衆院議員の杉田水脈氏(「みお」って読むらしい)の「LGBTは生産性がないから税金で支援する必要がない」発言がSNS上ですごい勢いでシェアされている。いまどきこんな発言を堂々とする人がいるのかと唖然とする。これが旧態依然のおっさん政治家ならわかるが、杉田水脈氏はおっさんではなく女性だ。問題の発言は以下のツイートを見れば概要が分かる。
彼女が、国民の選んだ日本の現職の衆議院議員です。 #杉田水脈 #LGBT pic.twitter.com/JerWbVzVDF
? Japan’s Secret Shame (@JPNSecretShame) 2018年7月19日
事の発端は杉田水脈氏が新潮45で主張したコラムだ。「「LGBT」支援の度が過ぎる」というタイトルのコラムでは、「LGBTは生産性がないから税金で支援する必要がない」と書いてあるというのだ。しかも上の写真の通り、杉田水脈氏は「全文読んで批判しろ」とのたまっている。ということで実際に新潮45を買って、杉田水脈氏のコラムを精読して確認してみた。そして、それを読んでの私は杉田水脈氏は明白に知的レベルが低いという結論に達した。その根拠を以下に整理してみよう。
件のコラムは新潮45の8月号のp57に掲載してある。その全文は20段落の短い文章だ。本当は全文を引用したいがさすがに著作権に問題があるので、全文を精読して全段落を要約した。その内容は以下の通り。数字は段落番号だ。
「LGBT」支援の度が過ぎる
- LGBTの報道が増えている
- 朝日新聞のLGBTの報道姿勢には反対だ
- LGBTを認めようという報道が増えている
- LGBTは本当に差別されているのか疑問だ
- 日本は同性愛には寛容だ
- 日本と欧米は同性愛に対する姿勢が違う
- LGBTの人は社会差別より身内の理解がないのが苦しいらしい
- 身内の理解が得られればLGBTの人は日本では幸せ
- この段落は論理構成がめちゃくちゃで要約不可能。突然教育の話が出てきたり、生きづらい世界だとか、行政が動くと税金がかかるとか、朝日新聞反対とかいろいろ言っていて支離滅裂
- 子供が増えるのに税金を使うのは賛成だが、増えないことに使うのは反対。朝日新聞たたき。LGBTは生産性がないから税金使うな
LGBとTを一緒にするな
- T(トランスジェンダー)は気の毒だが、ゲイやレズは気の毒じゃない。それらを一緒くたにするな
- この段落は論理構成がめちゃくちゃで要約不可能。異性愛こそ普通と主張したいのかな?前段落で配慮したはずのトランスジェンダーに対する批判とも読める
- 朝日新聞たたき
- この段落は論理が飛躍して要約不可能。LGBTが自由に制服を選べる話題からトイレの話題に飛躍する
- 支離滅裂。保守的なアメリカという表現が突然あらわれる
- 引き続き支離滅裂。保守とリベラルの話題からトイレの話題に飛躍
- 異性愛こそ正常
- オーストラリアやNZ、ドイツ、デンマークでは性別の表現が58種類もあり理解できない。異性愛こそ正常
- ペット婚とか親子婚とかに話題が飛躍し支離滅裂。多様性反対、異性愛こそ正常。
- 多様性反対、朝日新聞たたき
以上が衆院議員の杉田水脈氏の精読して要約した内容がである。目立つのが論理の飛躍、支離滅裂さ。そして我が目を疑ったのは後半の第五段落の「保守的なアメリカ」という表現だ。オバマ政権がトランスジェンダーに配慮し、心の性に応じてトイレや更衣室を使えると通達を出したら、保守的なアメリカは大混乱したと杉田水脈氏は書いている。大事なことなのでもう一度書くが、「保守的なアメリカ」とアメリカを一言を片付けている。しかしアメリカや世界史の勉強をすれば分かるが、アメリカは「保守的」などという一言で表現しきれるものではない。大まかには北部はリベラルで、南部は保守的で、さらに見ると西北部はリベラル、西南部はヒスパニック、東南部は保守、東北部はリベラルと保守というように極めて複雑な国家だ。ーーこの辺りは「11の国のアメリカ史」に詳しく書いてある。杉田水脈氏はこれだけ複雑なアメリカを自身の主観に基づいて「保守的なアメリカ」と一言で恣意的に表現しているのだ。
