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【書評】非正規・単身・アラフォー女性「失われた世代」の絶望と希望

早川朋孝 早川朋孝
ITコンサルタント

杉田水脈氏のLGBT発言に対していまだに頭にきている。「お前本読んで他者の気持ちを少しは勉強しろ」と言いたい。だってこの方は政治家、それも衆院議員です。こういう人に税金から議員報酬が出ているほうがよほどもったいない。早く辞めてほしい。

先日紹介したこの記事では閉鎖的な環境で極論が生まれるとあった。はじめは常識的な人でも閉鎖的な環境にいることでだんだん鈍くなり、やがて差別表現を含む極論をかざすようになってしまう。繰り返すが、普通の人、一般的な感覚を持った人であってもそうなってしまう可能性がある。

そうならないためには、閉鎖的な環境に身を置かないことが大事だが、すでに閉鎖的な環境にいる場合自分ではそれと気づかないかもしれない。そういう場合に役立つのは、てっとり早いのは読書だ。わたしは読書の要諦は代理体験にある思っていて、他者が長年かけて経験したことを文字を読むだけで追体験できるわけだから、書籍代は投資としては安いものなのだと思ってる。だって著者と同じ体験をしようとしたら、一生かかるかもしれない。そんなの不可能でしょ。

非正規・単身・アラフォー女性「失われた世代」の絶望と希望

今回紹介するのはアラフォー女性の不遇を扱った本だ。『非正規・単身・アラフォー女性 「失われた世代」の絶望と希望』は新書で安いが値段以上の価値のある良書だと思う。現在アラフォー世代の女性は、他の世代と比べると多大な不利益を被っているそうなのだが、その悲惨な様子を同じくアラフォーの作家である雨宮処凛氏が丁寧に取材して描いている。目次は下記の通りで、重いテーマだが希望もある。

  1. 非正規という働き方
  2. アラフォー女性と婚活
  3. 生きづらさを抱えながら
  4. 親の介護、その時どうする

『非正規・単身・アラフォー女性 「失われた世代」の絶望と希望』は冒頭から切実な描写が続く。「頑張れば正社員にしてあげる」と言われ続けずっと非正規で働く昌美さん。乳がんで雇い止めになった明美さん。面白いのは、日雇いの工場労働などを経験し今は時給2500円のスーパー派遣になったゆかりさん。そんな彼女のエピソードは強烈だ。

ゆかりさんは熱中症で死にかけたこともあると言う。

「アパレルの工場だったんですけど、猛暑の日は湿度が60%で、温度が32度になるんです。窓がない締め切ったところでクーラーもない。その工場では1ヵ月で6回、救急車が呼ばれるんです。それなのに従業員の許可を取らなくては水も飲めない。ペットボトル置き場に行くのに往復5分。みんな滝のように汗をかきながら作業してるので、扱ってるアパレル製品大量の汗がつきます。似たようなアパレルの物流に日雇いで入った時は、仕事をしてるうちにすごい寒気がして、38度位の日だったのにもう寒くて寒くて氷点下5度位の体感。終業まで働いたんですけど、家で倒れ込んで。それから1週間、体が硬直しました。あの時、水を飲まなかったら死んでたと思います」

また、最近人気の食関係の(フェス)で働いたこともあるというが、現場の環境はやはり劣悪なようだ。

「例えば、店頭に設置してある電球が破裂しても、ガラス片の混入を確認しないまま売っちゃうとか、腐りかけた肉を『熟成肉』として販売しちゃうとか。野菜を洗うと『野菜なんかなってる暇ねんだよ!』って怒られるので、十分に土を洗い落とせないままの食材を鍋に入れなくちゃいけなかったり、『機材がない 』って言う理由で、段ボールの底の部分でパンを切らなくちゃいけなかったり、調理が間に合わなかったら、生焼けのまま肉を出したり」

非正規・単身・アラフォー女性 「失われた世代」の絶望と希望 p72

そして第二部も面白い。36歳で彼氏が欲しくてしょうがない典子さんのエピソードは秀逸。やっとできた彼氏とは公園で水を飲むだけのデートで、彼氏は典子さんの家に自分の水道代を節約するために洗濯物をわざわざ持参し、典子さんの家で洗っていったそうだ。

いつからか、私も含めた周りの友人は典子さんの彼氏のことを「公園で水の人」と呼ぶよう
になっていた。

そんな彼氏と長く続くはずもなく、典子さんは1年で別れた。1年ももったのがすごいが。。そして極め付けは以下の部分。典子さんが強姦魔に遭遇した時のこと。

それはやはり36歳の時。彼氏ができる前のこと。家に帰る途中、若い男に話しかけられ、泥酔状態だったこともあり、そのまま部屋に上げたのだ。そうして「途中まで」致したのだ。

「相手は24歳のパチンコ屋の店員で、なんか、『私の人生にもこんなリア充っぽいことあるんだ』って、フレッシュな気持ちになったんですよ。そしたら帰り際に『ところで何歳だっけ?』って聞かれて、『36』って言ったら、『は?36かよ!』って吐き捨てるように言われてガチャンってドア閉められたんですよ!それで、薄々わかってはいたけど、そんなに怒るくらいババアって忌まわしい存在なんだって、それ以降気にするようになっちゃって……」

そんな「年齢」問題は、以降、彼女の人生に影を落としていく。

例えばある日、酔っぱらって自宅に帰る途中、彼女は「強姦魔みたいな人」に襲われかけている。普通だったら真っ先に逃げるわけだが、「36ってことが罪みたいな気持ち」になっていた典子さんは、強姦魔に思わず「何歳ですか?」と聞いたというのだ。返ってきた答えは「35歳」。

「いいんですか?もしかして若く見えました? くらいでテンション上がりましたよ」

強姦魔はというと、慌てて逃げていったという。強姦魔に年齢を聞くと逃げていく。新たな撃退法かもしれない。

非正規・単身・アラフォー女性 「失われた世代」の絶望と希望p94

最後の「親の介護、その時どうする」では大手企業に勤めて年収1千万もある人が、親の介護離職を機にどんどん困窮し、ホームレスになるまでの事例が紹介されている。いつ誰がこういう目に遭うとも限らないわけで、生活保護をつかって生き延び社会復帰した人の事例などは、読んでおいて損はない。思いつめて自殺する前に、誰かに助けを求めればいいのだ。

本書には様々な女性が登場する。結婚していない、非正規雇用、うつ病、ひきこもり、時給2500円、ババア御殿が夢などのアラフォー女性たちの多くは、衆院議員の杉田水脈氏風に表現するならば「生産性のない人」である。そういう人に税金を投入するのがもったいないのだろうか。断じて違う。日本の憲法25条にはこうある。

すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。

社会権、生存権など歴史の流れの中で広く認められてきたものである。憲法にはその理念が含まれている。杉田水脈氏の言説は憲法を否定するもので、断じて容認できない。アメリカがトランプを選んだ事実が物語るように、富裕層とそうでない層の分断が世界に広がりつつある。本書を読めばわかるように日本も例外ではないのだ。これからの日本社会について深く考えるきっかけを与えてくれる一冊だ。

新書であるのと、人々の日常についての文章で、そしてエンタメ要素もある。難しい表現はなく、一瞬で読めます。オススメ。

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このブログを書いてる人
早川 朋孝 EC専門のSE
IT業界歴20年のエンジニアです。ネットショップ勤務で苦労した経験から、EC・ネットショップ事業者に向けて、バックオフィス業務の自動化・効率化を提案するSEをしています。
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