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ブルドッグが苦しそうに呼吸をする理由がわかる『純血種という病 商品化される犬とペット産業の暗い歴史』

早川朋孝 早川朋孝
ITコンサルタント

純血種という病

「すべての犬は雑種である」と著者の主張は明快だ。血統書つきの犬しか犬と思っていない愛犬家には耳の痛い内容の本だろう。この本を読めばペットショップでレトリバーやブルドッグ、シェパードなどのブランド犬を高額で買うのがいかに愚かなことかよく分かる。というのも、毛の色、耳やしっぽの形など特定の特徴を出すために近親交配を繰り返された犬は病弱になってしまった。そんな犬を高額で買い、「うちの犬は純血種だ」と誇らしく思っているなんて滑稽だからだ。

繰り返しになるが、ペットショップで何かの間違いではないかと?と思うくらいゼロが多い値のついた犬であろうと、特定の特徴を出すために恣意的に近親交配を繰り返された犬でしかない。その辺りの野良犬を集めてある特定の特徴を出すために交配させていけば、やがて純血種だと誤認される犬が出来上がる。ブリーダーなんてのは大抵はまさにそれを生業にしている奴らだ。

身も蓋もないことを言ってしまえば、どのような目立つ特徴を持たせようと、品評会でどれほどの評価を与えようと、公式の基準を設けて権威を高めようと、すべての犬は結局「雑種」である。犬の歴史を曇りのない目で見ればそういうことになる。純血種の愛好家たちは、その犬種における完璧な犬を保護したり、あるいはそれが手に入るまで奮闘すると言う、間違った使命感にかられている。しかし彼らは、自分たちが気に入って大事にしている犬種は、どれも皆、様々な犬を交配させた結果生まれた雑種であることを都合よく忘れている。そうした犬は、交配でたまたま持つことになった特徴を適当に選んで強調しただけなのだ。

純血種という病 商品化される犬とペット産業の暗い歴史 P64

交配は試行錯誤の連続だった。どの組み合わせが良い結果になるかは、試すまでわからない。好みに合わない多くの子犬たちが犠牲になる。ブリーダーは自分たちを喜ばせるような外見の子犬を探し選んでいく。限られた種類の特徴の中から、どれを強調するか選ぶのだが、一定の基準があるわけではなく、実際に何が選ばれるかは彼らの気まぐれである。気まぐれによって選ばれた特徴を強調しようと試み、それがうまくいったときに純血種と呼ばれる犬ができあがる。

純血種という病 商品化される犬とペット産業の暗い歴史 P353

そもそもなぜ犬にはたくさんの「純血種」があるのか、それ自体が人間の恣意的な都合でしかない。この点を詳細に語るのが『純血種という病 商品化される犬とペット産業の暗い歴史』で、犬の種類が多い理由を遡ると思いがけずその根は深く、イギリスの歴史と密接に関係があることが分かる。簡単に説明すると、上記引用のような方法で出来上がった「純血種」は珍しいため貴族が飼おうとする。貴族が飼っている犬だから他の人も欲しくなる。こうやって純血種の犬をありがたがるという奇妙な信仰が生まれる。元はただの雑種であるのに、人々はそこに実際以上の価値があると見なすようになる。ほんとは気のせいなのに。人の愚かさが犬を媒介してよく現れている。つまりこの本は犬学の本ではなく、サル学の本だったのだ。

ハリー・ポッターもザ・ロード・オブ・ザ・リングも

この本を読むとイギリス人の血統というものに対する感覚がよく分かる。ハリー・ポッターの登場人物でマルフォイという嫌われ役がいるが、彼が人間と魔法使いのハーフであるハーマイオニーを「汚れた血」と呼ぶが、これぞ純血信仰からくる発言でしょう。また、映画『ザ・ロード・オブ・ザ・リング』にエルフという種族が登場するが、見た目からして明らかに高貴で永遠の命を持つエルフは、地下に住むドワーフを馬鹿にする。さしずめエルフは19世紀の白人のイギリス人で、ドワーフは黒人という感覚で描かれている。ハリー・ポッターの作者J・K・ローリングも指輪物語の作者トールキンもどちらもイギリス人だから、彼らは自分の生まれ育った国に住む人が人種や純血というものにたいしてどういう感覚を持っているのか、よく知っているのだろう。こういった普遍性があるからこそどちらも世界中で大ヒットした要因だと思う。

断っておくが、なにもイギリス人だけが人種差別をする人たちと揶揄しているわけではない。「普遍性がある」と書いた通り、どんな人たちも他者に対して差別する感覚を持っているわけで、こういう本を読むことで改めて自分を戒められるのだ。

本書を読むことで多くの自称「愛犬家」が犬種というものにいかに振り回されているかよく分かる。ショッピングモールに行くと大抵はペットショップを見かけるだろう。そこで幸運にも買われた個体はペットになり、やがて家族に昇格する。しかし売れ残った「商品」は廃棄される。ペットショップで犬猫を買う人は、ブリーダーを潤わせ、殺処分に加担しているに等しいという現実を考えるべきでしょう。

また、ブルドッグを飼っている人は、なぜ飼っている犬が常に苦しそうな呼吸をでしているのか、一度よく考えてみたほうがいい。犬猫を飼っている1人でも多くの人に、この本を読んで欲しい。

本書には素晴らしく充実した脚注があり、本文より脚注を読むのに熱中してしまうくらい素晴らしいです。

  • おすすめ度★★★★★
  • お買い得度★★★★★
  • 読み応え度★★★★★
  • 一気読み度★★★

関連本

  • アーロン収容所
    第二次大戦時にイギリス軍の捕虜となった日本人の手記。イギリス人の有色人種に対する感覚がよく分かる。大抵の人は読んで怒りを覚えるだろう。
  • パークアベニューの妻たち
    ニューヨークの超高級なパークアベニューで貴族のように生活するスーパー金持ち女性を観察したノン・フィクション。著者自身が観察のためにパークアベニューで暮らしたというのが面白い。
  • ヒトラーの秘密図書館
    19世紀の優生学がいかなるものであったか、よく分かる。ちなみに優生学というのは科学を装ったトンデモで、今は存在しないが犬の世界には残っているし、形や名前を変えて繰り返し現れる。
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このブログを書いてる人
早川 朋孝 EC専門のSE
IT業界歴20年のエンジニアです。ネットショップ勤務で苦労した経験から、EC・ネットショップ事業者に向けて、バックオフィス業務の自動化・効率化を提案するSEをしています。
Web運用の経験もあり、アクセス解析、広告運用が得意で、広告APIとプログラムとの合わせ技で並の広告代理店にはできない提案が可能です。
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趣味は読書、ピアノ、マリノスの応援など
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