかない。

動詞の活用や時勢の変化に関するものは、一気呵成に1ヶ月か2ヶ月の突貫工事で学ぶべし、とある。

ここに一つ具体的な例としてドイツ語をあげると、定冠詞・不定冠詞とその曲用、名詞の曲用、代名詞の曲用、数詞(基数詞)、動詞(現在・過去・未来・受身・命令法・接続法)などがその例で、多くの言語で動詞と代名詞がヤマということになる。

利用頻度が多く、活用の複雑な基本動詞は機械的に覚えるしかない。フランス語でいうとetreとかavoirとかfaireなどの語がそれに該当する。

学習書 よい本の条件はこれだ

頻出単語が入っていること、薄いことがよい学習書という。しかし著者が偉大な先生に言われたのが以下の引用。これは強烈。やはり語学の神様の言葉は面白く深い。

「ねえ君、いい辞書とか、いい学習書とかいろいろ心配しているけどねえ、二葉亭四迷だって、坪内逍遥だって、森鴎外だって、いい辞書も、いい学習書もなかったのにあんなにできたじゃない。これどういうわけ?やる気よ、やる気。やる気さえあればめじゃない、めじゃない」

本屋にいって選ぶのに迷う暇があれば、さっさと買って勉強しろということか。

最後に

面白いので引用が多くなってしまった。著者の千野栄一さんはチェコ語の専門家だった。カレル・チャペックというSF作家の翻訳が岩波文庫から出ている。これらは著者が苦労して外国語を習得して得た果実そのものだと思う(つまり「外国語上達法」を実践した結果)。ロボットという概念を広めた「R.U.R」、山椒魚が人の住む陸地を侵略 する「山椒魚戦争」などとてもおもしろいので、ぜひ読んでみて。

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このブログの筆者

早川朋孝
早川朋孝
ネコ好きな読書家。
月一冊は専門書を読むのが目標。年間読書計画はだいたい決まっているが、だいたい横にそれるのが悩み。好きな作家は塩野七生さん、佐藤優さんなど。タバコ嫌いで、ちょい右寄りです。

仕事はウェブが専門。学生の頃よりウェブ制作に従事し、CMSの提案やアクセス解析が得意。上場企業や、東京オリンピック関連サイトなど大規模ウェブサイトのプロジェクトを多数経験。仕事のウェブサイトはこちら
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