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ブラック企業に勤めていて殺されそうと思ったらとりあえず逃げるべし。『戦慄の記録 インパール』から学べること

書評・読書ノート

戦慄の記録 インパール

「バカな上司に振り回されてばっかりだ、やってられねぇよ、ちきしょう」。あるいは「マヌケな先輩の尻ぬぐいをいつもしてばっかりだ、給料上がらないしざけんなよ」などとお嘆きの諸兄に告ぐ。そんな会社いますぐ辞めなさい、その状況がよくなることはまずないです。トップや上の立場の人がバカである、なんらかの感情的な固執があって職場環境が改善されない、こういう状況ではあなたの立場が改善することはありえない。それは歴史のパターンからも学べます。今回はそんな読み方ができる『戦慄の記録 インパール』を紹介します。NHKで放映され反響を呼んだ番組が書籍化されたものです。

インパール作戦とは

インパール作戦とは太平洋戦争で日本軍が実行したもっとも無謀な作戦です。一つの作戦で3万人の死者を出しました。これは大戦の日本全体の死者が約300万人であったことを考えると、その1%に相当する人数で、いかに被害者が多いかが分かるでしょ。しかもその大半は鉄砲や大砲にやられた戦死ではなく、餓死とされています。兵站を無視した最悪の作戦でした。

当時のインパールはインドにあるイギリス軍の拠点でしたが、日本軍はビルマ側からインパールを攻略する作戦を立てました。しかし、ビルマからインパールに至るには凄まじい大自然の中を行軍しないとけない。どれくらいの自然かと言うと、チンドウィン河とアラカン山脈を超えないいけないのだけど、ビルマとインドの国境沿いを流れるチンドウィン河は、川幅600メートルにも及ぶ大河で雨季になれば凄まじい濁流となるし、アラカン山脈は2000メートルを超える大山脈です。そんな自然の中を9万人もの軍隊が進軍するなんて不可能でしょ。だって食糧の調達とか重い武器の輸送はどうするの?という話です。NHK取材班が現地取材を敢行した際の描写が生々しい。

特に作戦地帯は険しい山岳と狭い河谷に囲まれたジャングル地帯で、道路は極めて貧弱、人口も少ないため、大部隊の駐屯や食糧などの調達は極めて困難だった。さらに、雨季になればマラリアや赤痢、チフスなどの疫病が蔓延するといった悪条件が揃っていた。

2017年7月、私たちはこの地域の雨季の実態を映像に収めるため、ヘリコプターによる空撮に挑んだが、離陸してもあまりの雨の激しさに引き返さざるをえず、2度目の挑戦で初めて国境沿いの大河と険しい山岳地帯を記録することができた。映し出されたのは、果てしなく続く鉛色の濁流と、光も差し込まないような暗い緑に覆われたジャングルで、日本では見ることのできない荒々しい自然の姿であった。

日本軍は事前調査でチンドウィン河がいかに苛烈な自然環境なのか分かっていたのに、太平洋戦争の不利な戦況を打破しようと意気込む牟田口司令官によってインパール作戦は強行された。牟田口司令官は「牛を連れて歩いて食糧にすればいい」と言っていたらしい。なんかもう、発想がすごくてびっくりしてしまう。その帰結はチンドウィン河の渡河の最中に、牛がイカダで暴れて押さえつけようとした兵士もろとも河に落ちて流されたり、山脈を登れず牛は結局置き去りにされたりというものだった。ひどい。。

この時点でひどい作戦というのがよく分かるけど、いろいろな要素が重なってインパール作戦はさらに悲惨な様相を増していく。例えば、軍上級幹部の一般とかけ離れた間隔が挙げられます。ちょっと長いけどそれが分かる部分を引用します。斎藤元少尉という方の証言です。

司令部には、大きな損害を知らせる報告が前線から次々と届いていた。斎藤元少尉は、牟田口司令官や幕僚たちが語っていた言葉に衝撃を受けた。

「私は、第15軍経理部に所属していました。作戦会議に出席した経理部長の資料を持って同行し、別の部屋で待機していました。呼ばれて資料を会議室に携帯しました。

牟田口軍司令官、久野村参謀長、木下高級参謀、各担当参謀と各部長が参集していました。

私が入った折、牟田口軍司令官から作戦参謀に”どのくらいの損害があるか”と質問があり、”はい、5000人殺せば(陣地を)とれると思います”(と)の返事に”そうか”でした。

最初は、敵を5000人殺すのかと思って退場しました。参謀部の将校に尋ねたところ、”それは味方の師団で、5000人の損害が出るということだよ”とのことでした。

よく参謀部の将校から何千人殺せば、どこがとれるということを耳にしました。日本の将兵が、戦って死ぬことを「殺せば・・・・」と平然と言われて驚きました。

まるで、虫けらでも殺すみたいに、隷下部隊の損害を表現するそのゴーマンさ、奢り、不遜さ、エリート意識、人間を獣か虫扱いにする無神経さ。これが、日本軍隊のエリート中のエリート、幼年学校、士官学校、陸軍大学卒の意識でした」

