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一番好きなのはネコだけどフクロウに代わるかもしれない。偏執的なフクロウ愛を感じちゃう本『フクロウの家』

早川朋孝 早川朋孝
ITコンサルタント

フクロウの家

わたしは一番好きな動物はぶっちぎりでネコ、次はフクロウだ。でもこの本を読むと、その順位が入れ替わりそうになる。『フクロウの家』を読めばそれくらい著者のフクロウへの愛が溢れているのが分かるし、そのフクロウへの愛情は他者に乗り移る魔力がある。この本は読む人の磁場を変えてしまう危険な本なのだ。

フクロウが好きといいながら、わたしの個人的なフクロウ体験は貧弱で、親が住む福岡の片田舎の家で、フクロウの鳴き声を聞いたことがあるくらい。以下が私が直接知るフクロウ鳴き声だ。

ホー・ホー・ホーツクホー
ホー・ホー・ホーツクホーホー

福岡の田舎で聞くこの声には驚異的な秘密がある。その秘密とは、フクロウはこの鳴き声を交互に繰り返すのだが、絶対に間違わないのだ。どんな機械より正確にこの鳴き声のパターンを繰り返す。原子時計でさえ、これほど正確に同じことを繰り返すことはないと思うほどだ。ちょい大げさすぎたか?『フクロウの家』を読めばこういうフクロウの鳴き声の秘密や習性について詳しく知ることができる。

この本を読むと著者のフクロウ愛が読者に乗り移るのだと思う。どれくらい著者がフクロウを愛しているかは、本書の見事な表紙をみれば一目瞭然だ。この見事な表紙は著者自身が描いたものだ。著者はただのフクロウ研究家ではなく、フクロウを描く画家でもありフクロウを掘る彫刻家でもある。本書の第1章のページを少しめくれば、著者が「単なる」フクロウ好きではなく「熱烈な」フクロウ愛好家だと分かる。読者はその世界に一瞬で引きずり込まれて、その世界から逃れられなくなる。それくらい吸引力の強い本だ。もしあなたが少しでもフクロウに関心があるなら、本書を手に取る場合は注意したほうがいい。読み終えるまで戻ってこられなくなるから。

フクロウと人間は交流できるか

フクロウはどのくらい賢いのだろう。フクロウと人間のコミュニケーションはどの程度可能なのだろう。それを伺い知る一節があるので紹介する。この部分を読むと、まったく不可能ではないと分かる。ただし、それには相当なフクロウ愛がないといけない。

つがいのフクロウを観察していると、互いの羽づくろいをすることで絆を深めていることが分かる。そしてここでもフクロウの触感の重要性が分かる。雄は目を閉じて(雌が拒絶反応を示したときのための用心である)、雌の首筋の羽毛に触れながら顔を寄せ、わたしが背中の自分では手が届かないところを妻に掻いてもらうのと同じようなことを行っている。少なからず気持ちがいいのだろうということは見ていても分かる。もっと続けてと体を押しつける雌の体内を、エンドルフィンが駆け巡っているはずだ。ボタンと名付けたアメリカフクロウとは12年近く一緒に暮らしたのだが、止まり木をわたしに向かって近づいてきて、首を伸ばして羽根を撫でてくれと促してきたものだ。額の上部や首の後ろ側の皮膚の表面を優しくさすってやると喜んでいた。フクロウは気持ちよさにいつまでも浸っていたいようだったが、15分もそうしているとわたしのほうが限界だった。

p74

著者の観察眼も見事だと分かるでしょ。観察から得られた結果を実践し、フクロウと仲良くなったしまったのだから。とはいえ、こんなことは普通はできない。野生のフクロウは当然人間に対して警戒心でいっぱいだ。その点について著者はこう書く。

フクロウは単に本能だけの生き物ではない。成長するに従って、何を恐れるべきなのかを学習していることは間違いない。わたしが世話して育った若いフクロウたちは、わたしが囲いに入っていっても何の関心も示さないか、興味を示す程度である。わたしが治療を試みた野生のフクロウの場合、身を隠すことができないときには恐怖心に基づいたさまざまな反応を見せる。野生のフクロウは人間を驚異と見なすことを学んでいるので、愚鈍に動く影が自分たちの上にそびるように現れると、まずは慌てて逃げようとする。追い詰められると、前屈みになって地面に顔を近づけ、翼を広げて前方に伸ばし、敵をそれ以上近づけないように精一杯自分を大きく見せようとする。瞬膜を閉じて傷つきやすい目を保護し、嘴で音を鳴らし、自分の命を守るために戦う覚悟を決める。この時点でわたしを避ける方法は模索済みだ。衝突が避けられないとなると、フクロウは鉤爪を突き出して真っ向から攻めてくる。

p88

このさらっと書いてある文章には、実は驚異的な事実がある。<まずは慌てて逃げようとする。追い詰められると、>とあるけど、そもそも森の中で野生のフクロウの姿を見ることさえ困難だ。私も福岡の田舎で聞いた愛くるしいフクロウの声の主をひと目みようと探そうとしたが、彼らは決してその姿を見せてくれない。見つけて追い詰めるなんて不可能です。ドラクエで言えばはぐれメタル的な。

フクロウカフェへの一撃

フクロウは人間にとって特別な存在なのだ。ギリシャでは知恵の女神アテナの傍らに描かれるのは常にフクロウだし、哲学者ヘーゲルは<ミネルヴァの梟は夕暮れに飛び立つ>という言葉を残している。これは「ある時代が終わりになる頃に近づいて、ようやくその時代の全貌が少しは把握できるようになる」という意味。ちなみにミネルヴァはアテナのラテン名です。

そんなフクロウだが、最近はその人気を使って安易に金を稼ごうという輩に利用されている悲しい現実がある。フクロウの生態を無視して店内でフクロウを飼育し、客寄せのためだけにフクロウを利用するというカフェの存在など断じて容認できない。フクロウのみではなく、著者も人間に都合よく生き物を利用しようという姿勢には以下のように直接的な表現で怒りを表現している。

作家であり疫学者でもあるマーストン・ベイツが、この種やあの種の生物は人類にとってどんな価値があるのですか、という質問が聴衆から出て失望してときのことについて語っている。特定の昆虫の存在意義について疑義がとなえられたときには我慢の限界を超え、質問者に対して「あなたはどうなんですか」と質問で返したという。その訊き返し方はぶっきらぼうだったかもしれないが、彼の気持ちが分かる気がする。自分以外の生物の存在を、明らかな利益を自分たちにもたしてくれるどうかという基準で正当化することにしか関心がないような態度には、わたしも我慢がならない。

フクロウ好きといいながらフクロウカフェにいくような御仁は、その行為の裏に隠れている意味に気付いていない。真のフクロウ好きはフクロウを虐待してるに等しいフクロウカフェなどには当然行かないでしょ。

フクロウ好きのフクロウ好きのためのフクロウ愛に溢れた本。とにかく美しい。『フクロウの家』はフクロウ好きには垂涎だろう。文章はもちろん愛くるしい挿絵などを見ると悶絶する。それだけではなく装丁やフォント、紙質も最高で、いまのところ今年最高の一冊です。フクロウ好きが高じて本出しちゃいました的なのりを存分に味わうべし。環境問題を考えるきっかけにもなるだろう。

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このブログを書いてる人
早川 朋孝 EC専門のSE
IT業界歴20年のエンジニアです。ネットショップ勤務で苦労した経験から、EC・ネットショップ事業者に向けて、バックオフィス業務の自動化・効率化を提案するSEをしています。
プロフィール
API連携の相談にのります
趣味は読書、ピアノ、マリノスの応援など
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