「ネコ学入門」という本がある。ネコというのは人にとって古代から特別な動物である。古代ギリシャのクレタ島の遺跡からネコの骨が発掘されたという文章を読んだことがある。当時のクレタ島にネコはいないはずらしく、これはつまり、人がネコをわざわざ大陸から船で連れてきたことを意味する。クレタ島で勃興したとされるミノス文明は紀元前1200年くらいだから、今から3200年も昔のこと。これほど昔からネコは人に愛されてきた。記録にあるのは3200年前だが、実際にはもっと昔からネコが愛されてきたのは、まず間違いないだろう。
目次
- ネコ学入門を読むと思わずにやり
- 動物の視点から人間世界を見る
- Youtubeもいいけれど
動物の視点から人間世界を見る
私はネコ関連の本を読む時はあまり作者が誰であるのかをあまり気にしない。早く読みたいので作者が誰であるのかに気を払うことを忘れてしまう。このネコ学入門は非常に読みやすくどんどん読み進めて、半分くらい読んだ際に作者がどんな人なのか気になったので表紙を調べたら、外国の人ではないか。翻訳本であることにまったく気付かなかったので、翻訳が秀逸である証拠である。翻訳者も明らかにネコ好きな人であるのは間違いない。ネコを一度でも飼ったことがある人がこの本を読めば、ネコ特有の生態描写が巧みなので、思わずにやけてしまうだろう。ネコのゴロゴロ、ネコのフミフミ、ネコのシャーッなどといった文章を読むと、この本の読者は各自飼っている、あるいは過去に飼っていたネコの仕草やネコとの思い出が溢れ出てくるはずだ。実際私も20年前後ネコが家にいたので、いろいろ思い出してしまった。
さらに秀逸なのは挿絵である。ネコの本は写真が用いされることが多いが、このネコ学入門は写真は表紙カバーだけで、本文に写真はない。しかしネコの表情、仕草、耳の動き、目が何を物語るか、こういった例が挿絵で表現されているのだが、この絵が大変すぐれている。「ああ、ネコってこういう動きするよね」と思わず一人で納得してしまう。そんな楽しい絵が多数登場する。写真だとついつい個別のネコの可愛さに関心が向いてしまうが、絵であれば作者は伝えたいネコの挙動を冷静に伝えられる。そう計算した上で挿絵にしたのならば、計算高い優れた本と言える。
動物の視点から人間世界を見る
ひたすらネコのことを優しく説明してくれる「ネコ学入門」は、対比として犬のことがたまに出てくるが、本文の99%はネコに関するもので、ネコ好きのために書かれた本だ。この本を読んで別の一冊の本を思い出した。ノーベル賞を取ったオーストリアのコンラート・ローレンツ「ソロモンの指輪」だ。ソロモンの指輪も動物への愛に溢れた名著。ひたすら動物を観察し、動物に関する膨大なデータを内側に蓄積した著者は、動物を通して独自の人間観を得た。ファーブルも昆虫の中に人間社会を見た。このネコ学入門もじっくり読み込むと、ただネコのことを書いた本ではないことが分かる。ネコの観察を通して、多様な視座が世の中にあることに気づく。もしあなたが最近仕事に邁進したり没頭したりして行き詰まりを感じているなら、仕事の内容とは全然関係ないこういった優れた本を読むことで、何か新しい発見があるかもしれない。
動物の視点から人間の社会を見たらどうだろうと想像してみたり、ネコの立場になって考えてみたり、上司やお客さんの立場を想像してみたり、新しい何かが得られるかもしれない。
Youtubeもいいけれど
ネコちゃんやわんこが好きな人はYoutubeなんかでネコ動画を見たり、犬動画を見たりすることがあるだろう。確かにそれはそれで悪くないかもしれないが、そういう時間の使い方は面白いだけで終わってしまい時間の浪費である。本当にネコが好きなら、ネコ学入門のようにしっかり書かれた優れた本を読み込むことで、ネコに関する正しい知見を得ることができる。そうすると例えば、あくまで可能性の話だが、今飼っている猫とさらに仲良くなったり、触ろうとするとすぐ逃げてしまう近所のかわいいネコちゃんと仲良くなれたりするかもしれない。あるいは、これから新しくネコを買おう(飼おう)と検討中の人なら、ネコ学入門から得られる情報はかなり有益となるだろう。
※ちなみに通りにいる知らないネコを触ろうとする時、いきなり手をだすのはNGで、頭から近づけていくと仲良くなれる可能性が高いとのこと。ぜひお試しを。
ネコ学入門には猫種がいろいろ出てくるので、中には知らない猫ちゃんがいるかもしれない。それに詳しくなりたい人は「世界一美しい猫の図鑑」も併せておすすめ。