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2021年2月に読んで面白かった5冊を紹介

早川朋孝 早川朋孝
ITコンサルタント

『オリジン・ストーリー』 デイヴィッド・クリスチャン著 筑摩書房

オリジン・ストーリー

本書は宇宙物理学、地質学、生物学、歴史学、哲学、経済学などを含む幅広いテーマを扱っている。『ビッグヒストリー』を読んですっかり心奪われてしまって以来、デイヴィッド・クリスチャンの著作を追いかけている。『ビッグヒストリー』は3名の著者による共著だがこの『オリジン・ストーリー』はデイヴィッド・クリスチャンの単独の著作だ。作品全体の統一性という観点からすると、単著のほうが好ましいのは言うまでもないだろう。著者の考えを一貫して学べるからだ。

本書で宇宙誕生以来の歴史を学んだ後は、読者は天文学を学ぶもよし。あるいはプレートテクニクスに興味を持つかもしれないし、生物学に関心を引かれドーキンスの『利己的な遺伝子』を読むかもしれない。つまり本書を起点にして様々な世界が拡がるのだ。読者は『オリジン・ストーリー』に書かれているような包括的な歴史を、質の高いテクストで学べる時代にいる幸運を味わうことができるだろう。ユヴァル・ノア・ハラリの『サピエンス全史』と並び、いま読んでおくべき一冊だろう。

おすすめの関連書籍

  • 『ビッグヒストリー』 デヴィッド・クリスチャン、シンシア・ストークス・ブラウン、クレイグ・ベンジャミン共著 明石書店
  • 『サピエンス全史』 ユヴァル・ノア・ハラリ著 河出書房新社

『エネルギー400年史』 リチャード ローズ著 草思社

エネルギー400年史

『ビッグヒストリー』を読んでからというもの、私は「エネルギー」というものに強い関心を持つようになった。わざわざかっこをつけたのだから、ここでいう「エネルギー」には広い含意があるのはお分かり頂けるだろう。

今日の世界では、ビルの上の階に行くにはエレベーターを用い、遠くには行くには車に乗り、さらに遠くに行くには飛行機に乗り、夜中でも明かりをつけ快適に読書ができ、家にいながらいい音で音楽が楽しめ、冬でも暖房で快適に過ごす。これらのことは誰も疑問を持たないくらい当たり前のことになったが、これらすべての行為のベースにはエネルギーが安定供給されるという前提がある。

エネルギーが安定供給される以前の世界で、人は少しでも楽で快適な生活が送られるようエネルギー源を求めて奔走した。木材を求めて燃やすのも、石炭を馬で運ぶのも、石油を採掘するのも、ガスをひくのも、黒船がアホウドリのウンコを探して太平洋を西に進んだのも、どれもエネルギー源を求めての行為だ。そんなエネルギー源をもとめる人の歴史400年ほどを、ざっと概観しようというのが本書の試みだ。

本書の終わりのほうにはチェーザレ・マルケッティというイタリアの物理学者のグラフが登場する。個人的にはこの最後の数ページのためだけに本書を買う価値は十分にあると思ったグラフなのだが、このグラフの意味するところは、新しい技術が完成し人が新しいエネルギー源を得ても、それが人々の間に普及するには時間がかかるということだ。仮に今後新しいエネルギー源が都合よく登場しても、それが今普及しているエネルギー源にとって代わるには50年とか100年かかることがこのグラフかわ分かる。しかし脱炭素化社会は喫緊の課題であり、100年もの猶予はない。

日本は政治的な理由で原発は使えず、冬になると電力事情は逼迫するのに、相変わらず火力発電から抜け出せない。日本の電力事情に突きつけられるこのグラフの語るところは、重い。

参考までに日本の電力事情を挙げておこう。資源エネルギー庁「電力調査統計」より。

2018年の発電電力量(単位は百万kWh)
火力発電 823,589
水力 87,398
原子力 62,109
太陽光 18,478
風力 6,493
地熱 2,113

おすすめの関連書籍

  • 『資本主義の終焉と歴史の危機』 水野和夫著 集英社新書
  • 『新・環境倫理学のすすめ』 加藤尚武著 丸善ライブラリー

『AU オードリー・タン 天才IT相7つの顔』 アイリス・チュウ著 文藝春秋

AUオードリー・タン

一人の天才が現れると、イメージが一人歩きしネットでは異常なまでにもてはやされる。その天才は神格化され、実態以上のものとして扱われることが多い。福島の原発事故の時の吉田所長の英雄扱いを思い出せば、よく分かるだろう。本書は台湾のIT相オードリータンを取材したものだ。AUとはオードリータンのハンドルネームとのこと。

コロナ禍における台湾のマスク問題を解決したオードリータンだが、一人でプログラムを作って解決したわけでもなんでもない。実際にはチームを組んで問題解決にあたった。本書のような冷静な筆の運びの本で、もてはやされる人や現象の実態を知るのは大事なことだろう。とはいえ天才で魅力的な人物であるのは間違いないようだ。仕事をするうえでオードリータンのような姿勢に少しでも近づくことができればと、つくづく思う。

