仕事で行き詰まっている人にこそこういう本を読んで欲しい。自分に何が不足しているかよく分かると思う。知識人の佐藤優さんによる一種の自己啓発本です。教育の第一線にも立っている佐藤優さんだけに記述はとても具体的だ。その辺に転がってるあやしげな自己啓発本とは一線を画します。ページ数も166ページと多すぎず、長くとも2〜3時間くらいあれば読めます。気軽でいいでしょ。
要約
『未来のエリートのための最強の学び方』は学習意欲のある学生、若い社会人、またはそういった人たちを指導する立場の人に対して、いま何を勉強すべきかを端的に教えてくれます。勉強すべきは文系の人なら数学、理系の人なら歴史と哲学なのですが、そんな難しいことは要求せず高校レベルの基礎知識で十分であると、具体的な書名を挙げて著者は説きます。早稲田の政経のような偏差値の高い学部出身の人材であっても、数学を受験科目として避けて合格した人は知識に欠損があり、国際基準のエリートとまともなディベートができないとのことなのです。歴史や哲学史を知らない理系の人にも、同じことが言える。
慶応だろうと早稲田だろうと、私大文系を目指す受験生は数学を受験科目として選ばず受験できます。これには罠があって、数学を受験科目として指定してしまうと、平均点が下がって偏差値も下がってしまう。自校の価値を上げたい大学は、数学を外して見かけの偏差値を上げたのです。こういう大学の思惑によって、社会に出る人材が劣化しているのです。
苦手な科目を避けてとおってきた人が増えた結果何が起きたかというと、その具体例としてSTAP細胞事件や、齊藤元章氏によるスパコン開発の助成金を詐取事件を挙げています。いずれもしかるべきポストの人に自身の専門分野以外の基礎知識があれば、防げた可能性がある。原発事故の際も、マスコミに物理学の基礎知識がないために、政府の発表をそのまま垂れ流していたとのこと。質の低い教育によって人材が劣化していて、今の日本は危機的な状況なのです。しかし、大学入試改革により2020年からセンター試験が廃止され、別の試験となります。しばらくは新制度で混乱するだろうが、これが落ち着くと、文理融合の思想をくぐり抜けてきた優秀な人が社会に出るようになる。そうなったとき、社会に出てからはろくに勉強もしていない人や、あるいは数学を避けてきた私大文系の人材などは簡単に彼らに抜かれてしまいます。
だからこそ、文系なら数学を、理系なら歴史と哲学を今こそ勉強しておきましょう。そういう趣旨の本です。
教育がない人の書く文章と言動を紹介しちゃうよ
『未来のエリートのための最強の学び方』にはこんな趣旨の文章が出てきます。<「東京と北京の間をバスで移動したらどれくらい時間がかかるか?」と質問してくる外人と話をする気になるか?>。うーむ、なるほど、これは厳しいですね。私も仕事でそういう人に会います。ウェブ業界って若い人が多く、大学を出ていない人もたくさんいます。たまに、ちょっとアレな人に出会ったり、そういう人が書く文章を目にする機会があります。残念ながら。。
で、せっかくの機会なので、そういう人が書いためちゃくちゃな文章を紹介しましょう。軽く流し読みしてもらえればいいです。
平素よりお世話になっております。
○○会社 ○○でございます。本年1発目のニュースレターでございます。
2019年になり早速良くないニュースが多い気がしております。今年も激動の一年となるのでしょうか。
さて、今回は2019年流のサイトの活かし方を纏めました。
お時間がある際にご覧下さい。人々は何に興味を示すのか
5月1日に改元を迎える2019年。
まさに変革が多く起きる年になると思います。
「元号が変わるという事は、日本全体の経済が潤うという事だ」
というデータを見かけます。さらに2020年には東京でのオリンピックが待ち構えております。
日本全体の仕事量が増え経済が潤うのは目に見えていますね。
今回の改元は事前に情報を得ているので慌てる必要なく対応出来ることでしょう。
そんな変革がある年に、人は何に対して興味を示す事になるのか。
そこに注目してみようと思います。
ズバリそれは”今まで味わえなかった体験”だと思います。
来年2020年には【5G】が使用できるようになると言われております。
【5G】の影響はかなり大きく一気に時代の流れが進むことでしょう。
その中で2019年はその【5G】を予測したサービスが多く排出されることでしょう。
そういった通信を通じた高度なサービスに注目が集中するのが2019年だと思います。〜以下省略、似たようなツッコミどころ満載な支離滅裂な文章が続く
何が書いてあるのかさっぱり分からんでしょ。これを書いた人は誰に何を伝えたいのでしょうか。これを書いた人はこの文章を本気で自社の1000名近い顧客にメルマガとして送信しようとしていました。衝撃です。<2019年になり早速良くないニュースが多い気がしております。>この部分なんて、もしや斬新なクリエイティブ表現かなと思ってしまう。「だから何よ」と突っ込まずにいられない。続く2つの部分、<「元号が変わるという事は、日本全体の経済が潤うという事だ」>、<日本全体の仕事量が増え経済が潤うのは目に見えていますね>はまじかよ、って感じです。これを書いた彼の頭の中では、今年は元号が変わるから、そして来年はオリンピックがあるために日本経済は映画『マスク』のジム・キャリーばりに「絶好調!」なのです。ほんまかいな。
