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ウェブ業界で楽しく働くのに身につけておいて良かったと思う4つのこと

早川朋孝 早川朋孝
EC専門のSE

4つのポイント

はじめに

私はウェブ業界で楽しく働くには「最低限これだけは押さえておいたほうがいい」というものがあると思っている。この記事ではそれを書くが、それについて語る前に、初めに私の経歴を少し書いておこう。

私は今でこそウェブ系のエンジニアとして楽しく働いているが、最初からエンジニアを目指し、エンジニアとして仕事をしてきたわけではない。エンジニアになったのは30代半ばを過ぎてからだ。しかも大学は文学部フランス文学課卒という、こてこての文系出身なのだ。

そんな私でもエンジニアとして、まがりなりにも仕事をして、多少なり信頼をして仕事を依頼してくれる人や会社がいるのだから、世の中分からないものだとつくづく思う。

自分でも遠回りの道を歩んだと思っている。きつい経験や馬鹿なこともしたし、実践的なプログラムはOJTで時間をかけて少しずつ身につけ、数学は30を過ぎてから数年かけて勉強した。もちろん運や偶然もあってエンジニアになれた面もあるだろう。紆余曲折はあったけど、大事なことは、ウェブ業界で楽しく働けているということだろう。

では、楽しく働けるコツって何だろう?

変わった経歴の私なのに、なぜウェブ業界で楽しく働けているのだろう。その理由はなんなのか?この問いに考えてみると、「ああ、こういうことなのかな」と思い当たることがある。それは変わった経歴だからこそ得られた経験や、色々なウェブ運用の現場、開発の現場の現実を見たからこそ培われたものの上に、成り立っているようなのだ。

それを知っていれば、いまウェブ業界で苦労している特に20代や30代前半の若い人でも楽しく働ける将来がくるかもしれない。それを伝える試みを、今ここでしてみることにしよう。

世の中には、事前にこれが分かっていればもっと楽できたのに、と思うことがたくさんあるのには同意してもらえると思うけれど、それと同じくウェブ業界で働くのに、これを知っていればもっと楽だっだと思うことがある。ここではそれを、特に若い人やウェブ業界の経験の浅い人に伝えたい。

目次

  1. 案件は炎上する
  2. 自分でウェブを運用したことがない人が何を言っても、説得力はゼロ
  3. 書籍代はけちるな、ネット検索では体系的な知識は身につかないよ
  4. 商売人としての感覚を磨こう

案件は炎上する

炎上という言葉を職場で聞いたことがあるでしょうか。ウェブ制作や開発の現場における「炎上」の意味は、受注側と発注側の思惑や意図の相違が積み重なって、発注側が「思ってたのと違う」「納期が遅い」などのように怒り出す現象を意味する。一度案件が炎上すると、面倒くさい。すごく面倒くさい。だからデザインやらシステム開発では炎上しないで進めたいと、現場のデザイナーやエンジニアはいつも思っている。しかし、現実には案件は炎上する。炎上するのがデフォルトといっていいくらい、いつも炎上する。なぜだろう?

これを理解するには、等価値交換という言葉の意味を押さえておく必要がある。コンビニで150円のペットボトル飲料を買う場面を想像してほしい。あなたはお店で150円を店員に渡して、ペットボトル飲料と交換する。この場合炎上はしない。なぜなら150円と交換して手に入るものが具体的に目の前にあり、得られるメリットが事前に分かっているから。不良品とか、異物混入とかかなり特殊な事情がない限り、コンビニで炎上することはないだろう。

ではウェブサイトやシステム開発についてはどうだろう。この場合は、お金で交換するものが目の前にないという点において、コンビニで商品を買うのとはまったく事情が違う。デザインやシステムは手に取ることもできない。そして手に取ることはできないけれど、発注者と受注者のそれぞれの頭の中にはある。もちろん両者の姿が異なることは言うまでもないでしょう。この差分こそが炎上の正体なのだ。複数の人が頭の中で思い描いているものが同じであるなんてことは、滅多にないでしょ。だから案件はいつものように炎上する。