共働は形式も大切だが、さまざまな人の異なる意見を進んで理解する者がいることの方が、もしかするとより大切かもしれない。そのことをほぼ直感で理解していたタンは、異なる考えの相手の相手に対してすべきことは、説得ではなく、相手の立場をより深く知り、その立場から別の人とと口論ができるくらいまで全面的にその考えを理解することだ、と考えていた。

そしてさらに私が関心を持ったのは、オードリー・タンが選んだ人生で最も影響を受けた20冊だ。中国の古典、柄谷行人、ウィトゲンシュタイン、ミヒャエル・エンデ、トルーキンなど多様な20冊が並んでいて、どれも面白く必読というべき本ばかり。柄谷行人がリストアップされていたのには少し驚いたが、読書リストより衝撃を受けたのはオードリータンの読書法だ。本文より一部引用する。

もし明日の会議のために400ページの資料を読む必要があるとすると、就寝前に400ページすべてをめくってから眠る。すると朝起きた時には読み終わっているのだ。睡眠時間を利用して大量の資料を理解できるのだから、非常に省エネだ。

目が覚めたら読書は終わってる。ホントかいな。

おすすめの関連書籍

  • 『チームの力』 西條剛央著 ちくま新書
  • 『総務部長はトランスジェンダー 父として、女として』 岡部鈴著 文藝春秋
  • 『フェイクニュースの見分け方』 烏賀陽弘道著 新潮新書

『生と死を分ける数学 人生の(ほぼ)すべてに数学が関係するわけ』 キット・イェーツ著 草思社

生と死を分ける数学

本書は抜群に面白い。数学の本だけどもちろん数学的な素養がなくても読める。読んで面白く、しかもためになるという希有な書だ。本書の内容をかいつまんで説明すると、世の中のあらゆる物事の裏には数学がある。それが見える人と見えない人との間には大きな溝があり、その溝が時と場合によっては生死をも分ける。少し大げさだろうか?

このコロナ禍でよくニュースでも取り上げられた用語に「偽陽性・偽陰性」と「実効再生産数」というのがある。本書ではこれらの用語についても正確に説明してある。偽陽性の事例を乳がんのマンモグラフィー検査で陽性が出た女性のうち、真の陽性である人は圧倒的に少ないことを挙げている。こういう数学的な知識があれば、様々な検査結果に一喜一憂する必要もなくなる。

「私は文系だから数学はちょっとね」となんとなく数学周りの話題をやり過ごしている諸兄にとって、本書は福音になるだろう。あなたが数学が苦手な場合、難しく複雑な偏微分や行列を計算できる必要はないだろうが、それでも簡単な比率、割合、確率、統計くらいの概念は身につけたほうがいい。間違いなくそれまで見えなかったものが見えるようになる。文学部出身で30歳を過ぎてから数学を勉強し、エンジニアとして仕事で数学を使っている私が言うのだから間違いないです。

おすすめの関連書籍

  • 『数学嫌いな人のための数学―数学原論』 小室直樹著 洋経済新報社
  • 『統計でウソをつく法』 ダレル・ハフ著 講談社

『ブラック霞ヶ関』 千正康裕著 新潮新書

ブラック霞ヶ関

まずは上の帯を見て欲しい。これが普通でないことは誰でも一瞥して分かる。しかし、中央官庁ではこんな勤務が常態化しているのだ。音にきく官僚の激務ぶりだが、本書でその実態がよく分かる。内閣は働き方改革をうたっているが、足下の霞ヶ関から始めたらどうだろう。そうでないと優秀な官僚が能力を発揮できない。いまの省庁の仕事のありかたは国益に反する。

いつだったかイージス・アショアの計画停止についての住民説明会を防衛省が行った時、その説明会で職員が居眠りをして住民に怒鳴られるニュースがあったのを記憶しているが、『ブラック霞ヶ関 』を読んだ後で思うのは、その居眠りをしていた人は連日の激務で本当に疲れ果てていたのだろうということ。ニュース映像では官僚が住民に激怒されている場面なんてのはニュース映えするから盛んに放映されるが、あんな映像はマスコミ発のただのエンターテインメントである。その裏側にどういう事情があるか冷静に見ないといけない。

ニュース動画

上記ニュース映像で岸田氏が「防衛省はてきとうな仕事をした」という旨のことを言っているが、丁寧な仕事をする環境にないのだと思う。この官僚の激務に関しては喫緊の課題だと思うが、今回のコロナ禍によって変化が見られる。この本を読んで以降、国会の資料のペーパーレス化や自治体のシステムのクラウド共通化など国益になる新聞記事が目につくようになった。日本社会が少しずつでも前進していると信じる。

おすすめの関連書籍

  • 『なぜ日本の社会は生産性が低いのか』 熊野英生著 文春新書
  • 『日本人の勝算』 デービッド・アトキンソン著 東洋経済新報社
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このブログを書いてる人
早川 朋孝 EC専門のSE
IT業界歴20年のエンジニアです。ネットショップ勤務で苦労した経験から、EC・ネットショップ事業者に向けて、バックオフィス業務の自動化・効率化を提案するSEをしています。
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趣味は読書、ピアノ、マリノスの応援など
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