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生活保護で堕落しきっている人の生活はどんなものなのか追体験『ルポ西成 七十八日間ドヤ街生活』

2019年02月08日 書評/ノン・フィクション社会

大阪のあいりん地区をご存知でしょうか。あいりん地区はあのあべのハルカスからたった一駅のところにある。「動物園前」という駅があるのですが、その駅を降りた南東一帯があいりん地区です。以前一度見学しに行ったことがありますが、それはまぁすごい場所でした。この地区を少し歩けば、どんな人でも以下のような他では見られないちょっと異常な光景にすぐ気がつきます。

  • 地区内にいる人は朝からカップ酒はデフォルト
  • なぜかみんな帽子をかぶってる
  • 喫煙率はとうぜん高い
  • その地区の中央にある警察署は要塞みたいになってる
  • 自販機で売ってる酒が異常に安い
  • 常にパトカーが巡回している。常に!
  • 車椅子と自転車がやたら多い
  • 昭和にタイムスリップしたかのような光景

ちなみにこんな感じです。

酒が安い西成の自販機

あいりん地区は日雇い労働者、ホームレス、元ヤクザ、生活保護受給者、出所者などの受け皿となっている地区で、生きていてなにかあってもここに来ればとりあえず生きていけるという場所なのです。行けば分かるけど、ここだけは本当に昭和なんじゃないかな、と思える場所。『always3丁目の夕日』とか好きな人は、西成地区に行けばノスタルジーにひたれる、、わけありません。最近は一泊1500円という簡易宿所の価格に惹かれて、外国人観光客が増えているそうです。さすが外人はたくましい。ちなみに「あいりん地区」と「西成地区」はここでは同義です。同じ場所と理解してください。

西成潜入78日のルポ

著者の國友公司氏はそんな西成地区に78日も潜入して取材をしたライターです。私はこういう企画が好きなので著者を応援したくなります。「好きだねぇ〜、よくやってくれましたね〜」って感じです。本書には数多くの魅力的で印象的な?人物が登場します。ヤク中、オカマ、クスリの売人、堕落しきった生活保護受給者など様々です。特にすごいのは日雇いで労働で10年で500万を貯めたが、3ヶ月で競馬に使い果たし戻ってきた人だ。その人は西成の基準で言うと”まとも”な人らしい。

他にも自称「有給40日を取得して西成で修行中の証券マン」とか、60くらいの脂ぎったオヤジに半分強姦されているヨボヨボのじじいとか、 災害で人が避難して無人の地域で宝の山をあさる宮崎さんなども印象的だ。宮崎さんについての記述を少し引用します。

「俺が解体していた地域は本当に放射能の数値が高いところで、もう家主も誰も帰ってこないんだよ。だから家の中にある家財道具モロモロすべて一緒にゴミにするしかないわけ。色んなものがあったぞ、洗濯機や冷蔵庫はどこの家にもあるし、高そうな壺とか絵画、日本刀とかもあったな。ネックレスとかの貴金属、フィギュアのコレクション、マージャン台・・・・。とにかく宝の山だったな」

解体作業そっちのけですべてトラックの荷台に荷台に詰め込み、各地の質屋を巡業していたというフクシマの作業員一向。みんながみんな目が”¥マーク”になっているのでお宝の取り合いという毎日だったそうだが、給料と合わせて宮崎さんの収入は5ヶ月で500万を優に超えていた。たしかにどうせゴミになるから拾う気持ちも分かるが、キングオブ不謹慎。血走った目の作業員たちがトラックに積んできた宝の山を、何食わぬ顔で買い取ってしまう質屋も質屋である。災害の際はこういった犯罪が後を絶たなかった記憶があるが、宮崎さんはそういった報道のど真ん中を走る人間だったというわけだ。

熊本地震の後も空き巣の報道があった非難轟々(ごうごう)だったけど、まさに何もこういう宮崎さんのような人が、何も考えず動物的に、即物的に反応し本能のままに生きるのだ。西成がこういう人の集合体かと思うと、すごいぜ西成。この宮崎さんの話はたびたび本書に出てくるのだけど、宮崎さんは生活保護を申請することになる。そのくだりもすごい。宮崎さんが滋賀の飯場から大阪に戻って、生活保護を申請する一連の流れを説明する箇所を読んでほしい。

しかし梅田駅に着いた宮崎さんの財布にあったのはわずか数十円。S建設に戻ろうかと考えたものの、電車賃だけでも梅田から動物園前まで230円かかる。フクシマで拾ったガラクタを売ろうとするも、全部で数円にしかならなかった。「いよいよだな」と途方に暮れていたところに「おっちゃん、もう疲れたやろと?」と声を掛けられ、全身の力が一気にスッと抜けてしまい、業者に言われるがままに枚方にやってきたというわけだ。

これを読んで気づきました?疲れたおっちゃんに声をかける人がいるのですよ。これは貧困ビジネスといって、生活保護の申請の仕方が分からない人の代わりに申請の手配をして、ピンハネする業者のことらしいです。世の中いろいろな仕事があるのです。

『ルポ西成』を読むと世の中の広さをつくづく感じる。東京やその他都市部にいてオフィスワークしているだけでは一生知らない世界が広がってる。でも、考えれば戦後の日本はみんなこんな感じだったわけでしょ。誰だって突然困窮する可能性はあるわけで、困窮した後の生活がどんなものなのか、本書で追体験をするのは悪くない。

『ルポ西成』には一般人が知らない専門用語が数多く出てきます。「ショタ」「塩対応」「ドポン中」とか私が愛用してる虎の子のcasioの電子辞書にも出てこないので、文脈で想像するしかないです。

  • おすすめ度★★★
  • お買い得度★★★
  • 読み応え度★★
  • 一気読み度★★★
このブログを書いてる人
早川 朋孝

業界15年ウェブ運用の専門家です。データ分析やシステム導入の提案などをガッツリやってます。まっとうな情報のインプットとアウトプットを地道に継続することに重きをおいていて、月140時間は本を読みます。ワインとクラシック音楽とネコをこよなく愛し、タバコとトンデモ・ニセ科学は嫌い。明治学院フランス文学科卒。

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