2014/10/26

ヘロドトスの「歴史」は散々馬鹿なことやってきた人間たちの物語

岩波文庫のヘロドトス「歴史」

なぜ歴史嫌いの人がいるのだろうか。 思うにそれは、小学校、中学、高校と続く歴史の授業で年号をひたすら暗記させられたイメージが強く、その無味感想な拷問のような作業で歴史の授業を嫌いになったからではないだろうか。しかし歴史を学ぶ教材が面白いとか、あるいは先生が優れているなどの場合であれば、歴史嫌いな人でも歴史を好きになる可能性はある。今回は優れた教材になり得るヘロドトスの「歴史」を紹介する。

目次

  1. ヘロドトスはマーケター
  2. 面白い逸話紹介(卑猥なものを含む)
  3. 歴史を読む意義

ヘロドトスは超一流の語り部

映画「イングリッシュ・ペイシェント」を観たことがあるだろうか。映画の冒頭、砂漠の夜、イギリスの王立地理学会のメンバーがキャンプファイヤーを囲んでそれぞれ出し物をする。
ヴーヴ・クリコの空瓶を回し、瓶口が向いた先の人が出し物をする。瓶に指名された女主人公の一人キャサリンはヘロドトスの有名な導入部を静かに語る。

俺らがしっぽりするのをお前そこから見てろよ

ちょっと大人なヘロドトスの導入部分は大変有名である。ほぼ同じ話がプラトンの「国家」にも出てくるのだが、それはさておき、以下に概要を掲載する。

リュディア王のカンダウレス自分の妻を溺愛するあまり、妻がこの世の女の中でもかけはなれて、最高の美女であると信じていた。カンダウレスの家来の一人にカンダウレスが何でも相談するギュゲスという男がいた。カンダウレスはこのギュゲスに自分の妻の美しさをいつも自慢していたのだが、ギュゲスはいつも自慢されるのであまり信じていなかった。そしてカンダウレスはギュゲスに命ずる。「俺と妻がベッドインする時、お前は妻が脱いで裸になるのを見ていろ。」

ギュゲスは王の命令に逆らえず、后には悟られないように二人がベッドインするのを隠れて見た。王の言う通り、后は最高の美しさだった。しかしこの時、后はギュゲスに見られていることに気づいていたのだった。

翌日、后はギュゲスを呼び出した。そして彼に言った。「お前が昨晩、私の裸を見たことは知っている。このような屈辱は許されるものではない。お前は死刑か、王であるカンダウレスを殺してお前自身が王になるのかどちらかしかない」。こう言われたギュゲスは、カンダウレスを殺して自らが王になったのだった。

こんな刺激的な導入話がヘロドトスの「歴史」には置かれている。これはマーケティング的な工夫と言っていい。「歴史」は9巻に及ぶ長大な歴史物語のため、書く以上は読んでもらいたい。ヘロドトスはそんな気持ちだったのだろう。
読んでもらうためのこんなさりげない導入話を使うという発想があること自体、ヘロドトスが一流の語り部だった証拠に他ならない。

「歴史」は紀元前480年、つまり今から約2500年前頃に勃発した名高いペルシア戦争を扱っている。このペルシア戦争は巻7、8、9とクライマックスに描かれていて、それより前の巻はクライマックスに至る長い前置きのような役割を果たしている。
前置きとはいえ面白さは満載。舞台は地中海を取り囲むイオニア、リディア、エジプト、バビロンなど広大な古代オリエント世界を中心に展開され、面白い逸話が満載なので飽きることなく読める。現代と違って、自然や地理など分からないことだらけだった古代オリエント世界で、偏見や主観に満ちた数々の物語はとびきり人間臭い。
2500年前の人でも、現代人と何も変わらない点があることがよく分かる。では特に面白い逸話をいくつか紹介しよう。空想のような話、残酷な話、卑猥なものまで色々。

面白い逸話紹介

イルカに助けられた詩人アリオン

アリオンという最高の吟遊詩人がコリントスにいた。ある時、イタリアのシチリアに渡ることを思い立ち、移り住んだ。アリオンはその地で存分に金を稼ぎ、またコリントスへ戻ろうと船に乗った。アリオンが大金を持っていることに気づいた船員たちは、その金を巻き上げようとアリオンを海につきだした。
海に落ちたアリオンだが、通りがかりのイルカに助けられ、その背中にのって陸地まで辿り着いたという。