炎上の話を最初にしたのには理由がある。私がいた開発会社で何度となく見てきた光景なのだけれども、新卒で入った優秀なエンジニアが、炎上に直面してすぐ辞めてしまうのだ。スキルは申し分なく、ほんの2〜3ヶ月の検収で現場で開発戦力として力を発揮し始めるほど優秀な若者が、炎上という開発現場ではごくありふれたものに一度接するだけで辞めてしまうのだ。

ある程度社会人経験がある人の中には、新卒や若者のメンタルが弱すぎるだけだろと思う人もいるかもしれない。確かにそういう面はあるかもしれないが、こういうミスマッチは、実にもったいないと思う。会社にとっても、新卒の若者にとってもだ。事前に炎上が多いと分かっていれば、そういう気構えでいるから、安易な退職を減らせるだろう。

また、等価値交換についての理解も必須だ。この理解の深さについては年齢は関係なく、例えば「自分がお金を払っている」「自分は客だ」「お客様は神様だ」「お金払うほうが偉い」「お金払って丸投げで終わり」などと勘違いしている人は、等価値交換について何も理解していないと言える。こういう人が受注側または発注側に一人でもいるとたいてい炎上するし、そういう人が原因で案件の進捗が遅れたりするものなのだ。

炎上や等価値交換について理解するのにおすすめの本

督促OL修行日記

炎上については実体験を積むのが一番だが、読書による代理体験も有効だ。お勧めするのは『督促OLの修行日記』だ。カード会社のコールセンターに勤める著者は、カード未払いの人に督促する業務を担当している。著者が催促すると相手は「お前殺すぞ」と脅迫まがいのことを言ってきたりする。こういう厳しい環境で経験し、それとうまく付き合ってきた人の体験談は、開発現場の炎上とどう向き合うべきかと悩む人には福音となるだろう。

徹底的に考えてリノベをしたら

もう一冊は『徹底的に考えてリノベをしたら、みんなに伝えたくなった50のこと』だ。これはウェブ制作も開発も一切関係ない内容だが、等価値交換について理解を深めることができる。著者ちきりんは住宅のリノベーションは等価値交換ではなく、発注者と受注者の共同プロジェクトであると断ずる。ウェブ制作やシステム開発と同じ考え方ではないか。分野は違えど、自分の分野に読み替えて応用できるだろう。

自分でウェブを運用したことがない人が何を言っても、説得力はゼロ

あの人はデザイナーとして腕がいいよね、優秀なエンジニアですね、こういった評価を他者から得るにはウェブ運用の現実を必ず押さえておく必要がある。デザインスキルだけはいい、きれいなプログラムコードを書くことができる、このような技能だけではその人がお客さんに何を言っても説得力が全然ない場合があるからだ。

このことについて私の経験をベースに伝えたいと思う。私は今から20年ほどまでの大学生の頃に、niftyのサーバースペースを使って初めて自分でホームページを作成し公開していた。当時はウェブサイトとは言わずホームページと言う時代だった。niftyで「今月の優れたホームページ」みたいなものに取り上げてもらい、それに気を良くした私はホームページ作りに邁進していった。折しも業界ではSEOという言葉が広がりつつあり、競合も少なく簡単なSEO対策をするだけで、そこそこのビッグワードで上位をとれた。

SEOやリスティングはもちろん、増えてきたページの管理にCMSを導入したりした。当時のCMSはMovable Typeが主流だった。自分のホームページに広告を掲載し、その収入だけで月間20万円ほどを稼いだ時期もあった。学生の時にアルバイトもしないで月20万円稼いだのは、今思ってもなかなかだと思う。といっても安定していたわけではなく、あくまで一時的な収入ではあったけれど。

ここに書いたような一連のウェブサイト周りの経験は、つまりSEOとか、ページ作成、CMSの導入、ライティング、セキュリティ対策、アクセス解析、広告費の獲得などのことだが、その後ウェブ系の仕事をするうえで大いに役立った。自分でウェブサイトを構築してお金を稼いだわけなのだから、これは立派なウェブ運用である。ウェブ運用でどういう問題が発生するのか、なにがあれば便利だと思うのか、そういった体系的な基礎を若い時に一通り得られたのだ。

