新社会人を見かける季節です。電車もよく遅れているようで、毎日通勤に苦労している方も多いでしょう。お疲れ様です。さてこの季節になるとよく耳にする新社会人の表現があります。それは「拝読していただきましたか」という存在しえない表現です。さすがにまともな大人ならこんな表現はしないですが、怖いもの知らずの新社会人は平気で「拝読していただきましたか」と電話で会社の顧客に言ったり、あるいはメールに書いたりします。ほぼ毎年見かけます。新社会人が電話で「拝読していただきましたか」と大きな声で言っているのを耳にするとオフィスは震撼します。直接の上司は戦慄するでしょう。部署をまたいでその新社会人は厳重注意されるかもしれません。それくらい「拝読していただきましたか」という表現はありえない、まじで。
お前神様かよ
拝読という言葉を辞書で引きます。私の虎の子のcasioの電子辞書では以下のように出てきます。
広辞苑:読むことの謙譲語。拝誦。「お手紙ーしました」
大辞泉:読むことを、その筆者を敬っていう謙譲語。拝誦。「御著書をーしました」
拝誦は「はいしょう」について、こちらは大辞林でひくと、<読むことをへりくだっていう語。つつしんで読むこと。「御手紙ーいたしました」>と出てきます。次に拝読の「拝」について、つまり「拝む」の意味を引き続き大辞林から引きます。
①神仏など尊いものの前で、手を合せたり礼をしたりして、敬意を表したり祈ったりする。「仏像をー・む」「お日様をー・む」「祈祷師にー・んでもらう」
②心から頼む。嘆願する。「どうか、連れて行って下さい、ー・みます」
③「見る」の謙譲語。
ア(やや皮肉な言い方)貴重な物を見せて頂く。拝見する。「宝物をー・ませてやろう」「一億円の札束なんてー・んだことがない」
イ 高貴な人の姿を見る。拝顔する。現代語では、相手によっては皮肉な言い方。「皇帝陛下のお顔をじかにー・みたい」「やつの女房の顔でもー・んでゆくか(皮肉ナ言イ方)「かの室にまかり至りてー・みけるに/古今和歌集雑下詞」
そして「拝む」を広辞苑で調べます。
①身体を祈りかがめて礼をする。おろがむ
②掌を合せて神仏などを礼拝する。「秘仏をー・む」
③心から願う。嘆願する。「ー・む助けてくれ」
④「見る」の謙譲語。「お顔をー・む」
これだけたくさん事例を挙げれば十分理解できたと思いますが、「拝読する」主体は立場が下で、拝読される対象となる文章は、それ自体が超えらいのです。神さま級です、ほんとに。以下に不等号をつかって、そして他のことと比較しながら表現してみます。
のび太の家の裏山 < 富士山
お客さん < 「拝読していただきましたか」と言った人
要するにですよ、「拝読していただきましたか」という表現を論理的に突き詰めていくと次のように言っているのに等しいのです。「俺様が書いた文章を、お前は拝むようにちゃんと読んだか?」。いや、もっと言うと「俺は神様だから、俺の書いた文章をお前が拝むようにして読むのは当然だよな」となります。これは大げさでなく、本当にそうなります。論理の流れを明確にするために区切って書きますよ。
- お前は文章を拝むように読む
- 拝むように読まれるその文章は尊い
- 拝むように読まれる尊い文章を書いた俺は神様
ということです。あなたがそんなつもりがなくても、「拝読していただきましたか」というからには、上記のようなメッセージを発しているのに等しいのです。けっこうすごいですよ、これは。こんな発言をした新人くんは「お前神様かよ」と上司に怒られても文句は言えないのです。新入社員がいきなり神様って、社長よりえらいよ。飛び級どころではありません。というわけで、新社会人のあなたに言います。「拝読していただきましたか」ではなく「ご覧いただきました?」という表現を使ってください。電話口で緊張して「ご、ご、ご覧、いただ、いたた、だきましたかぁ〜」となってるくらいならまだかわいいけど、「拝読していただきましたか」はバカ丸出しである。
私自身は「拝読していただきましたか」と言われたことはありませんが、これを言ってきた人がいれば「ちゃんと勉強してこなかったバカだな」と判断し、まず相手にしません。少なくとも重要な仕事は任せないでしょう。さて、この記事を読んでいるあなたが新社会人ではなく、かつ「拝読していただきましたか」という表現の異常さを知らなかったのなら、幸いにもこの記事を読んでその意味するところがわかったのだから、『「拝読していただきましたか」という表現を使うなんてバカな奴だな。そんなことも知らんのか』というように、さも当然という顔を明日からすればいいでしょう。
後記
今朝はブラックホールを撮影できた朝日新聞の記事が面白すぎて熟読してしまった。一面にはブラックホールの記事とその隣には桜田大臣辞任とかいう記事が並んであって、まったく異質なことが出来事が対照的すぎて受けた。「自分でパソコン使うことはない」と堂々と言うサイバーセキュリティー担当兼務の大臣が辞めてくれて本当に良かった。
そんなことはどうでもよくて、ブラックホール撮影成功のようなスケールの大きな話を読むと知的興奮を覚えますよね。ブラックホールの性質をいくつかまとめてみると、以下のようなものが挙げられます。
- 太陽の65億の質量がある
ちなみに太陽は太陽系の全質量の99.9%に及ぶくらい大きいのに、ブラックホールはその65億倍だそうです。意味がわからん。 - ブラックホールを取り巻く「光表面」というものがあり、それは半径300億キロなんだって。さらにその外側には光に近い速さでガスが回転してるんだって、ふーん。
- ブラックホールの半径200億キロ以内にいったん入れば二度とぬけ出せなくなるから、中で何が起きているのか絶対に知ることができないそうな、へぇー
- そんな得体の知れないブラックホールを、世界各地の8つの電波望遠鏡を結んで口径1万キロに相当する仮想望遠鏡を作って観測したそうな
- その望遠鏡は視力300万だって。私は視力0.6です
- 異なる電波望遠鏡のデータを合成するのにには1兆分の1秒のゆらぎも許されないのに、原子時計を使ってその課題をクリアし、さらに電波の波形を乱す大気中の水蒸気も考慮して計算したらしいよ
上3つはブラックホールのことゆえ人知が及ばないけど、下3つは人のしたことです。優秀な科学の最先端にいる学者たちは、こんなに頭がいいんですね。こういう桁外れの宇宙のことを読むと、人の一人の悩みなんて存在しないに等しいと思ってちゃう。毎日電車が遅延し、お悩みの新社会人も多いだろうけど、、宇宙のような本を読めば、悩みはなくなります。「拝読していただけますか」って言ってる人がいても、どうでもいい気になってしまいますね。