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一橋大卒のエリートがバブル期の銀行でどんな苦労をしたか追体験できる『友情について 僕と豊島昭彦君の44年』一般向け

早川朋孝 早川朋孝
文学部卒のエンジニア

友情について 僕と豊島昭彦君の44年

先日上野千鶴子さんの東大入学式における祝辞がかなり話題になった。あの祝辞を読んで「ああ、こういうエリートの世界があるのか」とか「なんか遠い世界だなぁ」と感じた人はいることでしょう。『友情について 僕と豊島昭彦君の44年』を読めば、本当に頭のいい人は子どものときから違うことが痛感で、同時にそんなエリートの中でもとても人間くさく、想像を絶するような苦労をしている人もいるわかる。本書は読むことで、そんな遠いエリートの世界と、そのエリートが社会人になってどんな苦労をしながら道を歩んでいったのかを追体験できる。。バリバリ仕事をしたエリートがどんな苦労をしたか追体験できるので、とくにこれからどんな仕事をしようか迷っている若い人とか、あるいはいまいち今の仕事に熱中できない、そういう人は本書を読めばなにか得られるものがあるはず。

本書は作家の佐藤優さんが高校時代に親友だった豊島昭彦さんの人生を中心に、それと併せて佐藤さん自身の経験も綴ったもの。高校時代に親友だった二人は卒業してから30年近く会ってなかったのだが、同窓会で再会し旧交を温めた。その矢先に豊島さんが末期の膵臓がんであることが判明し、この本が出版される運びとなった。こういう説明を書くと、ただの感傷的な本かもしれないと思うかもしれないが、本書には1960年に生まれた人の経験を後世に伝えるという趣旨があり、その内容は示唆に富んでいる。とりわけ豊島さんが日債銀に就職してから経験されたことは、ビジネスの生々しい現場を描写しており、読んでいて力がはいる。このパートはあっという間に読んでしまった。

10歳年下の外人が上司になった

豊島さんが勤めていた日債銀が経営破綻し国の管理下に置かれ、やがてあおぞら銀行に行名を変更した。当時銀行のシステム開発部門にいた豊島さんの部署にやってきた上司は、豊島さんより10歳年下でしかも外国籍の人だった。この人が絵に描いたような最悪の上司で、日本人は見下す、仕事は何もしない、本当は多少なりわかってる日本語を全然使わない、知らない人を勝手につれてきてポストにつけるなどやりたい放題。そんなある時、銀行のシステムが2時間も止まるという重大なシステムトラブルが発生した。金融庁に報告しないといけない状況で、その上司はさっさと家に帰り連絡がつかない。やむをえず豊島さんはその外人上司の許可を得られないまま自分で金融庁に報告をした。

それから暫くしてからのことだった。フレッチャー部長が突然NOCに現れて、「Toyoshima-san come in.(ちょっと来い)」と英語で言ってNOCの奥にある部屋に連れていかれた。この部屋は、トラブルなどが発生したときに、対策本部として使用する閉ざされた部屋だった。フレッチャー部長の雰囲気でかなり怒っていることがわかる。誰もいない部屋に通されると、フレッチャー部長は一方的に英語で捲し立てた。青筋を立て顔を真っ赤にしている表情や態度から怒っていることは分かるけれど、英語なので何を怒っているのかさっぱりからないけれど、フレッチャー部長の言葉の中には、人間として明らかに言ってはいけない内容の言葉が含まれていることを豊島君は直感した。それは、豊島君の人格に関する非難や中傷の部類に属する言葉だった。

この部分を読んで、ある一冊の本を思い出した。『アーロン収容所』だ。太平洋戦争での敗戦後に、ビルマで英国の捕虜となった会田雄次さんの体験記だ。英国の捕虜となった会田さんは人間として扱われなかった。その象徴的な一部を引用する。