ウェブの仕事をする上でどんな課題に直面しようとも、これらの経験の延長にあることならば大抵はなんとかなるものなのだ。

さて、本段落の冒頭に書いたデザイナーやエンジニアとして腕がいいだけではダメだという意味は、専門スキルに加えウェブ運用の経験を併せ持たないと、ウェブ業界の優れたデザイナー、エンジニア、ディレクター、営業とは言えない。なぜなら実際にお客さんが持っている課題がなんなのか、想像がつかないからだ。相手の課題が分からなければいい提案はできないし、相手の信頼は得られない。例えば未経験の若いエンジニアや自称コンサルが会社の用意したマニュアルに沿ってしゃべるだけでは説得力はゼロだ。これは簡単い想像がつくだろう。

というわけで、ウェブ業界で楽しく働くには、じっさいに自分でウェブ制作、運用の経験を一通りしてみることだ。自腹でレンタルサーバーを借りて、WordPressでもなんでもいいのでCMSを構築して、ブログを書いて、SEOも頑張って、アフィリエイトで5千円でも1万円でもいいので自分で稼ぐ。こういった経験をすれば、ウェブ運用に関する問題のモデルがあなたの頭に形成される。ここまでできればあなた自身がウェブ運用の苦労が分かるだろうから、お客さんの言葉も理解できるようになる。それまで実感のなかったあなたの言葉に、本物の力が宿るのだ。

書籍代はけちるな。ネット検索で体系的な知識は身につかないよ

世の中には勉強はなんでもネットで済ませようとする人がいる。確かにネット検索は便利な側面はある。しかし、それは自分の専門分野や、英単語の名刺の意味のように表面的な内容で済む場合に限る。体系的な知識を身につけていない分野の勉強をネット検索だけで済ますことは絶対にできない。もう一度書く。ネット検索だけで体系的な知識を身につけるのは絶対に無理だ。

ウェブ制作やIT技術はネット検索と親和性が高く、検索すれば様々な記事・体験談が出てくるし、そういった記事の中には極めて有用なものもある。それでも体系的な勉強をするのは難しいだろう。なぜなら、ネット検索に出てくる情報は断片的だからである。基礎知識のない人が断片的な情報に接しても、その背後に豊富な文脈があることが分からない。これでは有用な情報であっても活用できないのだ。

では、どうやって体系的な知識を身につけられるかというと、紙の書籍である。書籍ほど安く、効率的に体系的な知識を身につけるのに適したものはない。学校の教科書が書籍の形態であるのには、それなりの理由があるのだ。その利点をいくつか列挙してみよう。

  • 書籍を買う人は、お金をかけた以上は元をとろうと勉強する
  • 出版社は生活かけていい本を出そうとするから、一定以上の品質がある可能性が高い
  • どこに何が書いてあるか身体的に把握できる
  • 書き込みができる

書籍を買う人は、お金をかけた以上は元をとろうと勉強する

自腹で本を買えば、元をとうろと必死になるでしょ。会社のお金で買うとか、図書館で借りるではなく、自分で買いましょう。そのほうが勉強することは身につくので。それと自分で買った本なら書き込みが気兼ねなくできるでしょう。

出版社は生活かけていい本を出そうとするから、一定以上の品質がある可能性が高い

ネットに転がっている記事が、その品質がばらばらなのはあなたも経験的に分かっているだろう。有用なものもあれば、まったくそうでないものもある。ネットの記事なんてものはほとんどがタダで書かれてタダで読まれるものだから、これは当然だろう。

一方で書籍は、それを出す出版社の生活がかかっている。印刷にコストもかかる。著者も少しでも売れて欲しいと必死にいいものを書くし、たいていの編集者ももちろん本気で仕事をするだろう。中にはダメ太郎な編集者もいるかもしれないが、少なくともタダのネット記事より平均的に品質が高いであろうことは想像に難くない。

どこに何が書いてあるか身体的に把握できる

ネット情報は断片的であり、ハイパーリンクで記事をたどる仕組みは画期的ではあるけれど、例えばある分野のことを扱ったウェブページを100ページ集めようとも、一冊の書籍ほど整理されまとまった情報にはなり得ないでしょう。やはり本を手に取って読むという行為に意味があり、「あの本は本棚のどの辺りに置いてあって、本の何ページ目付近にどんな内容のことが書いてある」というのを身体的・感覚的に把握できるののは大きい。電子媒体はこの点で劣る。

