いっときヒアリが怖いからとかいう理由で、布団を外に干すのが怖いというバカチンがいましたね。いや、今もそういう人いそうですが。しかし実際にヒアリがどの程度日本にいるのか、っていうことを考えると、その人の布団にヒアリが入り込んでその人に害をなす確率は限りなくゼロに近い。それより布団を干さない不利益のほうがはるかに大きいでしょ、明らかに。ちなみにハチに刺されて死んだ日本人は、2016年は19人です。あれだけたくさんいるハチでも、刺されて死んだ人は1年で19人です。
わたしたちは普段接している情報の影響を受けやすいのです。過剰なヒアリの脅威を煽る報道にばかり接していると、その脅威を実際以上に評価してしまう。人間にはそういう性質があるのは間違いないですが、だからこそ事実に基づいた判断をしようというのが『ファクトフルネス』に書かれている趣旨です。この本に書かれていることがちゃんと理解できれば、バカチンな人はバカチンを卒業できます。バカチンでない人は、より賢くなれるかもしれない。『ファクトフルネス』極めて平易な表現で書かれているので、誰でも読めます。これを読んで分からないという人がいれば、深刻な読解力不足なので現代文などでもっと勉強したほうがいいです。
『ファクトフルネス』の要約
あなたは貧しい国や地域というと、どういう国を思い浮かべるだろう?ソマリア?中国の奥地?アフガニスタン?シリア?あなたのイメージに基づいていろいろな国が思い浮かぶと思います。多くの人が小学校だか中学校で南北問題について習ったと思います。これについてざっくり言うと、北半球が富み、南半球が貧しいということを意味していて、貧しい地域に済む人の多くは飢餓状態で、不衛生で、乳児死亡率が高く、ろくな仕事がない。データを見る限り、たしかに、こういう認識は20〜30年くらい前までは正しかったようです。しかし、そんな状況認識はもう過去のものとなりました。発展途上国だと思われている地域の多くの人が近代的な医療の恩恵に預かり、いまや女子の就学率は60%にのぼり、飲水は衛生です。
統計データによると、世界は2つに分断されているわけではなく、1ドルの生活 10億人、4ドルの生活、30億人、16ドルの生活 20億人、32ドルの生活 10億人の4レベルに分類されています。
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20190321/k10011855631000.html
くしくも日本の幸福度が発表されたばかり。日本は58位らしい。これどう思います?私はけっこう正しいと思います。別のデータを見てみましょう。一人当たりのGDPです。下記データは2017年のもので、日本は25位です。一部の人が毛嫌いしている韓国と4位しか違わない。人口の多さと過剰労働で全体のGDPが多い
だけで、一人あたりだとこんなもんです。
<注記>
SNA(国民経済計算マニュアル)に基づいたデータ
<出典>
IMF – World Economic Outlook Databases (2018年10月版)
わたしたち日本人は自分が思っている以上に貧しい。外人が日本に旅行にきて、「あ、日本人はこんな程度か」と思っているかもしれない。日本人は金持ちという認識も、いつまでも自分で思っているだけで、世界の認識とずれている。そういう姿勢はファクトフルネスではないのです。そして、さらにビックリすることがある。
驚くべきは学者や研究者などもこの誤認識をしていたということだ。
著者は色々な機会で様々な人に発展途上国の女子の就学率や、衛生状態を質問した。そしたら、研究者でもまともに答えられた人はほとんどいなかったのだ。ここから言えるのは、どんなに教育を受けた人であっても、一度こうだと植えつけられた情報は、簡単に書き換わらないということでしょう。私たちには本質的にそういう性質があるんです。
メディアについて
飛行機が無事に着陸したことはニュースにならない。どこかの小学校で子どもたちが無事に登下校できたこともニュースにならない。でも下記のURLの通り、貨物機同士が衝突しただけでニュースになる。
