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6歳の子供が警察に誘拐された?19世紀の実話『エドガルド・モルターラ誘拐事件』

早川朋孝 早川朋孝
ITコンサルタント

あらすじ

1858年のある日、教皇領のモデナにあるユダヤ人のモモロ夫妻宅に警察がやってきた。警察は夫妻の6歳の子供エドガルドが過去に洗礼を授かった事実があるとし、教皇ピウス9世の命令で子供を保護すると夫妻に伝えた。突然子供を連れていかれると警察に言われた夫妻は激しく動揺するが、どうにもならない。それ以降、国際世論を巻き込みながら、子供を取り戻すためのユダヤ人夫妻の長い戦いが始まる。果たして夫妻はエドガルドを取り戻せるのか。

統一国家イタリアの誕生の過程で

現代の感覚からすると信じられないようなことが今から160年前のイタリアであったのです。当時のイタリアは今日のような統一されたイタリアではなく、教皇領やサルデーニャ王国領、シチリア王国、ナポリ王国などに分かれていました。そんな中でリソルジメントというイタリア統一運動の機運が高まり、例えば、ある都市の所属が教皇領から王国になり一夜にして体制が変わります。ただでさえ迫害されてきたユダヤ人はこの動きに翻弄されます。

モモロ夫妻の住んでいたモデナはまさに一夜にして体制が変わった都市で、子供がカトリック勢力に拉致された当時はモデナは教皇領であったのが、3年後の1861年にはサルデーニャ王国の一部となり、ユダヤ人のエドガルドの連れ去りを指示した異端審問のカトリックの司祭は、新体制の検察に逮捕・起訴されます。

洗礼って?

そもそも過去に洗礼があった事実があると、なぜ警察はその子供を拉致できるのか?について補足します。その前に「洗礼って何?」という人のために大辞林からその意味を引用します。

サクラメントの一。キリスト教入信の儀式。浸水(身体を水に浸す)または灌水(頭部に水を注ぐ)や滴礼(頭部に手で水滴をつける)によって、新しい信仰生活に生きることを象徴する。バプテスマ。

読んでわかるとおり、ただの儀式です。この洗礼は本来は司祭がするものですが、司祭でない人が行った洗礼であっても、それは有効になります。エドガルドに洗礼をしたのはモモロ家で召使いとして働くカトリックの女でした。文字もろくに読めない女が、てきとうに水を子供に水をふりかけて所定の動作をするだけで、それは洗礼になります。誰か証人がいるいなくても、それは洗礼になります。洗礼した事実がなく「過去にあの子供に洗礼をした」と証言するだけで、それは洗礼になります。そして洗礼された子供が異教徒の場合、異教徒の手からカトリック教徒を守るという名目で、その子供は強制連行されます。

にわかに信じがたいカトリックの傲慢さですが、歴史的な事実です。こういったことは歴史の中で数えきれないくらいあった。いちいち問題にならないくらいたくさんあったのですが、モモロ夫妻の場合はカトリック勢力が弱まるという歴史の転換点にあり、それが誘拐事件として世界に認知されたのです。モモロ夫妻はあらん限りのロビー活動をして、フランス国王やイギリスの有力ユダヤ人などが、教皇ピウス9世にエドガルドをユダヤ人夫妻のもとに戻すよう圧力をかけます。しかし教皇は頑なにこれを拒みます。

宗教ってなんだろう?

異端審問なんて中世のことだと思っていたけど、19世紀になってもまだあったのです。しかもそれが現実に人々の生活に大きく影響していた。いきなり子供を連れていかれた夫妻は絶望に沈みます。またヨーロッパ中のユダヤ人が恐怖に駆られます。この作品を読むと、宗教ってなんだろう?という素朴な思いを抱かずにはいられない。

カトリック教会は本当に傲慢なのだろうか、ユダヤ人夫妻に非はないのだろうか。ピウス9世はなぜ頑固に子供を返さないのだろうか。誘拐された当の子供本人はどういう思いなのだろうか。誘拐された子供のその後の運命を考えると、読んだ人は複雑な思いが去来すると思う。

旧勢力の反動という歴史のパターンが記されており、今テレビでやってる大河ドラマ「せごどん」が好きな人なら、面白く読めると思う。世俗化の波とそれに対応するカトリック教会は、倒幕を推進する維新派とそれに反抗する幕府にそれぞれ類比できます。スピルバーグ監督による映画化が決定しているらしいです。

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このブログを書いてる人
早川 朋孝 EC専門のSE
IT業界歴20年のエンジニアです。ネットショップ勤務で苦労した経験から、EC・ネットショップ事業者に向けて、バックオフィス業務の自動化・効率化を提案するSEをしています。
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API連携の相談にのります
趣味は読書、ピアノ、マリノスの応援など
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