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【書評】愛国奴 古谷経衡(ふるやつねひら)

書評・読書ノート

「ネトウヨ」という言葉を、あなたは聞いたことがあるかもしれない。一般にインターネット上で排外的で右翼的な言説、言動をする人たちのことを意味するが、品の悪い「保守」との違いがよく分からず、定義は曖昧である。また「ネトウヨ」は蔑称と言える。というのも、もし「あなたネトウヨね」なんて他者に言われたら、相手の意図に関わらずそれを侮辱と受け止め、ものすごく腹が立つだろうから。

古谷経衡氏の初小説『愛国奴』ではそんなネトウヨの世界を覗き見ることができる。普段ネトウヨと付き合いのある人なんて、まっとうな感覚を持った人の中にはいないだろうから、一般的な感覚を持つ人が本書を読むことでネトウヨの世界を知るいい機会になると思う。挙げればきりがないが、ネトウヨは以下のような特徴がある。

  • ネトウヨは自分たちの不満を中国、韓国のせいにする
  • ネトウヨはヘイト表現を平気でし、むしろそれを好む
  • ネトウヨは学問的基礎がなく実証性を無視すし、ネットに書いてあること盲信する
  • ネトウヨは自分の見たいようにしか世界を見ようとせず、詩的世界に生きている
  • ネトウヨは陰謀論を信奉する

要するにネトウヨは馬鹿なんですね。こんなネトウヨたちと主人公が自身の講演会でやりとりする場面があるから紹介しよう。フィクションだがネトウヨの本質をあぶり出す秀逸な場面だ。

「テレビ局や新聞社の新卒採用は、毎年数十名です。系列を入れても百名はいないどころか、局によってはゼロもあり得る。そういう世界です。

テレビ局や新聞社よりも、自動車産業や電機メーカー、保険会社、鉄道会社の方が、それこと毎年千人単位で学生を取ります。一局でわずか数名の新卒者しか採用しないテレビ局や新聞社に、中国や韓国の工作員とやらが入り込むような余地があるとは到底思えませんけど。あなたはこの事実をどう考えますか」

「いやでも、ネットにはテレビ局に中韓の工作員が入り込んでいるとしっかりと書かれていますし、そうでないとテレビや新聞が偏向報道をやる理由が説明できないじゃないですか」

「ですから、その偏向報道というのは、戦後民主主義的姿勢であると、さっきいいましたよね。それにあなたも同意しましたよね。

戦後民主主義的傾向を持った日本人は、当然日本が先の戦争に敗れた反省というか、民族的体験から生まれてきたもので、中国や韓国とは関係がありません。それともあなたは丸山眞男や吉本隆明や大江健三郎を代表とする戦後の知識人や文化人が、まさか中国や韓国の工作員とでもいうのですか」

すみません、丸山マサオって誰ですか。吉本たか? 大江けんしろう? すいません、誰ですか」

愛国奴 p203

こんな感じでネトウヨは無学で、排外的な主張を平然とする。自身の無謬や論理破綻に一切気づかず、まっとうな感覚を持った主人公との議論は永遠に平行線をたどる。彼らがなぜこういう言説をとるのかその理由は分からないが、社会に居場所のない人たちが、鬱憤を晴らすために排外主義に飛びついていると推測される。彼がいくら中国人や韓国人を嫌おうとも、日本人の生活はもはや外人なしには成立しなくなっている。

今年1月の総務省の住民基本台帳による人口調査によると、外国人は約249万人で前年より17万人増えている。日本の人口を一億二千四百万人として、外人の比率は1.99%にもなる。そして一番多いのはダントツ中国人だ。コンビニや飲食チェーン店に行けば、外国人労働力が活躍しているのをあなたも知っていると思う。彼ら外国人労働力なくしては、われわれの生活はもはや成立しないところまできている。こういう事実をネトウヨは無視するのだ。

そして本書が秀逸なのは、ネトウヨを相手に迎合的な言説を展開し商売をする人がいることを巧みに描いている点だ。我々の生きる資本主義社会では、どんなことでも商売の材料にして、自分の利益とする人がいる。以下は閉鎖的なネトウヨのネットワークの中で、嫌韓や嫌中を売りにしている登場人物が、まっとうな感覚をもつ知識人に説教をされる場面だ。

なぜ共存共栄という考え方ができないのかね。それと、私は君の本を読んでいるよ。最近の君の本なんて、申し訳ないが学問的価値がないじゃないか。全部、本邦が駄目な理由を中国とか韓国のせいとかユダヤ人や共産主義のせいにしておる。逆にいえば君は、本邦人は中国人や韓国人やユダヤ人やアカにだまされるような、ひ弱で軟弱で愚鈍な民族といってるに等しい。これは新しい自虐史観かね。どうせ学問のない連中を相手にそういった突拍子もない、鋭利なことをいって会員を集めているんだろうが。ま、それは経済の自由だから私がとやかくいうつもりはないけれど、君には理はないよ。

愛国奴 p293

現実に過激さを売りにして一部のネトウヨやそれに類する人の支持を集めている人はいくらでもいる。彼らは自分の利益のために平気で事実をねじ曲げ、外人や弱者を攻撃する。実際本屋に足を運べば、嫌韓本や嫌中本がたくさん売っているのをあなたは見つけるだろう。最近の代表格が衆院議員の杉田水脈氏だ。新潮45に掲載されたコラムは私も読んだが、ひどいものだった。それについて詳しくはこの記事で書いた。

愛国奴のような優れた小説にはフィクションであっても現実社会の問題が巧みに投影されている。こういう小説を読むと、極端な右左に偏ることの危険性が分かる。

このテーマに関する本

日本国家の真髄

正当な保守とか右翼について知りたい人は『日本国家の真髄』をおすすめする。『愛国奴』には保守について以下のような優れた記述が登場するが、まさにこの「人間理性への懐疑」について『日本国家の真髄』では言及がある。

保守ってのは人間理性への懐疑であって、人間の無謬を疑い、人間は不完全な生き物だから間違う、だからその解を歴史や伝統に求めようという前提で世界を見る姿勢そのものなんですよ。

愛国奴 P213

日本を蝕む極論の正体

古谷経衡氏の著作。書き下してあり分かりやすい。極論やフェイクニュースなどが溢れる現代、その裏にはどんなメカニズムがあるのか知っておくことは生き延びるのにとても大事なことだと思う。書評はこちら

フェイクニュースの見分け方

こちらも必読かと。フェイクニュースは極論のような形をとるとは限らず、極めて巧妙なものも多数ある。なぜフェイクニュースのようなものが出回るかというと、それによって利益になる人がいるからだ。私たちはそういう構造を知っておく必要がある。

このブログを書いてる人
早川 朋孝

業界15年ウェブ運用が専門のITエンジニアです。サーバー保守やアクセス解析などフロントからバックエンドまで何でも対応します。データと科学的エビデンスを重視し、月140時間は読書します。ウェブ業界の裏側や読書で学んだこと、社会的なことなどをブログ記事にします。ネコ好きなタバコ嫌いで、明治学院フランス文学科卒という文系出身のエンジニアです。マリノスファン。

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