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2021年1月に読んで面白かった5冊を紹介

早川朋孝 早川朋孝
ITコンサルタント

1月に読んだ本の中から興味深かった5冊をここに紹介する。なお、面白かった順に紹介しているわけではない。今月はたまたま、「教育」に強い関心のある人が書いた書籍が印象に残った。ここでいう「教育」とは子供の教育だけではなく、社会人学習も含む。

  1. 『自分の頭で考える日本の論点』
  2. 『見抜く力』
  3. 『AI時代に生きる数学力の鍛え方』
  4. 『世界の住所の物語』
  5. 『ユーザーフレンドリー全史』

『自分の頭で考える日本の論点』 出口 治明著 幻冬舎新書

新書でありながら400ページを超える意欲的な書籍で、現下日本社会のもつ課題を22点挙げて、それぞれの論点についての基礎知識と著者の考えが併記される形式で構成されている。

新聞やニュースで取り上げられる様々な課題、例えば「コロナ禍の対応は適切だったか」「温暖化は本当に進んでいるのか」「年金は破綻するのか」「少子化は問題なのか」「人の仕事はAIに奪われるのか」など誰もが関心をもつであろう論点ばかりで、すらすら読める。事実を論拠に鋭い切り口で論点にせまる著者の口調は厳しいが、裏を返せば日本は成長の余白だらけであることを示しているのだが。さて、その厳しい一例を紹介すると、例えばこんな感じだ。

  • 日本の正社員は年間2000時間以上働いているのに、経済成長は1%しかしていない。
  • 製造業は低学歴産業
  • 日本の大学生が勉強しないのは企業の責任

これらはあくまで一例に過ぎないので、詳しい内容は本書を手に取りじっくり読んで欲しい。特に赤字財政については著者の強い危機感が行間ににじみ出ている。本書を読んで得られる情報の質と量を考えると、1100円+税とすさまじくお買い得な一冊です。

おすすめの関連書籍

  • 『ファクトフルネス』 ハンス・ロスリング著
  • 『日本人の勝算』 デービット・アトキンソン 著
  • 『シン・ニホン』 安宅和人著

『見抜く力』 佐藤優著 プレジデント社

コロナウィルス騒動ではマスコミが恐怖を煽りまくっているらしい。「らしい」というのは私がテレビをほとんど見ないため正確なことは知らないから用いた表現だが、ワイドショーのようなテレビ番組で自称専門家が出てきて「このままでは死者○万人」「医療崩壊寸前」などとまくしたているであろうことはだいたい想像できる。例え嘘の情報だろうと毎日そういう情報に接している本当に思えるのが人間だ。

考えなくても分かることだが、自称専門家が本当に実力のある専門家であるならば、研究に忙しくテレビに出る時間なんてあるはずがない。それが頻繁にテレビ出演するということは、その業界内で相手にされていない証拠である。そういう人の言説に騙されると道を誤るとか、損をしたりする。したがって本書のタイトルにあるような「見抜く力」を涵養する必要がある。

本書は雑誌『プレジデント』に連載された作家の佐藤優さんとゲストとの対談に、佐藤優さんがコメントをしていく形式で進む。ゲストには独自の理念を持つ企業経営者や大学学長、役者などが登場し、様々な視野があることを読者に教えてくれる。映画や小説が多様な視点を養うのに役立つなど、具体的な記述も多くとても読みやすい。

一人の人間が経験できることには、限界があります。しかし書籍を通じた代理経験には、限界がありません。危機を何度も切り抜けてきた経営者や、時代を切り開く研究者たちのノウハウは、ビジネスパーソンがこれから直面するどんな局面にも役に立つはずです。
p15 「はじめに」より

本書にも日本の教育に対する強い危機感がある。少し読むだけでそれを十分に感じ取れるだろう。

おすすめの関連書籍

  • 『ソロモンの指輪』 コンラート・ローレンツ著
  • 『ダークサイド・スキル』 木村尚敬著

『AI時代に生きる数学力の鍛え方』 芳沢光雄著 東洋経済

私はITのエンジニアをしていてるのだけど、経験の浅い若いエンジニアと接して「こいつなめてんな」と感じることがある。それは自分で仕様を理解していないのに「こういうプログラムコードを書けばこう動く」とネットで検索したソースコードを切り取って自分のプログラムを記述し、動いたはいいがトラブルがあったら自分で直せないという場面に出くわすときだ。

『AI時代に生きる数学力の鍛え方』の主張の核を一言で表現すると「脱・暗記数学教育」だ。仕組みも分からず公式の暗記に頼る数学教育がいかに害悪をもたらし、そしてしっかりとした理解に基づく数学教育がいかに有用かが本書を読むとよく分かる。著者のその思いは最初の一節「3桁同士の掛け算」に凝縮されている。

芳沢先生の著作を今まで読んできた人には馴染みのある内容だろうが、初めて芳沢光雄さんの本を読むという人には最初の一冊としていいだろう。数式や図形が出てくるが、中学レベルの数学が分かれば読める。

中学・高校のときは数学嫌いで、数学から逃げるように文学部に進んだ自分は、30歳を過ぎてから数学を勉強しなおしITのエンジニアになった。もし若いときに芳沢先生のような数学の先生に接していたらなぁ、と思わずにいられないくらい有用な本です。

おすすめの関連書籍

  • 『AI vs. 教科書が読めないこどもたち』 新井紀子著
  • 『新体系・高校数学の教科書』 芳沢光雄著

『世界の「住所」の物語』 ディアドラ・マスク著 原書房

あなたが住所のない世界に住んでいる状況を具体的に想像してみてほしい。ネット通販は利用できず、郵便は届かない。いや、こんなことは序の口で、住所がなければ銀行口座を持てず、日雇いの仕事にさえつけないのだ。