https://news.yahoo.co.jp/pickup/6317918
子どもが誘拐されたり子どもの列に車が突っ込んだら大きなニュースになります。このことから、報道においては情報の非対称性が大きいと分かるでしょう。滅多に起こらないことばかりが報道されるのです。
ちなみに2016年、飛行機4000万機のうち死亡事故がおきたのは10機で、確率にすると0.00025%(100万分の2.5)です。宝くじ1等2億円が当たる確率は1000万分の1です。飛行機事故に遭うより、交通事故に遭う確率のがほうがはるかに高い。その交通事故でさえ、交通事故で亡くなった人ってそうそうあなたの周囲にいないでしょ。私たちは日々接するメディアの報道によって、脅威を過剰に評価してしまうのです。
世界は、実際より恐ろしく見える。メディアや自身の関心フィルターのせいで、あなたのもとには恐ろしい情報ばかりが届いているからだ。
p159
所感
著者の主張は明快だ。「事実に基づいて世界を認識をしよう」というもので、この趣旨は本書の通奏低音として一貫している。例えば統計データによると人口爆発は起きず頭打ちになるそうです。だからダン・ブラウンのインフェルノのゾブリストのように、人口爆発を危惧して疫病を流行らせようという主張はそもそもは成立しません。ゾブリストの主張はまさに事実誤認に基づいているからです。
「事実に基づいて世界を認識をしよう」というこの姿勢を日常のいろいろ場面にも適用できるでしょう。事実を確認せず思い込みで仕事をして失敗したというような経験は誰しもあると思います。例えば、システムの仕様を知り尽くしているつもりでも、それが何年か前の記憶であれば曖昧なものかもしれません。だから手間をかけてでもいったん調査すればいい。そうすれば無用なトラブルを未然に防ぐことができます。
知識をアップデートしよう
あるいは、営業職の人なら、かりに成績が良くてもその営業手法がいつまでも続くとは限りません。世の中の状況は刻一刻と変わるのだから、昔の成功体験をベースにしてずっとやり方を変えないのは危ないのです。iOSのアップデートは毎年行われているけど、ある一人に一度深く刻まれた知識や経験はなかなかアップデートされません。ぼくたちは自分の知識をアップデートする必要があるのです。
併せて読みたい
『ファクトフルネス』を読むと『暴力の人類史』と『ファスト&スロー』を同時に読んでいるような感覚を覚える。この3つの著作には共通するものがあって、いずれも統計データを重視し、科学的な姿勢が貫かれているという点です。日々接するニュースを見ると、フェイクニュースが選挙の結果が左右されたとか、悲劇的なテロ攻撃があったとか、悲惨な世の中であるという側面を強く感じてしまうけど、実際にはそうではなくて、世界はすごく良くなっている、平和な方向に向かっているのです。風の谷のナウシカとか進撃の巨人とかエヴァンゲリオンみたいなディストピアは来ないだろうな、って思いますよ。
情報戦争を生き抜く 津田大介著 朝日出版
SNSにフェイクニュースが席巻する現代の情報戦争の事例を数多く紹介している。いろいろなメディアが自社の利益を極大化するために、事実を無視してフェイクニュースやヘイト表現をばらまいている。ドイツではヘイト表現は違法になったけど、Facebookなどのメディアは罰金を恐れてヘイト表現でないものまで削除してしまっている。まだ法の運用に課題はあり現場は混乱しているそう。必読です。
暴力の人類史
著者のスティーブン・ピンカーは10万人当たりの死亡の原因を統計データで見てみると、現代は歴史上かつてないほど平和な時代だと分かると主張する。2015年に一番知的刺激を受けた本。とにかく面白い!【書評】暴力の人類史 スティーブン・ピンカー
ファスト&スロー
ザ定番です。人間は基本的にめんどくさがりだよ、ということを色々な事例で説明してくれます。必読です、まじで。
- おすすめ度★★★★★
- お買い得度★★★★★
- 読み応え度★★★
- 一気読み度★★★★