2014年に仮想通貨の取引所「マウントゴックス」のビットコインが流出する事件があったけど、それに続き今回は取引所「コインチェック」の扱うNEM(ネム)が流出した。多くの人が仮想通貨なんて身近に感じてはいないだろうし、何が起きているのかよく分かっていないだろう。というわけであなたの代わりに仮想通貨について簡単に勉強してまとめてみました。
まず、新聞報道の見出しに違和感を感じた。以下の写真を見て分かる通り、朝日新聞の1/27の夕刊の見出しは「仮想通貨 入出金停止続く」とあり、今日の朝刊には「仮想通貨 580億円流出」とある。読売は1/27の夕刊に「仮想通貨 580億円流出」とある。まるで仮想通貨それ自体が著しい欠陥を持っているような書きぶりだ。仮想通貨の知識がない人がこういった見出しを読むと、「仮想通貨ってあぶない」のような印象を持っておかしくない。
目次
たくさんある仮想通貨
しかし一口に仮想通貨と言っても実際にはたくさんの種類がある。ビットコイン、リップル、ライトコイン、今回のネムなど。ちなみにビットコインが有名なのは一番最初の仮想通貨だからだ。で、今回流出したのはコインチェックという名前の仮想通貨取引所のあつかうネムという仮想通貨が流出しただけだ。仮想通貨それ自体が危ういわけでもなんでもない。
ただ、仮想通貨が580億円分も流出したという事件はセンセーショナルだから、メディアとしては大きく報じたいだろう。そこで新聞記者が見出しを考えるにあたり「ネム」なんて書いても誰も知らないから「仮想通貨 流出」という表現にしよう、と考えたのだろう。
仮想通貨の種類がたくさんあることを知らないと、こういったメディアの大げさな見出しに踊らされてしまう。だから正しい知識が必要になるのですよ。
そもそも仮想通貨って何?
で、そもそも仮想通貨ってなに?っていう人がほとんどでしょう。この回答は明快にできちゃいます。それは中央銀行が介入しない通貨であること。以上!では不親切だから、もう少し説明する。
中央銀行が介入しない通貨の公正さをどうやって担保するの?
こういった疑問が当然生じますよね。その仕組みがブロックチェーンです。これを理解できるかどうかが、仮想通貨理解の肝ですぜ。
ブロックチェーンって何?
ブロックチェーンっていうのは、取引記録のデータのことで、そのデータを中央コンピュータが管理するのではなく、多数の参加者で共有する仕組みです。たとえばみずほ銀行の口座情報や預金金額はみずほ銀行が管理している。これは完全に中央銀行の発想。ブロックチェーンはそういう発想じゃない。参加する人みんなでデータを共有する。
ターミネーターっていう映画を観たことがある人なら、なんとなくブロックチェーンのイメージがつきやすいと思う。映画にスカイネットという仕組みが出てきたけど、あれも中央システムに依存しない仕組みで、ブロックチェーンの発想に近い。
ブロックというのは取引記録の単位で、それが永遠と鎖のようにつながっているからブロックチェーンと言うのです。例えば、ビットコインの所有者が100万人いるとして、ある人がビットコインを使用したらその人の持ち分は減る。そういった取引記録一つ一つがブロックという単位で管理されているのです。そして、ここが重要なのだけど、取引記録が更新される際に、ブロックチェーンに参加しているコンピューターはめっちゃ面倒な計算をを課される。これをプルーフ・オブ・ワークと言います。
プルーフ・オブ・ワークって?
プルーフ・オブ・ワークっていうのは、大変な労力をかけなければならない作業を課すことです。ドラクエで伝説の武器を入手するにはいろいろ困難な課題をクリアしなければならないでしょ。あとは、竹取物語でかぐや姫に求婚するには、やはり理不尽な要求を課されます。こういうことをプルーフ・オブ・ワークと言います。
で、話をブロックチェーンに戻すと、取引記録の更新の際に逐一プルーフ・オブ・ワークが課されるので、参加するコンピューターは大変なんですよ。だからこの大変な計算を一番早く行ったコンピュータには報酬が与えられます。一番最初の仮想通貨であるビットコインは、こういったブロックチェーンという仕組みを導入したのです。いちばん早く取引記録を更新できればビットコインが手に入るのです。
そして、この取引記録は改ざんが極めて困難なの。不可能ではないけど、事実上不可能なように設計されている。それは上述の通り更新のたびにプルーフ・オブ・ワークを課されるから、仮に改ざんしようとするなら、ブロックチェーンに参加している他のどのコンピューターよりも早く、毎回めんどうな計算しないといけない。そんな高速なコンピューターを持っているなら、正直に取引記録を更新するほうが利益は大きい。つまり、ブロックチェーンにおいて改ざんしようとすることは、不利益のほうが誰に目から見ても明らかに大きいのです。
この辺りの話を詳しく理解したい人は、「仮想通貨革命 野口悠紀雄著」のp86辺りを熟読してください。
どうやって仮想通貨を入手する?
これは上述の通り、仮想通貨のブロックチェーンに参加するコンピュータを持って、頑張って計算し報酬を得ること。ただし普通は無理です。
もう一つの方法は、取引所で購入すること。これはお金さえあれば誰でもできるけど、投機目的でブロックチェーン仕組みも理解しないまま仮想通貨を購入すると、バカを見るかもしれない。
なぜ仮想通貨は流出するの?
例えば、今回の「コインチェック」のネムの流出の原因は、取引所の所持する仮想通貨がハッキングされたのが原因だ。取引所は、仮想通貨のデータが保管されたコンピュータを安全のためにネット回線から遮断して管理するべき
なのだ。そして送金に使う一部の仮想通貨だけを別管理にしてネットに接続した状態にする。銀行のATMだって入ってる金額は一部でしょ。それと同じ。
ところが、コインチェックはネムに関してはそういった対策をしていなかった。理由は技術的に困難だから。こういった技術を開発するには、腕のいいエンジニアを雇わないといけないのだけど、そういうエンジニアは引く手あまたで、いちいち会社員にならなくても好条件のフリーランスで仕事ができる。
腕のいいエンジニアの協力を得るには、新興の取引所はセキュリティの確保された作業場所を用意するのが面倒だから、在宅作業なんかを認めているところもある。社員が確保できないから外注に頼るのですね。こういった背景があってセキュリティが甘くなり、結果として仮想通貨が流出するわけです。
仮想通貨は今後どうなる?
いろいろな仮想通貨があって、サービスを競っています。どの仮想通貨も、例えば米ドルが世界のどこでも通用するのと同じように、最高の仮想通貨になりたいはずでしょ。だから今後もいろいろな仮想通貨が登場してはしのぎを削ることになるでしょう。
送金の手数料がかからないのが仮想通貨の大きな特徴で、国内外の区別もないし、円とドル間のようなレートの違いも関係ない。だから海外送金とは抜群に相性がいい。こういったメリットは手数料で稼ぐ銀行にとっては脅威になるだろうから、仮想通貨に関する規制が緩む動きが出てきたら、銀行などの既存勢力の反発は大きいでしょうね。