世界のおよそ70パーセントがまだ詳細な地図を持たず、そこには100万人以上の人口を抱える都市も含まれている。意外なことではないが、そうした場所は地球上でもっとも貧しい地域となる。科学者マウリシオ・ロッチャ・エ・シルヴァは、ブラジルにおける蛇咬傷の統計値を訊かれたとき、そんなものはないと答えた。「蛇がいるところに統計値はなく、統計値があるところに蛇はいない」同じく、疫病が発生するところには地図がない、ということが多々ある。

通常の医師がそうするように、国境なき医師団は患者の記録をつけようとした。患者が来ると、問診票を渡す。彼らは名前や誕生日を記入し、「住所」欄にも記入する。アイヴァンはその欄を「適当な備考欄」と呼んでいた。「”マンゴーの木から1ブロック離れたところ”なんて書くんですからねーーそんな情報はまったく役に立ちません」
p71

住所を必要とするのは貧しい人たちばかりではない。トランプ前大統領は1997年に完成した彼の新しいタワービルの住所を「セントラル・パークウエスト1」に変更するよう市に要望した。これが何を意味するか想像がつくだろう。ちなみに、ニューヨークでは住所が売り物になっていることを付け加えておく。ニューヨーク市が名付けたその制度は「ヴァニティ・アドレス・プログラム」というとのこと。

上記引用のような文章を読むと、世界でスマートフォンでの個人間決済が求められ、大企業が決済アプリのシェアを伸ばそうというのも納得できる。もし世界中の人が住所を持っていれば、仮想通貨やスマホ決済の要求が今日ほど強まることはなかっただろう。もし時の総理大臣が「住所制を廃止する」なんて宣言すれば狂人扱いされるだろう。

少なくとも、今日の先進国では当然のものとされている住所という概念が広まったのは、本書によると18世紀のヨーロッパのことらしい。その目的は国家による市民の統制だ。徴税や逮捕を効率よく行うため家屋に番号が付与された。市民は当然それに反発し、役人によって家屋に書かれた番号をペンキで上塗りしたり、役人を追い返したり、かなり反発があった。それがいま「住所は国家による国民の統制だから廃止すべきだ」なんて主張する人は皆無でしょう。

この家屋番号の付与のエピソードを読んで、私はマイナンバー制度を連想する。まだあまり浸透していない制度だが、コロナ禍での給付金の受け取りに自治体によって時間がかかったことは記憶に新しく、口座番号とマイナンバーが結びついていれば、多くの人が速やかに給付金を受け取ることができただろう。最初は反発される制度でも、時間がたてば受け入れられるものがあると、本書から学ぶことができる。

おすすめの関連書籍

  • 『絶対貧困』石井光太 新潮文庫
  • 『パークアヴェニューの妻たち』 ウェンズデー・マーティン

ユーザーフレンドリー全史 クリフ・クアン、ロバート・ファブリカント著 双葉社

「デザイン」というとあなたは何を思い浮かべるだろうか。私はウェブエンジニアという業種がら、ウェブサイトやアプリのデザインをまず思い浮かべる。人によっては車のデザインだったり、洋服や鞄のデザインだったり、雑誌のレイアウトだったり、料理の盛り付けだったり様々だろう。これらは狭義の「デザイン」だが、もっと広い意味が含まれることが本書を読めば分かる。

今日当然だと思われている様々なデザインは、過去の膨大な失敗を土台にして形成されていて、そういったデザインに関する様々な歴史や物語を俯瞰的に読むことができる。デザインに関する仕事をしている人にはヒントとなる内容もあるだろう。

例えば、こんなエピソードがある。インダストリアルデザイナーのある男性は、トラクターのデザインをするために自分でコンバインの操作を習い農民気分で働いた話や、ミシンをデザインするのにご婦人たちと裁縫教室に参加したり、地道な経験を重ねヒントを得たという。この話なんかは営業職の人でもヒントになるでしょう。自分の扱っている製品やサービスの仕様を理解しないまま売っている営業担当者ってたくさんいるから。

本書にはユニバーサルデザインに関する話も出てくる。あるデザイナーは、友人の妻が関節炎にかかりリンゴをむけなくなったと落ち込んでいるのを見て、関節炎の人でも使えるピーラーをデザインした。

関節炎を患う人が使いやすいモノならほかのどんな人にとってもより優れた使いやすい製品になるはずだ

こうして誕生したピーラーは、おそらくアメリカのほかのどんな家庭用品とも同じくらい普及しているとのことで、同じ思想に基づいて設計された製品は、やはりよく売れるとのことだ。

これと同じ話が本記事の一冊目に紹介した『自分の頭で考える日本の論点』にもあった。視覚障害のある人が開発した商品が、高齢者にも喜ばれたという趣旨のことが書かれていた。多読すると色々なことが繋がって理解が深まり面白い。

本書には少し冗長だと感じる部分もあるので、そういう箇所はてきとうに読み飛ばせばいい。

おすすめの関連書籍

  • 『インターフェースデザインの心理学』 スーザン・ワインチェンク オライリー・ジャパン
  • 『目の見えない人は世界をどう見ているのか』 伊藤亜紗 光文社新書
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このブログを書いてる人
早川 朋孝 EC専門のSE
IT業界歴20年のエンジニアです。ネットショップ勤務で苦労した経験から、EC・ネットショップ事業者に向けて、バックオフィス業務の自動化・効率化を提案するSEをしています。
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