「うそだろ、何だこれ?」
「それ」を見た瞬間、思わず声が出た。
ある晩、私はGA4(google analytics)のある分析画面を食い入るように見ていた。目の前に現れたのは、上の写真の画面である。
よく見て頂きたい、page_viewが13時17分17秒に開始されるのだが、その2秒後に「CTAクリック」がされている。「CTAクリック」とは問い合わせページへの遷移を意味するクリックで、コンバージョンにつながるどのボタンがクリックされたかを計測するために、google tag managerに設定した便宜上のイベントである。
GA4のデータは私のウェブサイトで、BtoBのLPである。BtoBの広告を見て初めて訪問してきた人が、ページ表示の2秒後に問い合わせページに遷移するだろうか?これはどう考えてもおかしい。
なんとなく嫌な予感がして、上記クリックのあった日の他のデータも調べてみた。案の定、問い合わせページを閲覧したすべてのデータがこのパターンであった。下記がそのデータ一覧の一部である。
自分広告運用を開始してから1ヶ月ほどは問い合わせはおろか問い合わせページの閲覧すらまったくなく、まずは問い合わせページの閲覧したセッションをヒントにCVRを改善していこうと考えていた。そして、やっと問い合わせページが閲覧数が増えてきたのだが、問い合わせには至らない。なんとかして改善したい。
そんな時期に確認したのが訪問2秒後に問い合わせページを閲覧するデータである。
これが「アドフラウド」と呼ばれる不正クリックである。
不正クリックは広告費を広告主から悪質に搾取しようとする詐欺師たちの行為である。この時点で投じた金額は約30万円。私の初めての広告運用はこうして苦いものとなった。
頼りにしていたスモールコンバージョンが不正クリックで汚染されていた
当時の私は事業を開始すべく、初期集客をネット広告に頼っていた。ニッチなBtoBの商材のため、そう頻繁に問い合わせがあるものではない。そのため問い合わせページ閲覧にスモールコンバージョンを設定していた。
スモールコンバージョンというのは、契約、購入、問い合わせに至らずともその直前にまで至ったのだから、自分たちのビジネスに関心を持っている人を引けつたとして、それを小さなゴールと見なそうという考え方である。
そして、スモールコンバージョンをgoogleやFacebookなどの広告サービスに記録すれば、将来の見込み客の流入が増えるよう機会学習してくれて、今後の広告配信に有用となる。今の広告にはそういう機能があるのだ。
問い合わせページの閲覧が増えれば、実際に問い合わせをしてくれる人も増える、はずである。だから問い合わせページの閲覧が増えるように広告を配信したり、キャッチコピーを考える。ウェブマーケターや広告運用者はこういったことに日々頭を悩ましているのである。
だからスモールコンバージョンがあれば、それは喜ばしいことなのだ。
しかし、だ。上述の通りスモールコンバージョンは不正クリックだった。それも1割とかではなく10割全部が完全に不正だった。
これが広告運用担当者を絶望の淵に突き落とす出来事であることは、あなたらなら容易に分かるだろう。
実店舗で例えるなら
こんな例を考えてみよう。
仮にあなたがアパレルの実店舗の販売員だとしよう。新規開店したけどほとんど来客がない。たまに来店してくれた人はいかにも買ってくれそうで関心をもっている風である。あなたは熱心に商品について説明する。しかし実際は買ってくれない。それでもまた来店して買ってくれる可能性を信じて、最高の接客をする。そんなことが数人ならともかく、30人続いたらどうか。
しかもそいつらは競合店のさくらだった。
ネット広告における不正クリックとはこんなようなものなのだ。スモールコンバージョンがとれて喜んでいたが、実際は幻想だった。見込み客どころか、詐欺師たちが広告主の広告費用を食い物にしているのだ。
不正クリックの一番大きな害
大事なことなのでもう一度書く。
不正クリックは広告費用を奪われるだけではない。詐欺師たちは、わずかなデータを手がかりにCVRを改善しようとする広告主や運用担当者のデータを汚染し、邪魔をしてくる輩なのだ。
