やはりエンジニアとして働くには楽しく働きたい。意味不明な理不尽な締め切りに追われるとか、前任者の残したドキュメントもない状態で障害対応に追われ深夜まで残業する。こんな働き方は誰だって嫌である。こういう辛い現場を回避するにはどうすればいいか。またはうっかりそういう現場に足を踏み入れてたとしても、精神的なダメージを最小限にするためにはどうすればいいか。その答えは読書による代理体験である。読書によって未然に知識を経れば、エンジニアとしての実務経験が少ない人にとって身の振る舞い方の助けとなるだろう。
読書によって他者の経験をあたかも自分が経験したかのような知識が得られるのは、本を読むことの最高のメリットである。今回は「エンジニアとして楽しく働く」ことに焦点を当て、まだエンジニアとしてのキャリアが少ない人や、これからエンジニアになるべく勉強している人に向けて有用な書籍を、2回に分けて紹介しよう。
ちなみに私がウェブ系のエンジニアであるため、紹介する本にウェブ系に偏りがあるのはご了承願いたい。
目次
- やっぱりスキルが一番
- エンジニアとしてのキャリアを考える
- 炎上に強くなる
やっぱりスキルが一番
エンジニアとして楽しく働くには、スキルが高いのが一番大事であることは言うまでもないだろう。勉強するプログラムなどは人によって違うだろうから、ここでは言語ごとのおすすめ本は載せないが、それよりも、もっと大事なエンジニアとして基礎知識や心構えに関する本を紹介しよう。こういう基礎があるのとないのとでは、長い目でみるとエンジニアとして活躍できる範囲が根本的に変わってくる。エンジニアとして行き詰まった人が計算機科学を勉強しなおすなんてのはよくある事例です。
『独学プログラマー』 コーリー・アルソフ著 清水川貴之監訳 日系BP社
本書に書いてある通りに進めれば、プログラム、正規表現、git、アルゴリズム、ファイル操作などプログラマーとして必要なスキルを一通り経験することができる。体系的に学べるというのが大事な点で、それによって知識の抜け漏れを防ぐことができる。独学している人や、周囲に教えてくれる先輩エンジニアがいないとか、あるいは自分のレベルと周囲のレベルが同じ環境にいる人などに有用である。また、エンジニアになりたいと決心した人が最初に読む一冊として最適である。いい本だったので紙の書籍と電子版両方買いました。
『プロになるためのWeb技術入門』 小森裕介著 技術評論社
独月のエンジニアや経験の浅いエンジニアが行き詰まったら、それは知識の欠損がある証拠である。自分の専門分野に知識の欠損があれば、それを埋めなければならない。どんなにコンピューターが進化しようともコンピューターは計算機科学の枠組みの中にあるという事実は変わらないわけで、つまり新しい技術であっても基本的な技術の延長にあるのだから、体系的に基礎を学ぶのを疎かにしてはいけない。coookieやhttp通信、データベースなどWeb系のアプリを作りたい人には欠かせない知識を一通り経験できる。2010年の初版のため扱っている言語は古いが、Webの技術を体系的に学べる意味は大きい。今でも継続して売れているのも納得できる。
『コンピューターはなぜ動くのか』 矢沢久雄著 日経BP
かなり読み応えのある本を一冊紹介しよう。この本はコンピューターを学ぶ上でもはや古典的名著と言っても過言ではない。コンピューターは入力、演算、出力をするためにあるというものすごく当たり前のことを一冊かけて丁寧に説明してくれる。作ったプログラムがきれいに動いているが機能を増やしすぎて亀のように処理が遅いとか、そういう問題を解決するヒントはこういう基礎にあったのだ。かなり本格的な内容なので、プログラムを入力しながら本を進めるのではなく、大事なのは紙とペンになるだろう。2003年に発売された古い本だが、本書の内容が色あせることはない。私が人にコンピューターやプログラムを教えるなら、これを教科書にする。
エンジニアとしてのキャリアを考える
