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2020年に読んで面白かった本5冊を厳選して紹介一般向け

早川朋孝 早川朋孝
文学部卒のエンジニア

今年読んで特に面白かった本、印象に残っている本ベスト5を紹介します。今年発売された本に限定はしていませんが、なるべく今年発売された本や、比較的新しい作品を中心に絞ってあります。

三省堂 現代新国語辞典

三省堂 新国語辞典

いきなり辞書を紹介するあたり、変わったことをすると思うかもしれません。しかし三省堂の現代新国語辞典は紹介するに足る面白い辞書です。いや、より正確に書くならば「読んで」面白い辞書です。

私は辞書はひくものではなく読むものだと思っています。端からは端まで読めば、語彙は増えるし色々なことに詳しくなれます。本当は平凡社の百科事典を通読でもすれば様々な分野の基礎知識が身につくのですが、さすがに諸々の事情からしてそれは厳しい人が多いでしょう。そんな人におすすめするのが辞書の通読です。岩波国語辞典がバランスがよくおすすめなのですが、読んで面白いという観点からすると、この現代新国語辞典に軍配があがります。

例えば、「炎上」という言葉の記述を両者で比較してみます。岩波国語辞典はこんな感じ。

火が燃えあがること。特に、火事で楼閣・大建築物が燃えること。

そして三省堂はこんな感じ。

①大きな建物・船などが火事で焼けること。「城がーする」
②ブログなどのSNSに書き込んだことについて、短時間でものすごい数の批判の書き込みが集まること。「ー商法」(=わざと世間の批判が集まるようなことをして宣伝に利用すること)

なかなかの差分がありますね。さすが「現代 新国語辞典」と現代的な用法が充実しているのが特徴です。これ一冊を読めば若い人の不思議な会話についていけるかもしれない。

さて、我が職業たる「エンジニア」はどうかというと、岩波国語辞典ではこんな感じ。

機械・電気などの技師。更に広く、工学者や技術者。

三省堂は

機会・土木などの技師。技術者。

はい、違いがありませんでしたね。こういうものも当然あります。では次に、最近個人的に気になっている「敷居が高い」という表現はどうでしょう。まずは岩波国語辞典。

「ーが高い」(相手に不義理をしていて、その人の家に入りにくい)

次に三省堂は

①相手に義理を欠いたりしていて、その人の家に行きにくい
②気軽に近づけない。「敷居の高い高級店」

はい、きましたよ。三省堂の「現代」的な用法がばっちり書かれています。最近は②の意味でもっぱら使われることが多いでしょう。言葉や表現の意味の移り変わりを感じることができます。高校生向けの辞典らしいのですが、それに留めておくにはあまりにもったいない辞典です。大人のあなたにもぜひ手に取って欲しい。

ザリガニの鳴くところ

ザリガニの鳴くところ

今年読んだ小説の中ではベストと言っていい作品でした。2019年にアメリカで一番売れた小説だそうです。えーと、私は何を血迷ったのか、一冊買ったことを忘れていてもう一冊買ってしまい、それに気づいた時にまた誤って買わないよう最優先で読みました。そしたらば、あまりにも面白くて500ページをほぼ1日で読破したのです。正確には読むことを止められなかったというべきでしょうか。

作者は生物学者ということで自然の描写は精緻を極め、それが作品に強い現実感を与えています。例えば書き出しはこんな感じ。

湿地は、沼地とは違う。湿地には光が溢れ、水が草を育み、水蒸気が空に立ち昇っていく。緩やかに流れる川は曲がりくねって進み、その水面に陽光の輝きを乗せて海へと至る。いっせいに鳴きだした無数のハクガンの声に驚いて、脚の長い鳥たちがーーまるで飛ぶことは苦手だとでもいうようにーーゆったりとして優雅な動きで舞い上がる。

美しい自然の描写に突如として青年の死の画面が登場し、物語はその青年の死を軸にして、過去と現在が交互しながら進んでいきます。内容は大変に重いもので、読むと身につまされます。こういうのを読むとうるうるしてしまい、自分はもう若くはないなと思うのです。

同じ本を2冊買ってわかったこと、それは帯が違うことがあるんだってこと。出版書も色々工夫して頑張っていることが見て取れます。なお余った1冊は友人に進呈しました。

三体 II 黒暗森林

三体

去年出版された『三体』の続編。知る限り最高のSFと断言できます。エンジニアや理系の人なら大興奮間違いなしで、まだ読んでいない人は大至急読んでください。著者がエンジニアで、あくまでSFなので数学や物理の話がちょくちょく出てきて、理系心をくすぐりますが、理数系の素養がない人でも読んで十分に楽しめます。今年読んだ小説としては、上の『ザリガニの鳴くところ』と並んで双璧で、一気読み間違いなしの抜群の面白さ。「文庫が出るの待つ」なんてケチなことを言ってないで、こう書くのは二度目ですが、本当に大至急読んでください。