この文章の何がおかしいかをまとめてみましょう。
- 主語がなんか変
- 当然のごとく推測を前提にして話が進む
- 論理の飛躍が目につく
- 文章の前後関係が破綻している
- 全体的に表現が不自然
- 文章がひどすぎて書き直せない
あ〜、なんかもう、ひどすぎてイライラしてきます。ちょっと想像してみてください。部下がこんな文章を書いて添削を求めてきたら、もうどうしましょうって感じです。この例はとりわけ国語力のない人なので、極端な例かもしれません。日頃からスマホでLINEばかりやっていて、読書の習慣もないならば、こういう文章しか書けなくなってしまうのは仕方のないことかもしれません。でも、それでは困るのです。
私は私大文系出身ですが、数学をやりなおしました
ちょっと極端な例を紹介しましたが、文章力、読解力、論理思考力は仕事をするうえで欠かせないもので、これらが欠如しているのは、致命的な欠陥です。佐藤優さんは「勉強するのは高校レベルでいい」言っています。何も大学の博士課程でやるような専門的な内容を学ぶ必要はなく、高校レベルで十分なのです。私は私大文系出身で、30歳を過ぎてから1年以上かけて高校数学を勉強しなおしましたが、とても有益だと実感しています。ウェブサイトのデータ分析をするのに、関数や統計の知識があると思考の幅を広くとれる。分析レポートを書くのにも論理的に正確に伝えられると、メリットしかない。これがもし数学的な基礎がないならば、意味不明な自己流のデータ分析みたいになってしまい、そんなものにはなんの値打ちもありません。
最後に、論理的な類推能力を身につけた人のものの見方の一例を紹介します。これは本文より引用します。佐藤優さんによるSTAP細胞事件の見立てです。
最初から怪しかった「STAP細胞」事件
野口
その話は小保方晴子さんのSTAP細胞にも通じる気がします。佐藤
たしかにそうです。彼女によれば、普通の細胞に刺激を与えていけば、何らかのブレークスルー的現象が起きて、万能細胞になると言っているわけですから、これも言っていれば有限から無限を導き出す話ですね。野口先生、私は生物学の素人だけれども、彼女が最初にSTAP細胞を発表したときから「これは変だ」という印象を持ったんですよ。特に理研の側が何かを隠しているなと思った。
野口
それはいったいどういうところですか?佐藤
というのも、理研は彼女を売り出すときに「おばあちゃんの割烹着」というのをさかんに宣伝して、美談にしたでしょう?野口
たしかにそうでしたねぇ。佐藤
マスメディアもそればかりを取り上げていたんだけれども、その報道を見て「待てよ」と思った。いや、メディアというのはストーリーがそこにないと報道しないから、「おばあちゃんの割烹着」というアイテムを使うのは分からないではないんですよ。でも、おばあちゃんが出てくるんだったら、普通は両親もそこに出てきますよね。野口
あ、そういえば、彼女のご両親の話は聞いた記憶がないでね。佐藤
理研はあの記者会見をやるために、彼女に割烹着を着せて、パステルカラーの研究室も作ったわけでしょう。だったら、ご両親を担ぎ出して、彼女がいかに幼いころから利発な子どもであったかを語らせるのが広報としての定石です。それなのにマスメディアは彼女の両親にインタビューしなかった。蛇の道は蛇だから、メディアはきっと彼女の実家の住所も割り出していたはずです。なのに、ご両親はメディアの前に姿を現さなかった。それを見ていて、私は「これはどうも変だ」と思ったんです。
そうしたら案の定、STAP細胞はフェイクではないかという報道がどっと出ました。そこで私は「ああ、だから彼女の家族は出てこなかったのか」と得心がいったんです。
野口
といいますと?佐藤
もちろんここから先は推測ですが、あの記者会見を見た家族は「ああ、またやったな」と思ったんじゃないでしょうかね。家族は彼女の性格も過去も知っていますからね、たとえメディアがさんざん持ち上げても、「これは近寄らないほうがいい」と考えたんじゃないでしょうか。野口
言ってみれば、「前科」があったということ?未来のエリートのための最強の学び方 p139
教養があると、ある出来事に接したときに、そこから得られる情報量が、教養がない人と比べるとまるで違います。上記の引用はあくまで「推測ですが」と佐藤優さん自身が書いていますが、幅広い基礎知識に基づいた教養があれば、慧眼というべき見方ができるのです。
この4月に社会人になった人はたくさんいる思います。数学をさけて文系にいった人、歴史を勉強しないまま大学で理系の研究を続けてきた人、大学で勉強しないで遊んでいたいた人、そのまま知的な基礎体力の欠如を放置してると、将来必ず苦労します。いまのうちに勉強しておけば見える景色が変わぜ。
- おすすめ度★★★★
- お買い得度★★★★
- 読み応え度★★
- 一気読み度★★★★
併せて読みたい
いつもおすすめしてますが、AIに過剰な期待をしている人、最近読解力がない人が増えたなぁと思っている人には『AI vs.教科書が読めない子どもたち』を強く推します。AIに仕事が奪われる日は果たして来るのか?AIは夢の技術なのか?【書評】「AI vs. 教科書が読めない子どもたち」で紹介してます。