あなたはネットショップの商品の発注数はどうやって決めているでしょうか。EC業務の効率化で私がよく相談されるのは、この発注に関するものです。
- 毎日商品の販売数をCSVでダウンロードして手作業で集計している
- 販売実績に基づいて担当者の勘で決めている
- 自己流で発注数を決めている
そういう方が非常に多いです。この運用で仮に発注精度が高いとしても、毎回時間がかかるのは厳しいですね。
そういう人にこそ知って欲しい。統計とプログラムという有用な武器を利用すれば、精度の高い発注数を自動で算出できるのです。
以下にネクストエンジンを例にして、一週間に必要な商品在庫を自動で算出する方法を紹介します。
一元管理ツールを使っていれば、出店モールに関係なく、商品ごとの販売数を集計できるので便利です。なお、ネクストエンジンを使っていなくても、週ごとの商品販売数を集計データがあれば同じ手順で発注数を自動算出できます。
- 商品ごとの1週間ごとの販売数CSVをダウンロード
- 平均、中央値、統計などを計算(エクセルで紹介)
ネクストエンジンの「受注明細一覧」から商品販売数をダウンロード
まず商品ごとの販売数をダウンロードしましょう。例えば、2024年12月〜2025年3月の商品販売数を集計する場合、検索画面から「商品コード単位で出力」を選択し、「受注日」で12/2(月)〜12/8(日)をダウンロードし、できたら次の週の分もダウンロードし、そうやって1週間ごとのデータをダウンロードしていきます。
ちなみにこの過程を自動化するにはネクストエンジンの「受注明細エンドポイント」のAPIを使ってプログラムを書く必要があります。

統計で計算する
実際に販売データが得られたとしましょう。仮に商品Aの一週間ごとの販売数が以下のようなデータであったとします。
3, 2, 4, 6, 4, 11, 21, 3, 4, 7, 6, 7, 9, 6
このデータに基づいて統計で計算すると、信頼係数95%の場合、14個が週始めに確保すべき在庫と算出されます。その手順を紹介しましょう。
- 平均を求める
- 標準偏差を求める
- 信頼係数95%の片側検定を求める
- 以上の数値に基づいて変動値を求める
- 参考値として中央値を求める
データの個数は14個(つまり14週間分のデータがある)なので標本サイズは14です。標本が30以上あれば正規分布を使いますが、今回は標本数が30以下なのでt分布を使います。信頼係数95%の片側検定は1.645です。この数値は「t分布の確率」というもので、統計学で決まった値です。詳しく知りたい方は統計の基礎を勉強してください。
信頼係数について補足
ECサイトで発注数を統計で求める際の信頼係数の意味は、例えばですが、以下のように解釈ください。
- 90%:売り切れる可能性を少しは許容したシナリオ。ギリギリで在庫を回すが、倉庫保管料は抑えられる。
- 95%:中位シナリオ
- 99%:在庫に多少余裕をもったシナリオ。売り切れにしたくない場合に採用。多く確保する必要があるため、倉庫料がかかる
この式に基づいて計算していくと平均値6.642、標準偏差4.813、変動は14.56です。つまり週の始めに14〜15個あれば、理論上は95%の確率で在庫切れを起こさないことになります。
ここで疑問が生じます。平均6.6個の販売個数に対して、確保すべき在庫が15個は多い気がします。平均はあくまで平均でしかないので、均等に6個売れているわけではなく、実際にはばらつきがあります。改めて販売数を見てみましょう。
3, 2, 4, 6, 4, 11, 21, 3, 4, 7, 6, 7, 9, 6
21個という大きな値があるのが分かります。実はこの21個には、例外的な大口契約の15個という販売数が含まれています。したがって大口契約を差し引くとより現実的な数値を求められます。以下が補正後の販売数です。
このように機械的に統計を使って発注数を求めるだけでは、実態にそぐわない結果となることがあります。ネットショップごとに事情が異なるので、個別に対応する必要があります。
この事例の場合では、ネクストエンジンの「受注分類タグ」で大口契約を分類し、該当するタグに一致する注文の商品注文数を、APIを使って差し引くというそれなりに複雑な運用をしています。構築や運用設計は少し時間がかかりますが、手間をかけた甲斐もあり、安定して正確な発注数を算出できています。
統計による発注数に関する注意事項
統計によって求めた発注数は、あくまで確率的なものです。絶対に在庫切れが起きないわけではないです。
どれくらい発注するかは最終的な決定は人間がするもので、発注数は経営判断の材料でしかありません。人が自己流で発注数を出しても予想はずれるし、統計やプログラムでもずれることはります。どのみちずれるのであれば、自動化したほうが楽でしょう。
この辺りの話に興味がある方は『ブラックスワン』とか読まれるといいでしょう。