ちなみに「三体」とは物理学の用語で、広辞苑には以下のように説明があります。

3個の物体相互の間に力が作用し合う場合、それらの運動を研究する理論。完全には解けないことが証明されている。

この内容がまさに第1巻の内容そのもので、三体問題に挑む謎のオンラインゲームに主人公が挑み、そのゲームに巧妙に隠されたメッセージが物語で中心的な役割を果たします。映画化されるとかされないとか、そんな話があるようです。

シン・ニホン

シン・ニホン

ビジネス書というか、教育問題を扱った本というか、今の日本が抱えている問題を挙げてその解決策を次々に提示していく。
読むと「凄腕のコンサルとはこういう感じなのか」と著者の知性に圧倒されるでしょう。志ある若者や、あるいは若者ではなくても「日本はこのままでいいのか」と感じている全ての人に本書を強く推薦します。

コロナ禍に少子化に財政の不健全さ、ハンコや官僚の長時間労働など問題山積の日本ではあるけれど、前向きな著者はそれらに対して「伸び代がたくさん」と成長の余地がたくさんあることを示してくれる。読んで前向きになれるという意味で、自己啓発書として読むこともできる。

特に以下の引用部分などは、日本の多くの労働現場で問題になっている長時間労働の原因を本質的に突いている。こういった記述にたくさん出会えるのが『シン・ニホン』で、そのせいか私の手元にある一冊は付箋だらけです。紙質がいまいちなのが玉に瑕ですが、内容は超一流です。

膨大なことを細部まで知っているであるとか、決まりを正しく理解し、そつなつちゃんとやる系の、本質的にマシンのほうが得意な力を鍛えることにはさして意味がない時代に僕らは突入している。これからの時代はむしろ、データ x AIの持つ力を解き放てること、その上でそのなりに何をどのように感じ、判断し、自分の言葉で人に伝えられるかが大切だ。その基礎になるのは、生々しい知的、人的経験、その上での多面的かつ重層的な思索に基づく、その人なりに価値を感じる力、すなわち「知覚」の深さと豊かさだ。ある種の生命力であり、人間力といえる。
p204

ビッグヒストリー

ビッグヒストリー

今年の1番推しはこれです。2016年出版の本で新作というわけではないですが、あまりに知的興奮を覚えた本であったために、ここで紹介します。

宇宙誕生の物理と化学、生物が誕生する生物学、プレートの移動に関する地学、人類の歴史など既存の「文系」「理系」という枠組みに捕らわれない歴史に関する新しい記述スタイルは、これからの世界で文理融合がさらに進むことを予感させる。

いま働いている多くの社会人は「私は理系」「私は文系」のような言葉を身近で聞いたり、自分で口にしたことがあるでしょう。しかし早晩行われるであろう入試改革によって文理融合は進みます。また野心的な若者は文系理系という線引きを超えて勉強しています。そういう人たちがあと10年くらいして社会に出てくると、いま安穏と仕事をしているおじさんおばさんはあっさり彼らに追い抜かれるでしょう。

そうならないために、本書に書かれていることを理解するくらいの基礎的な素養は求められるし、そういうスキルはビジネスの場でも必ず役に立ちます。これは私自身が文学部フランス文学科卒というこてこての文系出身者でありながら、いまITのエンジニアとして仕事をしていられる経験からも言えます。30を過ぎてから勉強した数学とその他理科系の科目のおかげで、物事を
総合的に考え、かつ捉えることができるようになりました。

説教くさくなりましたが、知的興奮を覚える最高の一冊であるのは間違いないし、物事を俯瞰的に捉える訓練をするのにも役立ちます。大型本であるので、写真やグラフ、地図などが豊富に掲載されていて情報量が多い。それなのに3700円とお値打ちなのには悶絶します。明石書店の方に感謝です。

ビッグヒストリーは、まさに宇宙の起源にまでさかのぼって、時間のすべてにわたる歴史を再構築しようとする試みだ。本書はそれを行おうとしている。現代の科学的知見から導かれた結論に基づき、まさに時間の始まった時点から現代に至るまでの、過去に関するひとつの考え方を提供したいと考えている。

最後に

辞書を読むとか、大型本の購入は読書習慣がない人にはなかなか厳しいかもしれませんが、ビジネスマンなら『シン・ニホン』、文芸作品が好きな人なら『ザリガニの鳴くところ』、ITのエンジニアなら『三体』は本当におすすめですよ。

このブログを書いてる人
早川 朋孝

業界15年のウェブエンジニアです。文学部卒で20代はSEO、アクセス解析などフロントの運用を中心に経験しましたが、30代のある時、ひょんなことから一人情シスのような状況を経験することになり、流れでそのままエンジニアに転向しました。プログラムやサーバー管理、数学の勉強などをしなおして、いまではWebのことはフロントからバックエンドまでなんでもできます。

本が好きで月140時間は読書します。このブログではWeb業界で経験してきた業界の裏側、読書で学んだこと、技術ノートなどを書きます。ネコ好きなタバコ嫌いで、明治学院フランス文学科卒。

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