書き込みができる

書籍なら書き込みができる。これも身体的な行為なので、記憶に定着しやすい。iPadなんかでも書き込みができるけど、物理的には同じものの同じ箇所に対してメモを取ることになるので、感覚的にはいまいち分かりにくい。

商売人としての感覚を磨こう

あくまで一般論として書くが、雇われの会社員と小さい商店街の個人商店の店主を比較すると、後者のほうがコスト感覚に優れているだろう。もちろん例外はいくらでもいるだろうけれど。

ある会社が別の会社と取引をすればそれは商売なわけで、そこで働く人には商売人としての感覚は欠かせない。しかし、会社員として雇われていて確定申告もしたことのない人が、そう簡単に商売人としての感覚を身につけるのは難しいだろう。つまり取引相手の会社にも自分の会社にも、商売人感覚やコスト感覚に疎い人はいくらでもいるのだ。だからこそ、あなたがコスト感覚を身につけるだけで、他者との差別化につながるわけだ。

デザイナーであろうと、コーダーだろうと、エンジニアであろうと、駆け出しの営業であろうと、コスト感覚があればいっぱしの仕事ができるだろう。逆にとびきり腕のいいデザイナーであっても、コスト感覚がないと周囲からの評価は微妙かもしれない。最高のデザインができたけど、こだわりすぎて完成に時間がかかっている人とか、そういう素晴らしいデザインをお客さんに納品したのはいいけど、結果的に人件費が赤字じゃね?とか、あなたもこういう人を現場で見たことがあるかもしれない。

それから見積もりがギリギリ過ぎるのもコスト感覚の欠如に由来する。不測の事態を前提としていない見積もりを取引先に提示すると、想定外の作業が発生し追加コストがかかるのを発注先に伝えると「そんなの聞いてないよ、もう稟議通したんだから今さら予算出ないよ」と炎上したり、あるいは受注側の社内の士気が下がったりするものだ。

これら一連のことから分かる通り、商売人の感覚を持って仕事をすることが極めて大事なのだ。あなたの周りに「この人仕事ができるな」と感じる人がいれば、その人はほぼ間違いなく適切なコスト感覚をもっているはずだ。

というわけでコスト感覚を身につける必要があるのだが、これは本で学べるものではなく実践が必要である。上に「自分でウェブを運用しよう」と書いたが、その利点はここにもある。ウェブ周りの業務を自分で一通り経験していれば、どういう作業にどれくらいの工数がかかるか皮膚感覚で分かる。だから見積もりが出せるし、別の人が出した見積もりがおかしい場合にそれに気づくことができる。

また、自分で者を仕入れて他者に売るのもコスト感覚を身につけるのに役立つ。それで副業でもして確定申告まですれば言うことなし。あなたは立派な商売人である。

まとめ

この記事ではウェブ業界で働くうえで身につけておきたいことを紹介してきた。一部内容はウェブ業界にかかわらずどの業界でも通じることも書いてある。他にも伝えたいことはたくさんあるけれど、いったんはここで閉じよう。最後に本記事の内容を簡単に整理しておこう。

  1. ウェブ制作やシステム開発は等価値交換でないため、発注者と受注者で思い描いていることに差が生じ、それが原因となってしばしば案件は炎上する。
  2. 自分でウェブを運用したことがない人が何を言っても、説得力はない。だから自分でSEO、広告運用、CMS構築、ライティング、デザインなど少しでも多くのことを経験しておこう。それは大きな力になる。
  3. 書籍代はけちるな、ネット検索では体系的な知識は身につかない。お金を出して本を買えば、元をとうろと必死に勉強するし、紙に書かれた内容は電子媒体より把握しやすい。
  4. ウェブ業界で楽しく働くには特定のスキルに優れているだけではダメで、コスト感覚・商売人としての感覚を磨く必要がある。もしあなたが会社員で確定申告をしたことがないなら、副業して確定申告を経験すれば、コスト感覚を磨くのに役立つよ。
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このブログを書いてる人
早川 朋孝 EC専門のSE
IT業界歴20年のエンジニアです。ネットショップ勤務で苦労した経験から、EC・ネットショップ事業者に向けて、バックオフィス業務の自動化・効率化を提案するSEをしています。
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API連携の相談にのります
趣味は読書、ピアノ、マリノスの応援など
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