2015/02/24

失われた夜の歴史 イーカーチ著

夜について、どう思う?

あなたが男性で東京にいる限り、夜を意識することはあまりないかもしれない。コンビニは24時間やっていて、電車も遅くまで走っている。便利で明るく、夜であるがゆえに何かに困ることはほとんどないだろう。しかし少し郊外や地方に行くと事情は一変する。東京でも八王子の山奥にでも行けば夜は本物の闇だし、郊外の住宅街なら深夜に人が歩いていることは稀で、女性の一人歩きは心理的にけっこう怖いだろう。そう、夜はもともと恐怖の支配する時間帯だった。西洋の音楽や詩では夜の意味するものは「死の世界」という暗黙の了解がある。

この「失われた夜の歴史」は産業革命前の西洋の夜がどういうものだったかを紹介する。東北の震災のあった直後の夜を思い出して欲しい。私は東京にいたが、2011/3/12(土)と翌日曜は異常に暗い世界だった。節電と外出自粛の影響で、たまにすれ違う人は誰もが暗い表情をしている。自分の気持ちも暗かった。あの暗い陰湿な雰囲気、ひょっとしたら昔の夜はそれに近いものだったかもしれない。

ドラクエの魔王が人々を闇の世界に閉じ込めるのは希望を奪うためだけど、朝がこないずっと夜の世界を想像してほしい。2017年の8月は雨ばかりでほとんど晴れがなかったけど、それだけでけっこう憂鬱になるのに、まして朝がこない世界は死の世界だろう。

夜は悪魔の時間

幼稚園児くらいの子供がいるなら、その年頃の子がどれだけ暗闇や夜を怖がるかよく分かるだろう。あるいは、あなた自身がそれくらいの年だった頃を思い出して欲しい。夜一人でトイレに行けただろうか。子供は夜を嫌がる。お化けとかが怖いのだ。その恐怖感、昔の人は大人でも抱いていた。なぜなら夜は悪魔や死霊が跋扈(ばっこ)する時間帯だから。夕暮れとともに迫る不安はどんどん増して、暗くなるにつれ恐怖に支配されていく。そうなる前に、必ず家に着く必要があった。家についても人工灯があるわけではないので、頼れるのはロウソクだけである。ロウソクが買えない家庭なら暗くなった何もできない。早く寝て、恐怖の夜が去るのを待ったに違いない。

特に草木も眠る丑三つ時と言われる深夜帯は最大の恐怖の時間帯。昔の人にとってこの時間帯は今日からは想像もできないほど怖い時間帯だった。明け方が早くやってくるのを必死に願ったに違いない。サン・サーンスの「死の舞踏」という曲がある。墓から起きだした骸骨たちが狂乱の宴を繰り広げ、夜明けを告げるラッパで慌てて墓の下に戻るという筋書きの曲。昔の夜はまさに、こういうものだったのだろう。

夜は窃盗と夜警の時間帯

もちろん悪魔なんているわけがないと考える理知的な人もたくさんいた。しかし、そういう人にとっても夜は恐怖の時間帯だった。キリスト教会が不可侵の時間帯として夜を設定したため、夜は法の及ばない時間帯だった。その結果、犯罪が増えたのだ。悪魔を信じない人でも、人間に襲われるという現実の恐怖や可能性は消すことができない。夜の帳は都合よく凶悪犯罪を覆い隠したため、夜外を歩く人は誰でも襲われる可能性があった。

そんな治安対策として夜警という職業が活躍した。文字通り夜に町を警備する人だ。夜警の権力は強力だった。単に夜町を歩いているだけで不審者と見なされ、取り締まられた時代があったらしい。その一方で夜警は装備が貧弱だったため、刃物や銃をもつ凶悪なnight walkerには弱かったとされる。

人工灯のない時代の睡眠

「失われた夜の歴史」を読んで一番驚く部分は、きっと多くの人が一致するだろう。それは昔の睡眠だ。現在、不眠症とか不安で夜起きてしまうとか、そういうのは例外として扱うならば、多くの人は6時間睡眠とか8時間睡眠というように、睡眠の途中で起きることを前提としない睡眠をとっているだろう。

人工灯のない時代の睡眠はこのスタイルとは大きく異なったらしい。夜中に一度本格的に目を覚まして、しばらくしてからもう一度寝たというのだ。これが本当かどうか、実験をした学者がいるらしく、人工灯のない環境では、人間の持つ本来の睡眠リズムは、この一度起きるスタイルになるらしい。

最後に

この本を読むと日頃我々が当然のごとく享受している夜遊びとかそれに類する行為は、ごく一部の先進国のみにある浅い歴史しか持たない行為だと分かる。今は失われてしまったかつての夜が持つ恐怖の姿。その姿を垣間見ることができる。
こういう知識があると、例えば過去の文献の読み方が変わるかもしれない。昔の人の夜に対する感覚でもって、昔の人が書いた文章を読めば、今まで気付かなかったことを発見できるかもしれない。

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このブログの筆者

早川朋孝
早川朋孝
ネコ好きな読書家。
月一冊は専門書を読むのが目標。年間読書計画はだいたい決まっているが、だいたい横にそれるのが悩み。好きな作家は塩野七生さん、佐藤優さんなど。タバコ嫌いで、ちょい右寄りです。

仕事はウェブが専門。学生の頃よりウェブ制作に従事し、CMSの提案やアクセス解析が得意。上場企業や、東京オリンピック関連サイトなど大規模ウェブサイトのプロジェクトを多数経験。仕事のウェブサイトはこちら
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