牡馬を興奮させて王様になった男

古代ギリシャで7人の男が自分たちの中から次の王様をどうやって決めようか話し合っていました。7人はそれぞれの馬にレースをさせて、一番速かった馬の主が王様になるよう決めました。
7人のうちの一人ダレイオスはどうしても王様になりたく、家来の一人に相談しました。その家来は優れた馬の調教師でした。

そして彼は一計を案じました。レースの当日、レースに出す雄馬が気に入っている雌馬がいるのですが、その雌馬の陰部に手をつっこんで自分の手に匂いをつけました。そしてレースが始まると、雄馬の鼻先に自分の手を近づけました。
雌の匂いで興奮した雄馬は信じがたい速さで駆け抜け、その馬の主ダレイオスは王様になりました。

習慣に関して

ダレイオスがその治世中、側近のギリシャ人を呼んで、どれほどの金を貰ったら死んだ父親の肉を食う気になるかと聞いたら、ギリシャ人はいくら大金を積まれても絶対にそんなことはしないと答えた。
次にダレイオスは両親の肉を食う習慣のあるインドの部族を呼び、どれほどの金をもらったら死んだ父親を火葬する気になるか、と聞いたら、いくらもらってもそんなことはしないとしないと答えた。習慣とはこのようなものである。

ある部族について

ある地方の部族のこと。その部族では一夫多妻制である。夫が死ぬとどの妻が死んだ夫に一番愛されていたかについて妻たちの間で争いが起こる。
一番愛されていたと認められた女はその女の最も縁の近い人によって夫の墓前で喉を切り裂かれ、夫と共に埋葬される。残った妻たちは生き残った我が身の不幸を嘆く。

戦争がおさまった理由

ある日、昼間が突然、夜になった。そして戦いが収まった。。。。。。。。これは今で言う日食のこと。当時は解明されていないので、こういう記述だった。史記などにも日食の記述があるが、日食がかなりの恐怖や混乱を招いたことは想像に難くない。

女装した青年に、、、

ペルシアの王ダレイオスは、ある部族を支配下におさめようとその部族の元へ使者を派遣した。強大なペルシア側にびびるその部族側の長は、使者のいいなりで、こびへつらって接待し、部族の女を差し出した。
しかし長の息子は腹を据えかねていた。差し出した女を身を清めるという理由で一度下がらせ、改めて差し出す女は女装し武器を持たせた青年だった。そして使者を刺し殺した。

300人で270万人の軍隊に抵抗した男

「300(スリーハンドレッド)」という映画がある。ペルシア戦争で最も名高い「テルモピュライの戦い」を扱った映画だ。それと「ラストサムライ」でもこの戦いのことが述べられる(ラストサムライでは「100万人の軍隊」だった)。
テルモピュライの戦いではっきりしているのは、スパルタのレオニダスが率いる300人の猛者が、大軍のペルシア軍に挑み、一定期間足止めしたということ。300人はレオニダス以下全滅するが、スパルタ軍はその勇ましい戦いぶりを歴史にきざんだ。

ヘロドトス「歴史」をより深く理解する地図帳

ヘロドトスの歴史をより深く理解するにはギリシャ神話を大まかにでも知っておけば、理解力が変わってくる。 そして決定的に大事なのが地理である。古代オリエントの地名がどんどん出てくる。これら地名を理解していないとヘロドトスは面白くもなんともない。ヘロドトスを読み解く地図でもないかとそう思って調べたらあった。「歴史地図帳」というものが。これがあればヘロドトスが10倍くらい面白くなる。

大昔の多様な人間物語は、いかに昔から人が馬鹿なことを繰り返してきたかを証明している。こういうのを読むと小さな悩みなんて吹っ飛ぶだろう。

後記

ドリアン食べたことはありますか。先日たまたまドリアンのクッキーを食べたのですが、、、、、、、決してまずくはないのだけど、口の中からドリアンの風味が何時間も消えなくて、、、口直しを何度してもドリアンがまとわりついてきて。なかなか、いやはやって感じでした。

このブログの筆者

早川朋孝
早川朋孝
ネコ好きな読書家。
月一冊は専門書を読むのが目標。年間読書計画はだいたい決まっているが、だいたい横にそれるのが悩み。好きな作家は塩野七生さん、佐藤優さんなど。タバコ嫌いで、ちょい右寄りです。

仕事はウェブが専門。学生の頃よりウェブ制作に従事し、CMSの提案やアクセス解析が得意。上場企業や、東京オリンピック関連サイトなど大規模ウェブサイトのプロジェクトを多数経験。仕事のウェブサイトはこちら
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