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【書評】ギリシャ人の物語3

書評・読書ノート

塩野七生の長編「ギリシャ人の物語」の最終巻。独特の歴史エッセイという文体は相変わらず冴え渡っている。ルネッサンス、十字軍、古代ローマなどを書いてきた塩野七生が最後に選んだテーマは古代ギリシャ全3巻。1巻はヘロドトスの描いた対ペルシャ戦争の時代、2巻はトゥキディデスが記述したアテネ対スパルタ戦争。3巻は知名度抜群のアレクサンダー大王。カエサルもマキャヴェリもペリクレスも描いてきた塩野七生の描くアレクサンダー大王がどんな感じになるのか、ファンなら気になることだろう。

アレクサンダー大王については、歴史に興味がなくても名前くらい知ってる人が多いだろう。西洋の人の名前にアレックスとか、アレッサンドロなどの名前が多いのは、今なおアレクサンダー大王がそれだけ愛されている証拠だ。イスラム圏の男の名前にモハメドが多いのと同じこと。日本だと義経とか信長とか秀吉を好きだったり興味がある人は多いだろうけど、西洋人にとってのアレクサンダー大王とはそういう存在なのだ。

約2300年も前の人が、なぜそんなに愛されているのか?

東征したのはただの軍隊ではない

アレクサンダー大王の業績が大きく派手なのは間違いない。なにせいま中東と呼ばれる地域全域を、マケドニアを21歳で出発した若者が10年程度で軍事征服してしまったからだ。そんなことができたのは、好奇心、発想、度胸、決断力すべてにおいて破天荒な人物だったからのようだ。例えば、アレクサンダー大王が東征にひきつれていったのは軍人だけではなく、実に様々な技能を持った人々をひきつれていったのだが、このことからだけでも常識にとらわれない人であることが分かる。

  • 記録者たちの団体、とにかく何でも記録する人たち。
  • 通訳の一団。ペルシャ語に堪能なギリシャ人たち。
  • 技師集団。兵器とか橋を開発する人たち。
  • 医師団。病院ごと移動するような規模だったらしい。

こういった技能集団の面子を見るとアレクサンダー大王が極めて合理的であったことが分かる。武力、度胸、根性などだけで東征に臨んだわけではないのだ。そしてもう一つ、アレクサンダー大王が大好きだったのがリスク。まず、アレクサンダーが王位についた当初のマケドニアは借金が膨大だった。今の日本政府くらいすごい。アレクサンダーはその借金がすんごい状態でさらに軍隊を雇い、その軍隊の給金を合戦に勝利して手に入れようというわけ。まじかよって感じだ。

日本人でこういう極端なリスクを取ろうとする人はあまりいない。いまや女性の結婚相手で絶大な人気を誇るのは公務員というくらいだから、日本人の安定志向ぶりの対極にいるのがアレクサンダー大王と言える。

アレクサンダーのリスク大好きな性格は戦闘にも表れている。マケドニア軍の主力は騎兵だった。古代ギリシャではファランクスという長槍を持った重装歩兵が主力だったのだが、その伝統をマケドニアの王は破り、騎兵を主力にした。その騎兵の先頭になって切り込んだのがアレクサンダーだった。ダイヤモンドの切っ先のような隊形の先頭に、愛馬ブケファロスにまたがり常に先陣を切った。その様子がp208に面白くおかしく書かれている。

戦端が切られるや突撃するのが騎兵軍団だから、彼らの死亡率は他のどの部隊よりも高くなる。だが、苦情は言えなかった。最も危険に身をさらしているのが、アレクサンドロスであったから。

p208

こんなリスクをとり続け戦場で死ぬことがなかったアレクサンダーは、最高のリーダーだったのか、それともただの向う見ずでかつ強運の持ち主であっただけなのか、それはこの「ギリシャ人の物語3 新しき力」を読んで各自判断してもらいたい。どう判断しうようと、本書は面白いからぜひ読んで欲しい。。

後記

一連の素晴らしい塩野作品を誰か英訳してほしいと、いつも思います。どの作品も西洋人に対する洞察力が尋常ではなく、海外の人が読めば「こんな知性が日本にあるのか」と尊敬の念を抱くこと必至なので。

このブログを書いてる人
早川 朋孝

業界15年ウェブ運用が専門のITエンジニアです。サーバー保守やアクセス解析などフロントからバックエンドまで何でも対応します。データと科学的エビデンスを重視し、月140時間は読書します。ウェブ業界の裏側や読書で学んだこと、社会的なことなどをブログ記事にします。ネコ好きなタバコ嫌いで、明治学院フランス文学科卒という文系出身のエンジニアです。マリノスファン。

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