「もっと発注しておけばよかった」
10年以上前、実店舗のあるネットショップに勤務していた経験があるが、在庫切れはいつも悩みの種だった。当時商品の発注を担っていたのだが、実店舗で売れる分を勘案し、ネットショップの在庫も確保するというのは至難の業だ。
もしその発注が毎日とか毎週あれば、担当者は気も狂わんばかりだろう。
今ならそんな苦労に使う時間は数分で済む。なぜなら統計で発注数を自動化するから。過去の販売数を記録しておけば、そのデータを統計に用いて、ある商品の在庫をどれくらい確保しておけばいいか分かる。
そうすれば、特定の担当者の勘や経験に頼る必要はない。誰がやっても同じ結果が、一瞬で得られる。統計とはこれほど便利なのだ。
もちろん統計を用いたからといって完全に在庫切れを回避できるわけではないのだが、しかし、高い確率で在庫切れを起こさずに済んで、かつ発注のために費やす時間を減らせるメリットは大きい。
どうせ在庫切れが起きる確率をゼロにできないなら、発注に費やす時間を減らせる分だけ得ではないか。在庫管理で統計を用いない手はない。
しかも複雑なプログラムを組む必要はなく、誰でもエクセルでできる。必要なのは販売数を記録することだけ。これも普通のお店なら当然あるデータでしょう。
統計はこう使う
ある紅茶缶の1週間の販売個数を1年にわたり記録したところ、1週間平均120個、標準偏差は30個であった。これを95%の信頼限界で売り切れないように、毎週初めに発注しよう。
標準偏差とは
標準偏差とはばらつきのこと。平均を中心にどれくらいの差があるかということで、ここでは最大で150個の紅茶缶が売れることもあれば、最小で90個の時もあるという意味だ。
信頼限界とは
この文脈では、どれくらい厳しく売り切れが発生しないようにするかを示す数字。もっと厳しければ99%、緩ければ90%のように設定する。
標本数とは
集められるデータの数。この場合はある商品の1年分の販売データなので、365が標本数となる。dd
例えば、店舗の倉庫が限られていて商品をおけるスペースには限りがある場合を想定しよう。こういう場合では、厳しめに信頼限界を設定するなら99%にする。この場合確保すべき在庫のばらつきの範囲はせばまる。したがって確保すべきスペースを節約できるが、当然リスクもある。売り切れが起きてしまった場合の販売機会の損失が大きくなるのだ。
または、多少スペースに余裕があるから、信頼限界を緩く設定する。90%で計算すれば確保すべき在庫のばらつきは大きくなり、売り切れリスクは低くなる。
どちらを採用するかはお店の事情によるが、どうせ自動で計算するのだから、両方計算しておいてより有効なデータはどちらなのかを検証すればいいだろう。
売り切れを95%回避するための計算例
確保すべき在庫数 = 平均販売数 + 上方信頼限界 * 標準偏差
確保すべき在庫数 = 120 + 1.645 * 30 = 169.35
つまり170個の在庫を確保すればいいと分かる。
上方信頼限界がなぜ1.645かは統計の正規分布とかt分布について理解しないといけない。詳しく勉強したい人は鳥居泰彦著の『はじめての統計学』などを読めばいいだろう。
こういった計算をエクセルなどで商品ごとに算出しておけば、確保すべき在庫数から現在庫をひくだけで発注すべき数が自動で分かる。
ネットショップ店長は忙しい。自動化できることは最大限自動しよう。
面倒な作業はパソコンにやらせる
例えば、数万点の商品数がある、複数のモールに出店している、毎日頻繁に在庫が更新され倉庫に連が必要などの場合、エクセルの手計算では限界がある。そういう場合はプログラムで自動化すればいい。面倒なことを確実に短い時間でやってくれる。