この女たちの仕事で癪にさわるもう一つのことがある。足で指図することだ。たとえばこの荷物を向こうへ持って行けというときは、足でその荷物をけり、あごをしゃくる。よかったらうなずく、それだけなのである。

その日、私は部屋に入り掃除をしようとしておどろいた。一人の女が全裸で鏡の前に立って髪をすいていたからである。ドアの音にうしろをふりむいたが、日本兵であることを知るとそのまま何事もなかったようにまた髪をくしけずりはじめた。部屋には二、三の女がいて、寝台に横なりながら『ライフ』か何かを読んでいる。なんの変化もおこらない。私はそのまま部屋を掃除し、床をふいた。裸の女は髪をすき終わると下着をつけ、そのまま寝台に横になってタバコを吸いはじめた。

入って来たのがもし白人だったら、女たちはかなきり声をあげ大変な騒ぎになったことと思われる。しかし日本人だったので、彼女らはまったくその存在を無視していたのである。

中公文庫『アーロン収容所』会田雄次著

こういう文章を読むと、あっちの国の人で東洋人を露骨に差別している人がたくさんいるのがよくわかる。『アーロン収容所』の時代は戦後直後で、豊島さんが外人上司にひどい扱いを受けたのは2000年頃と時代には約50年の開きがあるが、それでもなんにも変わってないのです。それからさらに20年経った今でも、アメリカを見れば露骨に人種差別をする大統領が選ばれ、日本ではネットでひたすら隣国に悪口を言う人たちがいる。母数がどの程度なのか分からないけど、人種差別をする人たちはまだまだ確実に存在するのです。

日本にいる日本人が人種差別に遭う機会はなかなかないだろうけど、それは気付かないだけで、外資系の会社に努めている人や海外の企業と取引がある人などは日本にいても人種差別に遭う可能性があることを、こういう本を読むことで知っておくことができる。

速読ってこういうことです

わたしは常々本はいろいろな読み方ができるとブログ記事で書いている。『友情について 僕と豊島昭彦君の44年』も上述のように人種差別に焦点をあててもいいし、エリートが仕事でどんな苦労をしてきたかその生き様を読むことで、自己啓発的に読むこともできる。そういう意識を持って本を読んでいると、ある一節が光を放つように感じられるときがある。私の場合は、例えば最近似たような出来事を経験したとか、別の本で同じようなことが書かれているのを最近読んだなどがそれに該当する。白黒の文字が色を帯びて浮かび上がってくる。立体的に見えるのでその部分は一瞬で読んで理解できる。これが本当の速読。

複数の良書に同じことが書かれていれば、とりあえずそれは知識として定着させていいと思う。こうやって読書によって地道に積み重ねていく知識が多いほど、速読できる本が増えていく。腕のいいピアニストが初見演奏が上手なのと似ている。

なんだかまとまりのない文章となってしまったけど、『友情について 僕と豊島昭彦君の44年』は読みどころが多い懐の広い作品。ぜひ手にとって読むことをおすすめする。作者の作品にかける想いが強く、読み始めるとすぐひきこまれるので、人によっては3時間もあれば読めるでしょう。しかも書籍なら1728円でkindlenなら1404円。お得!

  • おすすめ度★★★★★
  • お買い得度★★★★★
  • 読み応え度★★★★
  • 一気読み度★★★★★

このブログを書いてる人
早川 朋孝

業界15年のウェブエンジニアです。文学部卒で20代はSEO、アクセス解析などフロントの運用を中心に経験しましたが、30代のある時、ひょんなことから一人情シスのような状況を経験することになり、流れでそのままエンジニアに転向しました。プログラムやサーバー管理、数学の勉強などをしなおして、いまではWebのことはフロントからバックエンドまでなんでもできます。

本が好きで月140時間は読書します。このブログではWeb業界で経験してきた業界の裏側、読書で学んだこと、技術ノートなどを書きます。ネコ好きなタバコ嫌いで、明治学院フランス文学科卒。

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