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AIに仕事が奪われる日は果たして来るのか?AIは夢の技術なのか?【書評】「AI vs. 教科書が読めない子どもたち」

書評・読書ノート

AI vs.教科書が読めない子供たち

新井紀子さんの「AI vs 教科書が読めない子供たち」はタイトルに「子どもたち」とあるが、実際は大人向けの大人のための本だ。子供だけでなく大人の読解力がないことに警鐘をならす、今年読むべき本の筆頭候補だと思う。自身や他者の読解力に危機感を持っている人は迷わず読むべき。

AIの限界 シンギュラリティは絶対にこない

著者は、本書の前半でAIがただの計算機であることを示す。AIに夢を見過ぎている大人は必読だ。著者は「東ロボくん」プロジェクトを推進する数学者で、AIと数学に明るい。著者は、こう説く。

AIはいくらそれが複雑になって、現状より遥かに優れたディープラーニングによるソフトウェアが搭載されても、所詮、コンピューターに過ぎません。コンピューターは計算機ですから、できることは計算だけです。計算するということは、認識や事象を数式に置き換えるということです。

つまり、「真の意味でのAI」が人間と同等の知能を得るには、私たちの脳が、意識無意識を問わず認識していることをすべて計算可能な数式に置き換えることができる、ということを意味します。しかし、今のところ、数学で数式に置き換えることができるのは、論理的に言えること、統計的に言えること、確率的に言えることの3つだけです。そして、私たちの認識を、すべて論理、統計、確率に還元することはできません。

p164

AIがどんなに進化しようと、所詮は計算機にすぎず、人類の知能に代わる存在にはなり得ないのだ。人の行動のすべてを数式で表せるはずがないからだ。また、AIのディープ・ラーニングについて、こんな話を別の本で読んだことがある。犬と狼を区別するようAIに両者の写真を大量にディープラーニングさせたところ、見事に見分けることができるようになった。しかし、狼の写真の背景はすべて雪景色だった。AIは犬と狼を見分けられるようになったのではなく、雪を覚えただけだった。

AIは何も理解していない。膨大なデータでパターンを覚えるだけなのだ。元になるデータに誤りがあれば誤った認識しか持たないし、まして、人間の複雑で非合理的な感情などを理解できるようにはぜったいにならない。

AIに限らずこれまでも夢の技術や思想はたくさんあった。原発、錬金術、黄金郷、絶対沈まないタイタニック、戦艦大和、聞くだけでで英語がペラペラになるCD、飲むだけでやせる薬、簡単に集客できるホームページ、などなど。その都度人は夢を見てきた。しかし、楽して世の中が良くなったためしはないのだから、AIに夢を見るのもほどほどにしたほうがいい。

読解力の危機

本書が優れているのはその問題意識だ。AIの東大合格プロジェクト「東ロボくん」を進める著者は、AIの限界を見抜いているわけだが、その一方で、AIに解ける問題すらとけない人が大勢いることに危機感を持つ。著者は東ロボくんと並行して、日本人の読解力についての大規模な調査・分析をした。そこでは驚くべき事実がわかった。

日本の中高生の多くは、詰め込み教育の成果で英語の単語や世界史の年表、数学の計算などの表層的な知識は豊富かもしれませんが、中学校の歴史や理科の教科書程度の文章を正確に理解できないということがわかったのです。

英語の単語や世界史の年表を覚えたり正確に計算したりすることは、AIにとって赤子の手をひねるようなことです。一方、教科書に書いてあることの意味を理解するのは苦手です。その理由は本編で詳しく説明します。

あれ、日本の中高生と同じなのでは? – そう思われましたか。そうなのです。現代日本の労働の質は、実力をつkてきたAIの労働力の質にとても似ています。それは何を意味するのでしょうか。

AI楽観論者が言うように、多くの仕事がAIに代替されても、AIが代替できない新たな仕事が生まれる可能性はあります。しかし、たとえ新たな仕事が生まれたとしても、その仕事がAIで仕事を失った勤労者の新たな仕事になるとは限りません。現代の労働力の質がAIのそれと似ているということは、AIでは対処できない新しい仕事は、多くの人間にとっても苦手な仕事である可能性が非常に高いということを意味するからです。