広告運用を開始したばかりにおいて、これはかなり痛い。改善のヒントにしようとしていたデータが嘘だったわけだから、広告主は完全に手がかり見失う。広告運用も検証もゼロからやり直しである。これは単純に広告費の損失どころではない。
もっと怖いこと
私の場合、自分の生活がかかっていて、アクセス解析をする習慣もあったおかげで不正クリックに気づいた。腹立たしくはあるが、そういうことに気づけば対策がとれる。別の記事で改めて書くが、不正クリックを調査してgoogleに通報すれば返金はされるし、データから除去できる。気づく人はまだましである。
問題なのは、私のようにアクセスログを解析する習慣がない人はずっと不正クリックに気づかないままという厳然たる事実だ。
例えば以下のような広告運用をしている会社があるとしよう。いや実際にあるのだ。
- 広告代理店に丸投げ
- 検証のノウハウが社内にない
- 一度決まった年間の広告予算は見直しされない
こういった会社は不正クリックの被害に遭っていることに気づかないまま長い時間が経過し、CVRが低い原因も分からず、無駄な費用を広告にかけて、詐欺師のいいカモになっているのである。最悪の場合、被害に気づかないままEC事業をたたむなんてことも起こり得る。
任せられる広告代理店か見分ける魔法の質問
「うちは広告代理店に任せているから大丈夫」と安心したている方に、伝えるべきことがある。
広告代理店の運用レベルは様々で、いい感じのキャッチコピーや広告クリエイティブ、魅力的なバナー作成などは得意でもログ分析までできる会社は少ない。というのも生ログの解析はパソコンが少し得意なくらいではできないからだ。プログラムやhttp通信の知識がないとログ解析まではできないのだが、そもそもそういう人材は少ない。
大きな広告代理店ならIT人材が社内に在籍していて不正クリックの対応も当然している。一方小さい会社だと、不正クリックに対応できているかはけっこうあやしい。もしあなたが広告運用を外注しているなら、その会社に「不正クリックはどう対策していますか」と質問するといい。もしその回答が「最近はgoogleの技術が向上して昔より不正クリックは減っていますよ」というような回答なら完全アウトである。ほぼ確実になにも対策してない。
「うちはアドフラウド対策ツールを有償で導入してます」なら最低限は信頼できる。この場合は契約時に説明があるはずだし、まともな会社なら見積もりや請求書に項目として入っている。また、「社内のIT人材がウェブサーバーのログから解析して不審なIPの除外とデータクリーニングしてます」なんて回答なら完璧であるが、ここまでできる会社なら大手広告代理店ですごく高いはずだ。
諦めるのは「もったいない」の一言に尽きる
- 「広告を出したがうまくいかずやめた」
- 「広告やったけど全然ダメだった」
- 「流入が増えただけで終わった」
こういう会社ががすごく多いのだが、その原因はレベルの低い代理店に丸投げで検証していない、または社内に検証ノウハウがないことに起因する。不正クリックがあることも知らないのだから、それでうまくいくはずがない。
もったいないのは、広告をやったのにダメだったと諦めてしまうことである。
日本には魅力的な商品を保持しているメーカーや小売店がたくさんある。地方にもそういう企業は多い。しかし、適切な広告運用ができなかったばかりに「自分たちの商品はネットでは売れない」と勝手に思い込み、成長の可能性を潰してしまうのだ。適切に広告運用できれば、より多くの人にあなたの会社や商品のことを知ってもらいもっと成長できるのである。
にっくき詐欺師たちのせいではあるが、広告運用をする以上は立ち向かわないといけないのだ。広告運用ができていないとか、CVRが低いと悩んでいる方にはまずはこの事実を知ってもらいたい。
不正クリック対策に関しては別の記事で紹介することにする。
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