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【書評】サピエンス全史一般向け

早川朋孝 早川朋孝
文学部卒のエンジニア

サピエンス全史

あなたは詐欺られているがそれに気づいていないとしたら?
当然だと思っていることが嘘だとしたら?

「サピエンス全史」ではそんな発想を学べる。最近、ビッグヒストリーという言葉を耳にするようになった。一般的な世界史、つまりギリシャ、次にローマ、そして並行して古代中国から始まる歴史ではなく、宇宙の誕生から始まり、地球が生まれて、生物が誕生し、やがて人類が誕生する。こういった大きな流れで歴史を捉えるという考え方だ。サピエンス全史はそんなビッグヒストリーの発想に近い歴史本だ。ジャレド・ダイヤモンドの「銃・病原菌・鉄」が好きな人なら、間違いなく「サピエンス全史」も面白いはず。

難しいことが平易な言葉で説明されているので予備知識がなくても読めるし、歴史の本でありながらAIにまで言及している。話題は多岐にわたる、本書の根底にある「人間の幸福」という問題意識で一貫して束ねられているため、読んでいて違和感を感じない。この辺りは著者の力量だろう。幸福について比重が置かれているのは、著者がユダヤ人であることと関係あるかもしれない。

「サピエンス全史」は認知革命、農業革命、人類の統一、科学革命の4部からなる。上述の通り話題は多岐にわたるため、文系とか理系とか関係ないのだ。あなたの周りに「私は文系だから理系のことは分からない」みたいなことを言ってる人が少なからずいると思うが、この本を読めばそんな恣意的な分類が何の意味もないことに気づくだろう。もちろん専門家になるには文系と理系の教育を分けて受ける必要があるのは確かだ。しかし、普通の人が無理にそんな分類で自分の限界を決めるのはもったいない。リベラル・アーツにそんな意識は不要なんです。ちなみに本書には経済学、物理学、生物学、数学、宗教学、金融、哲学、ジェンダー学などが出てくる。

子宮をもっている人

男女格差については著者は女性を「子宮をもった人」と面白い表現をしている。歴史的に女性が差別されてきたことを説明する箇所では、著者は以下のように書いてある。

たとえば紀元前五世紀の民主制のアテネでは、子宮を持っている人は、独立した法的地位を持たず、民衆の議会に参加したり裁判官になったりすることを禁じられていた。 〜 中略 〜 アテネの政治指導者も、偉大な哲学者や雄弁家、芸術家、商人も、一人として子宮を持っていなかった。

サピエンス全史 上巻 p186

ね、面白いでしょ。この箇所を読むと欧米系のリベラルなインテリがどういう感覚なのかをよく理解できる。(ちなみに著者ユヴァル・ノア・ハラリはイスラエル人だがオックスフォードで博士号を取得している)。日本なんて渋谷区が同性婚の届け出を受け取るようになっただけで、欧米の感覚からかなり遅れているのが分かる。こんな感じで、人類史の本なのに同性愛に関することまで守備範囲なんです。話題が多岐にわたるっていうのはこういうこと。

陰謀論者の正体を暴く

いつの世にも陰謀論を唱える人はいます。彼らの動機はよく分からないけど、なんか世の中に不満があるんでしょうね。サピエンス全史ではそんな人たちにあてつけみたいな文章が一度出てくる。

特定の時期について皮相的な知識しかない人は、最終的に実現した可能性だけに焦点を絞ることが多い。彼らは立証も反証もできない物語を提示し、なぜその結果が必然だったかを後知恵で説明しようとする。だが、その時期についてもっと知識のある人は、選ばれなかったさまざまな選択肢のことをはるかによく承知している。

サピエンス全史 下巻 p44

「立証も反証もできない物語を提示」なんて陰謀論の典型的な手法です。陰謀は存在を証明できないと同時に、非存在を証明もできないから生きながらえているにすぎないんだけど、著者はそういった姿勢をここで「そんなのバカだよ」とやっつけている。「そういう姿勢は知的に怠惰で、こっちは筋が通っているよ」ていうインテリの自信みたいなのが上記引用からうかがえる。

男女差別も陰謀論者への攻撃もサピエンス全史の大筋とはあまり関係ないことを引用したけど、話題が豊富で面白いので、どんな人が読んでもどこか引かれる箇所が必ずあるだろうから、ぜひ読んでみてください。これだけの知的興奮が上下巻それぞれ2000円、合計してたった4000円で味わえるのだから、読書って本当にお得だ!

サピエンス全史を買ったのは去年の初夏のころ、NHKで特集される前だった。たまたまいつもいく本屋で面白そうだったから手にとって買った。アマゾンじゃこうはいかない。私は書店で本を買うのが好きです。

このブログを書いてる人
早川 朋孝

業界15年のウェブエンジニアです。文学部卒で20代はSEO、アクセス解析などフロントの運用を中心に経験しましたが、30代のある時、ひょんなことから一人情シスのような状況を経験することになり、流れでそのままエンジニアに転向しました。プログラムやサーバー管理、数学の勉強などをしなおして、いまではWebのことはフロントからバックエンドまでなんでもできます。

本が好きで月140時間は読書します。このブログではWeb業界で経験してきた業界の裏側、読書で学んだこと、技術ノートなどを書きます。ネコ好きなタバコ嫌いで、明治学院フランス文学科卒。

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