では、AIに多くの仕事が代替された社会ではどんなことが起こるでしょうか。労働市場は深刻な人手不足に陥っているのに、巷間には失業者や最低賃金の仕事を掛け持ちする人々が溢れている。結果、経済はAI恐慌の嵐に晒される。 – 残念なことに、それが私の思い描く未来予想図です。

p4

これは単に今の中高生やゆとり世代の人たちが読解力がないと言ってるわけではない。我々一人に「あなたの読解力は大丈夫か?」と著者が警鐘を鳴らしているのだ。そして、読解力やコミュニケーション能力のない人は、AIに仕事を奪われるかもしれない。夢の技術でもなんでもないAIにだ。そしてAIによって恐慌が起き、企業が淘汰される、とまで著者は説く。

「自分は大丈夫」と思っているあなたも、試しに以下の読解力のテストを一つやってみるといい。高度な数学も、難しい漢字も一切出てこない。論理学の基礎の基礎があれば誰でも解ける問題だ。

問題 次の報告から確実に正しいと言えることには○を、そうでないものには☓を、左側の空欄に記入してください。

公園に子どもたちが集まっています。男の子も女の子もいます。よく観察すると、帽子をかぶっていない子どもは、みんな女の子です。そして、スニーカーを履いている男の子は一人もいません。

  1. 男の子はみんな帽子をかぶっている。
  2. 帽子をかぶっている女の子はいない。
  3. 帽子をかぶっていて、しかもスニーカーを履いている子どもは、一人もいない。

答えは問題文中にすべて書いてあります。要はそれを読解できるかどうか。私大文系卒の新卒社員にでもこの問題をやらせたら、惨憺たる結果になると思う。さて、あなたは上記の問題を簡単に解けましたか?もしそうでないならなら、読解力を磨いたほうがいいでしょう。

きたるAI時代を生き抜くには、読解力とコミュニケーション能力を磨き、AIにできないことをせよ、という著者のメッセージは明快で、最後には起業まで促している。ピーター・ティールの「ZERO to ONE」に言及するなど、自己啓発本としても読める。本書は「私はこうして100万円を稼いで成功した」みたいな怪しい自己啓発本よりはるかに有用だ。


読解力を磨くための3冊

この記事を読んでご自身の読解力に危機感を持ったら「AI vs. 教科書が読めない子どもたち」をぜひ読んでみて、そして、実際に読解力を磨く他の本も熟読する必要があると思う。ただし、1時間読むだけで読解力がつくわけではない。というのも、どの本も何度も読んでようやく読解力が身につく類の本だから。読解力を身につけるにはそういう実践的な努力が欠かせない。「楽して今すぐ」みたいな安易な人は読んでも時間の無駄なので、読まないほうがいいですね。

入門!論理学 中公新書 野矢茂樹

論理学の第一人者野矢茂樹先生の新書。この内容でこの価格は安い。

ことばはちからダ!現代文キーワード―入試現代文最重要キーワード20

新聞を読んでも書いてあることが読み取れないという人におすすめ。繰り返し読むことで文章の読解に必要な基礎知識が身につく。平易な言葉で書いてあるので読みやすい。しかも820円!

国語ゼミ―AI時代を生き抜く集中講義

発売したての本。こちらは新書にしては本格的で、本腰を入れて読解力を身に着けたい人なら必読。ただし、この本だけではなく他の本も必要となる。もっとも、この本に書かれていることくらい実践しないと本物の読解力は身につかないと思われる。

このブログを書いてる人
早川 朋孝

業界15年ウェブ運用が専門のITエンジニアです。サーバー保守やアクセス解析などフロントからバックエンドまで何でも対応します。データと科学的エビデンスを重視し、月140時間は読書します。ウェブ業界の裏側や読書で学んだこと、社会的なことなどをブログ記事にします。ネコ好きなタバコ嫌いで、明治学院フランス文学科卒という文系出身のエンジニアです。マリノスファン。

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