さて、一番の問題発言の文章についてだ。前半の第十段落で杉田水脈氏はこう書く。この段落は全文引用する。
例えば、子育て支援や子供ができないカップルへの不妊治療に税金を使うというのであれば、少子化対策のためにお金を使うという大義名分があります。しかし、LGBTのカップルのために税金を使うことに賛同が得られるものでしょうか。彼ら彼女らは子供を作らない、つまり「生産性」がないのです。そこに税金を投入することが果たしていいのかどうか。にもかかわらず、行政がLGBTに関する条例や要項を発表するたびにもてはやすマスコミがいるから、政治家が人気とり政策になると勘違いしてしまうのです。
ここで「生産性」という言葉の定義を再確認しよう。大辞林から引用する。
生産のために投入される労働・資本などの生産要素が生産に貢献する程度。生産量を生産要素の投入量で割った値で表す。
杉田水脈氏は「LGBTは生産に貢献せず社会の役に立たないから、そんな人に税金を使うのはもったいない」と断言している。この文章は最近ニュースになっている別の事件を思い起こさせる。相模原障害者施設殺傷事件を起こした植松聖被告の発言だ。「人ではないから殺人ではない」と主張している。なんか杉田水脈氏の「生産の役に立たないから税金投入はもったいない」という主張と論理構成が似ているではないか。
もうひとつ、私が注目したのは前半の第九段落。この段落は論理構成がめちゃくちゃで要約不可能と書いた段落だ。ここも全文を引用する。
リベラルなメディアは「生きづらさ」を社会制度のせいにして、その解消をうたいますが、そもそも世の中は生きづらく、理不尽なものです。それを自分の力で乗り越える力をつけさせることが教育の目的のはず。「生きづらさ」を行政が解決してあることが悪いとは言いません。しかし、行政が動くということは税金を使うということです。
何も考えず読むと、「ふーん」と思うが、冷静に読むとこの段落の主張は支離滅裂で意味がわからない。冷静に各段落を分析して要約してみよう。
- リベラルなメディアは生きづらいのは社会のせいと主張する
- 世の中は生きづらい
- 生きづらい世の中を乗り越えるには教育が必要だ
- 生きづらさを行政が解決するには税金がかかる
これを読んで不自然だと思わないだろうか。いきなり教育の話が出てくるが、その前後と何も繋がりがないのだ。この段落の文意は意味がわからないというほかない。杉田水脈氏の支離滅裂さは他の段落でも確認できる。例えば後半の第一段落では、「LGBとTを一緒にするな」とトランスジェンダーには一定の理解を示している風を装っているが、その前の段落では「LGBTに税金を使うのはもったいない」とトランスジェンダーも社会の役に立たないと主張し、後の段落では「異性愛こそ正常」と主張しトランスジェンダーに配慮した前段落を打ち消している。
こんな支離滅裂な文章を平気で公表している杉田水脈氏は衆院議員なのだ。
まとめ
衆院議員杉田水脈氏の文章は全体に支離滅裂ながら、以下のように要約される。
- 私は保守派だから、リベラルの朝日新聞は嫌いだ
- 異性愛こそ正常だ
- 多様性は理解できないから反対だ
「性別に関するいろいろな表現が多すぎて世の中が複雑すぎる。私には理解できない。もっと単純に異性愛だけでいいじゃないか、それ以外の人は社会の役に立たない。」と書いてあるのだが、複雑なことを理解しようとしない杉田水脈氏の知的レベルは尋常でない低さである。論理学の基礎のかけらもないのは明白だ。
作家の佐藤優氏は「自身の見たいようにしか世界を見ようとしない姿勢」を反知性主義と表現しているが、「保守的なアメリカ」と一言で表現するあたり、まさに杉田水脈氏の姿勢は反知性主義そのものだ。この人の論理からすると子供のいない安倍総理夫妻も社会の役に立たないことになる。
衆院議員という立場にありながら公然とこんなヘイト表現をするなんて許されるはずがない。なぜなら、杉田水脈氏は極端な保守という立場を売りにして支持を集め自身の利益にし、その利益のために平気で弱者を攻撃するからです。ぼくは思う。この杉田水脈氏が衆院議員で、このような人に議員収入が国の税金から支払われていることこそ、税金の無駄遣いだと。