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【書評】ペストの記憶 ダニエル・デフォー

早川朋孝 早川朋孝
ITコンサルタント

1655年のロンドンで流行したペストを題材にあつかった作品。完全なフィクションでもなく、ノン・フィクションでもない、史実に近い形をとったルポルタージュのような小説。著者はロビンソンクルーソーの作者:ダニエル・デフォー。

「どこかの教区で何人かがペストで死んだ。」はじめは、どっか遠くから来たうわさ程度のものでしかなかった。気にも留めていなかったのに、徐々にその噂の出どころが近づいてきて、そして頻度も増してくる。舞台はロンドンだが、ちょっとイメージしずらいので、東京を例に具体的に以下のように想像してみよう。

電車も車もない時代、あなたは銀座のあたりに住んでいて、ペストの死者が出たとの噂の出所は渋谷あたりとしよう。その噂が少しづつ、青山、六本木、赤坂、虎ノ門と銀座に近づいてくる。当初は、ある4人家族のうち2人がペストで死んだとか、そんな程度だったのが、ある家族がまるごと死んで、その家族の隣の家も全滅した。こんな感じで被害の規模が大きくなってくる。

気がつけばどこの家でも死者が出たとか、そんな噂でもちきり。これに乗じて偽医者や詐欺師が横行する。詐欺師の出した広告を本文から引用してみよう。引用するはびこる流言飛語は1655年の出来事だけど、原発事故直後の日本みたいだ。

「絶対の効能!ペスト予防にこの丸薬」
「間違いなし!の感染予防薬」
「効果抜群!空気感染を防ぐ栄養ドリンク」

ペストの記憶 p38

ドイツの高名な医師。最近オランダからイングランドに参りました。昨年、ペストが猛威をふるうなか、ずっとアムステルダムに滞在。実際にペストにかかった人を数多く恢復させました。

熟練した医師です。あらゆる毒や伝染病を打ち消す法則を長く研究してきました。40年にわたる診療で応用を重ねた結果、神のご加護もあって技術が完成し、伝染病の病ならどんなものでも寄せ付けない秘訣をお教えできるようになりました。お金のない方には無料で教えます。

こういう広告って、今でもガンのトンデモ治療法で同じようなものがいくらでも見られますよね。

ペスト流行に恐れをなしたひとは郊外に逃げる。縁をたよって神奈川や埼玉、千葉などに逃げる。しかし手遅れ。人の移動でペストも移動し、避難した先でもペストがバタバタ人が倒れる。そうやって感染が拡大していく。パンデミックの頂点に達する頃には死者が出た家は閉鎖され、感染を恐れて落ちているものを拾う人もいなくなる。郊外に逃げる人はまだ経済的に余裕がある人で、貧しい人は移動もできずペストの中心地にとどまるしかない。日常生活の流れが完全に止まり、仕事はなくなり、買い物もできず、治安は悪化する。

そんな最中、ある日突然ペストの流行が下火になる。収束宣言が出て、郊外に避難していた人が先を争って中心地に戻ってくる。しかし!

本書を読めば人類を滅亡させる可能性が高いのは核ミサイルではなく感染症だと分かるだろう。北朝鮮の核ミサイルより感染症の恐怖のほうがはるかに大きい。もしISの工作員がエボラ菌を潜伏した状態で日本にきてタイミングよく発症させたらどうなるだろう。本書を読むことで、その「どうるなるか?」について追体験できる。感染症の拡大の際に生死をわけるのが何なのか、知っておいて損はない。また、純粋に読み物としても十分に楽しめる。

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このブログを書いてる人
早川 朋孝 EC専門のSE
IT業界歴20年のエンジニアです。ネットショップ勤務で苦労した経験から、EC・ネットショップ事業者に向けて、バックオフィス業務の自動化・効率化を提案するSEをしています。
プロフィール
API連携の相談にのります
趣味は読書、ピアノ、マリノスの応援など
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