一口に「エンジニア」と言っても色々なエンジニアとしての仕事がある。大企業の開発部門のエンジニアもあれば、ベンチャー企業のエンジニアもある。様々なエンジニアがいるのだ。そういう「エンジニア」という職業の持つ意味の広さを知り自分がいま仕事をしている環境と比べることで、エンジニアとして楽しく働くことを考えるきっかけとなるだろう。
『ひとり情シス 虎の巻き – 実話で学ぶITエンジニアの理想の仕事術』 成瀬雅光著 日系BP社
本書は中堅の製造業のIT部門にいた著者が、IT部門の縮小により一人情シスになって経験したことをまとめてある。仮想マシンを駆使し、ばらばらだったサーバーをまとめて監視する対象を減らし、いつも定時で帰っているという。現場のリアルな経験が時系列にまとめてあり、エンジニアが読めばちょっとした冒険気分を味わえるだろう。いつも残業に追われているエンジニアや、社内で唯一のエンジニアという人が読むと得られるものは大きいだろう。エンジニアが組織でどう評価されるかについても著者の考えが書いてあり、エンジニアが置かれるIT現場の現実を知るにはうってつけの一冊。
『完全SIer脱出マニュアル』池上純平著 シーアンドアール研究所
富士通株式会社にSEとして入社したエンジニアの体験記。私はSIerで働いたことはないが、本書を読んで「ああ、SIerとはこういう感じなのか、どんなに給料が良くても絶対に働きたくないな」と思った。野心溢れる若者が、現実を知らないでうっかり自分とは相性の悪いSIerにでも入ったら大変である。本書を読めばそういう失敗を未然に防ぐことができる。やはり読書による代理体験は有用だと確信する。また、単に「エンジニア」と言っても様々な業種のエンジニアがあることが分かるのも、未経験の人には勉強になるだろう。
炎上耐性をつける
エンジニアとして働く以上は炎上という問題と必ず付き合うことになる。もし炎上を経験したことのないエンジニアの方がいれば、それはエンジニアとして何も経験していないことと同義である。だから仮にあなたが経験者のエンジニアとして開発会社の面接を受ける際は「炎上を経験したことがない」は絶対に禁句である。一発で落ちるから。
『わたし、定時で帰ります。』朱野帰子著 新潮社
テレビドラマになったらしいが、おすすめするのは小説である。このドラマは舞台がウェブ制作会社であり、ウェブ業界で働く人なら親しみを感じるだろう。著者はウェブ業界で働いていたに違いない。これからウェブ系のエンジニアになって活躍したいと考えている人は、ウェブ制作会社の現場の一端を垣間見ることができるだろう。もちろんウェブ制作会社といっても規模は様々なので、この小説での内容が誰にでも参考になるわけではないが、それでも読む価値はある。そして単純に読み物として面白い。
『督促OLの修行日記』 榎本 まみ著 文芸春秋
炎上については実体験を積むのが一番だが、読書による代理体験も有効だ。お勧めするのは『督促OLの修行日記』だ。カード会社のコールセンターに勤める著者は、カード未払いの人に督促する業務を担当している。著者が催促すると相手は「お前殺すぞ」と脅迫まがいのことを言ってきたりする。こういう厳しい環境で経験し、それとうまく付き合ってきた人の体験談は、開発現場の炎上とどう向き合うべきかと悩む人には福音となるだろう。
『キングダム』 原泰久著 集英社
最後に『キングダム』を紹介しよう。いまさら説明不要の人気マンガだが、作者の原泰久さんは元SEで、会社員時代の経験を作品に存分に盛り込んでいる。大抵のSEなら泥沼プロジェクトを経験しているはずで、理不尽な客や上司の中にあって、進むか退くかなどの判断や舵取りが求められる。秦王に仕え、強敵と対峙する主人公「信」の生き様は組織でエンジニアとして働く人にも参考になるだろう。乱世で何でもありの戦国時代末期を舞台にしているので、ビジネスのヒントも満載だ。本作に興味を持ったら司馬遷の『史記列伝』もぜひ手にとって欲しい。
以上でエンジニアにおすすめの本の紹介第1弾を終える。次回も乞うご期待。
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