開始時点から破綻していたインパール作戦だが、早期に打ち切って被害を減らす機会もあった。しかし、その機会はやはり上級将校によって潰された。インパール作戦を視察した杉田参謀は大本営参謀本部にインパール作戦の現場の事実を報告し、作戦は不適切と報告した。しかしその報告はあっさり退けられた。その報告の様子がイギリスの資料に残されていたという。その部分を引用します。

秦中将は、口頭による報告を開始して程なくして、今後の状況につき「インパール作戦の前途はきわめて困難である」と報告した。すると東條大将は、即座に彼の発言を制止し話題を変えた。わずかにしらけた空気が会議室内に流れた。秦中将はおよそ半分で報告を終えた。

東條大将の行動は理に適ったものだったと感じた。そのような極めて重要な報告は公の場でなされるべきではないからである。そのうちに改めて会合が開かれるものと思っていたが、そのような話は全く出ず、結局その件は議題から外された。

なんか「これ自分の会社のことだよ」という人がいそうな感じの描写でしょ。こんな感じで作戦は継続されます。インパール作戦の現場にいる上級将校は芸者を連れ込んでいたなんて記述もでてきて、読んでると「なんだかなぁ」といういたたまれない気持ちになる。ひどい上司を持ってしまうと下の立場の人にはどうにもならない現実を見ると、もしあなたがそういう環境にいるなら、そこから離れるしかないと分かるでしょう。もちろんインパール作戦に参加した兵士には逃げるという選択肢は存在しなかったのだけど。

最終的にインパール作戦はどうなったかというと、イギリス軍の強烈な反撃にあい退却を余儀なくされる。進軍してきたジャングル、山脈、大河を今度はイギリス軍と飢えと戦いながら退くことになります。この際に多くの死者が出ました。70年以上も経つのに以下に引用するような現地の人の鮮明な証言があり、日本軍だけでなく現地の人にも強烈な出来事であったことが分かる。

「すごく膨らんだ変な格好をした死体が川を流れてくるのをたくさん見ました。陸では死体というより骨を見ました。木陰に倒れていたり、空襲で壊れた家の中に横になっていたり。ある家に子供三人で入ったら、三名の日本兵が死んでいました。きれいに骨になっていました。靴は履いたままでした。男の子が靴を脱がすと、中から乾燥した蛆がたくさん出てきました」

下痢に苦しむ日本兵の姿も多くの住民が目撃していた。モーライクで日本軍の憲兵隊の手伝いをしていたター・ジーさん(96)は語る。

「日本兵はずっと下痢をしていて歩けなくなっているので、ズボンを二枚ほど穿いていたいたけど、もう臭くて近寄れませんでした。遠くのほうから”ご飯ください”と合掌して合図してくるので、私たちは鼻をつまんでご飯を持っていきました。でも、食べてもまた同じズボンの中に下痢をして、着替えもできません」

「道端で下痢をして死んでいる日本兵を見た。緑色のハエが体中についてぶんぶん飛んで、全身が緑色になっていた。悲しいというか、本当に哀れでした」

インパール作戦ほどの、ここまで悲惨なことが繰り返されることはないと信じたいkeけど、現代のビジネスの現場ではインパール作戦と似たような構造を持った悲惨なプロジェクトとか、IT開発の現場とか、ブラック企業とかいくらでもあると思う。不毛なことを強制してくる日本の組織の悪弊は、今も昔もある。事実本書のあとがきにはこんな記述があります。

上司への忖度、曖昧な意思決定、現場の軽視、科学的根拠に基づかない精神論、責任の所在の曖昧さ、・・・インパール作戦と、現代日本でもそこかしこで見られる「悪弊」との「親和性」があのような現象を呼んだのかもしれない。

あなたがそういう組織にいる場合、逃げるのが一番です。猫は勝てないと判断した相手には最初から逃げます。それを真似すればいい。

著者がNHKスペシャル取材班とあって、特定の作家が書いたわけではないことに一抹の不安を感じたけど、岩波書店だからまいいやと、とりあえず買ってみたらなかなかの内容でした。

  • おすすめ度★★★
  • お買い得度★★★
  • 読み応え度★★★
  • 一気読み度★★

※満点は5つ★

このブログを書いてる人
早川 朋孝

業界15年ウェブ運用が専門のITエンジニアです。サーバー保守やアクセス解析などフロントからバックエンドまで何でも対応します。データと科学的エビデンスを重視し、月140時間は読書します。ウェブ業界の裏側や読書で学んだこと、社会的なことなどをブログ記事にします。ネコ好きなタバコ嫌いで、明治学院フランス文学科卒という文系出身のエンジニアです。マリノスファン。

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