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【読書ノート】ハンザ 12-17世紀 フィリップ・ドランジェ著

書評・読書ノート

ハンザ

2017/11/12の朝日新聞の記事に『TPP11「大筋合意」発表』というものがあった。TPPとは特定圏内の国家間の自由貿易協定を指すが、人類の歴史の流れの中で国民国家という枠組みができたのは実ここ200年程度のことでしかない。国民国家ができる以前の交易はハンザのような共同体が担っていた。

「ハンザ」という単語をきいてピンとくる人は世界史を勉強した人だろう。12世紀から17世紀の約500年におよぶ、北ドイツを中心にバルト海、北海沿岸の都市によるゆるやかな貿易共同体であった。しかし、このハンザを定義づけるのは実はけっこう難しい。加盟都市による明確な締結書があるわけでもなく、総会も不定期だ。考えてみれば当然のことで、当時の交通事情からすると、ロンドン、ブルッヘ、ブレーメン、リューベック、ダンツィヒ、レーヴァル、ノヴゴロドなど広範に及ぶ加盟都市の人が、定期的に同じ場所に集まれるはずがないのだ。

それでもハンザは西欧と東欧を結ぶ貿易共同体として極めて重要な役割を果たした。例えば、ケルンに集められたライン産ワインがイングランドに運ばれたりしたのは一例である。より大きな構造で見てみると東欧からは木材、蜜ロウ、穀類などを西欧に運び、その帰り荷で毛織物や塩を東欧に運んだ。特に西欧から運ばれる塩は極めて重要だった。バルト海沿岸は塩分濃度が低く塩田ができないため、良質な塩を手に入れることができなかったからだ。曖昧な定義づけしかできないハンザが500年も続いたのは、人類史における交易の重要性を物語っている。

そんなハンザも歴史の流れには逆らえない。宗教戦争によりハンザ各都市がバラバラになった。ヨーロッパ中がプロテスタントとカトリックに分かれて争ったこの戦争で、各都市はハンザという共同体より、自身の属する領域に属することを強制された。続いて1648年のヴェストファーレン条約で現在の国際社会の枠組みの原型のようなものができ、ハンザより国家を優先するという流れが決定的になった。強力な国家の後ろ盾がないハンザは生き残ることができなかった。しかし著者は以下のよう述べる。

17世紀におけるハンザの消滅に驚くくらいならばむしろ、ハンザが長く続いたことに驚嘆すべきである。事実、あれほど多く、あれほど多様で、あれほどお互いに離れていた都市が、ほぼ500年にわたって、一つの活動的な結束を維持し、自由意志で加入した共同体に忠実であり続けることができたのは、尋常なことではない。

p383

冒頭に紹介した『TPP11「大筋合意」発表』のニュースだが、もちろんトランプ大統領によってアメリカは参加しない。自由貿易の有益性は歴史が証明しているにもかからず、自身の支持者から離れられたら困るから、それから目をそむけているのだ。自由貿易についての最良の題材ハンザは、世界史で大きく扱われることは少ないが、トランプ大統領のような人がいる現在、これについて学ぶことは有益だと思う。

本書を読めばわかるが、著者フィリップ・ドランジェの血のにじむような史料の読み込みや研究は並大抵のものでないし、さらに翻訳は7名の研究者が10年もの歳月をかけて共同翻訳したらしい。そんな名著がたった5500円である。読書の恩恵を存分に享受できる一冊だ。

このブログを書いてる人
早川 朋孝

業界15年ウェブ運用が専門のITエンジニアです。サーバー保守やアクセス解析などフロントからバックエンドまで何でも対応します。データと科学的エビデンスを重視し、月140時間は読書します。ウェブ業界の裏側や読書で学んだこと、社会的なことなどをブログ記事にします。ネコ好きなタバコ嫌いで、明治学院フランス文学科卒という文系出身のエンジニアです。マリノスファン。

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